失敗しないパーパス策定の進め方|担当者が最初にやるべき「5つの合意形成」

立派な戦略があっても現場が動かないのは、ブランディングを「正解作り」と誤解し、社員の納得感を置き去りにしているからです。コンサル丸投げや密室での決定は、現場の「総論賛成・各論反対」や形骸化を招く最大の要因です。

 

成功の鍵は、きれいなアウトプットではなく「プロセス」の設計にあります。外部パートナーを「先生」ではなく「伴走者」と定義し、社員を巻き込んだ共創ワークショップで当事者意識を醸成することです。

「自社のパーパスを策定せよ」

経営層からそんな指示を受け、頭を抱えていませんか?

あるいは、プロジェクトを立ち上げたものの、「どんな言葉にするか」という議論ばかりが先行し、意見がまとまらずに停滞しているケースも少なくありません。

多くの企業がパーパス(社会的な存在価値)の重要性に気づき始めています。しかし、「パーパスを作ったが浸透しない」「きれいごとで終わってしまった」という失敗事例も後を絶ちません。

失敗するプロジェクトには共通点があります。

それは、「何を決めるためのプロジェクトなのか」という前提が、メンバー間でズレたまま進んでしまうことです。

いきなり言葉を考え始めてはいけません。成功の鍵は、制作に入る前の「設計図」にあります。

本記事では、パーパス策定を成功させるために、担当者が最初に社内で握っておくべき「5つの合意形成」について解説します。

これは、プロジェクトの羅針盤となり、迷走を防ぐための重要なステップです。この記事を最後までお読みいただければ、パーパス策定における手戻りや失敗のリスクを最小限に抑え、確信を持ってプロジェクトを進められるようになるはずです。

なぜパーパス策定は失敗するのか?|陥りがちな「3つの罠」と本質的な誤解

そもそも、なぜ多くの企業でパーパス策定が難航したり、作った後に形骸化してしまったりするのでしょうか。

その原因は、多くの人が陥りやすい「誤解」と「準備不足」にあります。「パーパスは意味がない」と言われないためにも、以下の失敗パターンを避ける必要があります。

失敗パターン1:実態のない「言葉遊び」に終始してしまう

多くの現場で起きがちなのが、綺麗な言葉や耳心地の良いフレーズを作ることをゴールにしてしまう現象です。

「未来を創る」「世界を変える」「笑顔のために」

これらは素晴らしい言葉ですが、どの企業でも言えてしまう言葉でもあります。

「カッコいいけれど、実態と乖離している」
「総花的で、他社と変わらない」

こうしたパーパスが生まれてしまうのは、策定の目的が「良いコピーを書くこと」にすり替わってしまっているからです。これでは現場の共感を得られず、浸透もしません。

失敗パターン2:パーパスの「定義」をキャッチコピーと混同している

ここで改めて、言葉の定義を確認しておきましょう。

そもそもパーパスとは、単なるキャッチコピーやスローガンではありません。それは、企業が社会において「なぜ存在するのか」を問い直し、すべての企業活動の判断基準となる「社会的な存在価値」のことを指します。

また、ブランディングとは「“認識のされ方” を意図的にデザインし、そこに感情移入を生み出す取り組み」であり、この企業(ブランド)を選びたい』という感情移入をつくる取り組み」のことを指します。

つまりパーパス策定とは、その企業が社会から「どう認識され、どう愛されるか」というブランディングの核(コア)を作る行為なのです。

失敗パターン3:事前の合意不足が招く「手戻り」と「形骸化」

前提条件を握らずに進めると、どうなるでしょうか。

プロジェクトの最終段階で経営層から「イメージと違う」とちゃぶ台返しが起きるかもしれません。あるいは、策定後に現場から「また新しい標語ができただけ」と冷めた目で見られてしまうかもしれません。

これを防ぐために必要なのが、次章で紹介する「事前の合意形成」なのです。

失敗しない進め方の鉄則|担当者が着手前にやるべき「5つの合意形成」

ここからが本題です。

プロジェクトを本格始動させる前に、経営層やプロジェクトメンバーと以下の5点について合意形成を図ってください。

担当者が着手前にやるべき「5つの合意形成」

合意1【定義】:それは「スローガン」か「判断基準」か

まず決めるべきは、今回策定するものの「役割」です。

 

  • A:対外的な広告コピー(スローガン)
  • B:組織の意思決定に使われる価値観基準(ジャッジメントコード)

 

多くの企業がここを曖昧にしたまま進めてしまいます。

ASAKOとしては、後者の「価値観基準」として策定することを強く推奨しています。なぜなら、価値観に紐づかない言葉は、ブランドとしての感情移入を生まないからです。

「言葉としては美しいが、現場の判断には使えない」ものではなく、「迷った時に立ち返る価値観」を目指すのかどうか。ここを最初に握っておきましょう。

合意2【主語】:誰のパーパスなのか(企業全体・事業部・ブランド)

「私たち」とは誰を指すのでしょうか?

 

  • ホールディングス全体なのか?
  • 特定の事業会社なのか?
  • 一つのプロダクトブランドなのか?

 

特にBtoB企業の場合、事業部ごとに顧客も提供価値も異なるケースが多くあります。

この「主語の範囲」を明確にしないと、抽象度が高すぎて誰にも刺さらない言葉になってしまいます。

範囲を広げれば広げるほど言葉は抽象的になり、狭めれば具体的になります。どのレイヤーの「存在価値」を定義するのか、範囲を明確にしましょう。

合意3【対象】:誰に向けたメッセージか(採用・社員・投資家)

パーパスはステークホルダー全方位に向けたものですが、策定のフェーズにおいて「誰の心を最も動かしたいか」という優先順位は重要です。

 

  • 採用市場に向けて: 求職者を惹きつけたいのか?(採用ブランディング)
  • 既存社員に向けて: エンゲージメントを高めたいのか?(インナーブランディング)
  • 投資家に向けて: ESG経営の姿勢を示したいのか?(IR・サステナビリティ)
  • 顧客に向けて: 選ばれる理由を作りたいのか?(マーケティング)

 

ターゲットによって、選ぶべき言葉の温度感や方向性が変わります。

「今回は特に採用競合に勝つために、求職者の心に火をつける言葉にしたい」といった合意があれば、議論の軸が定まります。

合意4【プロセス】:トップダウンか、ボトムアップか

策定プロセス自体も、インナーブランディングの一環です。

 

  • トップダウン型: 創業者の想いや経営の意思を強く反映させる(スピード重視)
  • ボトムアップ型: 若手や現場社員を巻き込み、自分ごと化を促す(浸透重視)

 

どちらが良い・悪いではありません。

重要なのは、組織のカルチャーや現在の課題に合わせて選択し、「今回はこの進め方で行く」と全員が納得していることです。

ボトムアップで進めると決めたなら、経営層は途中で口を挟まず、出てきた意見を尊重する覚悟が必要です。逆にトップダウンなら、決定後の浸透施策を厚くする必要があります。

合意5【実装】:「作った後」をどこまで約束するか

最も重要なのがここです。「作って終わり」にしないために、どこまで実装するかを事前に握ります。

 

  • Webサイトに載せるだけでいいのか?
  • 人事評価制度に組み込むのか?
  • 新規事業の採択基準にするのか?
  • ロゴやVI(ビジュアルアイデンティティ)の変更まで視野に入れるのか?

 

「作った言葉によって、何を変えるのか」。

この覚悟を最初に合意しておかないと、言葉が出来上がった後に「で、これをどうするんだっけ?」という空白の時間が生まれてしまいます。

パーパス策定の具体的な進め方|ASAKO流3ステップ

5つの合意形成ができたら、実際の策定フェーズに入ります。ここではASAKOが推奨する基本的な3ステップをご紹介します。

各フェーズの目的とゴールは以下の通りです。

パーパス策定の具体的な進め方

ステップ1 発掘:事実と想いを掘り起こす

まずは「自社のDNA」を掘り起こす作業です。

創業の精神、過去の成功体験、顧客からの感謝の声、社員の不満など、ポジティブ・ネガティブ両面から情報を集めます。

ここでは「カッコいいこと」を考える必要はありません。泥臭い事実の中にこそ、その企業らしい原石が眠っています。

ステップ2 言語化(Verbalize):社会への提供価値へ変換する

集めた要素を、「自社がやりたいこと(Will)」と「社会から求められていること(Need)」の重なるポイントで言語化します。

ここで重要なのは、独りよがりな主張ではなく、社会にとってどのような存在価値があるか」という視点で翻訳することです。

「我々はこれが得意だ」ではなく、「我々がいることで、社会はこう良くなる」という視点への転換が、パーパス策定の肝となります。

ステップ3 実装:組織と事業に組み込む

策定したパーパスを、具体的な形に落とし込んでいきます。

ロゴやWebサイトといった目に見える部分だけでなく、日々の業務フローや評価基準、採用基準といった「仕組み」に実装していきます。

ここまでやって初めて、ブランディングは「感情移入」を生み出す力を持つようになるのです。

パーパス策定に関するよくある質問(FAQ)

Q1. パーパス策定プロジェクトには、どのくらいの期間が必要ですか?(スケジュール目安)
A. 一般的には「3ヶ月〜6ヶ月」を目安にしてください。
言葉を作るだけであれば数週間で可能ですが、最も重要なのはプロセスにおける「対話」と「納得感の醸成」です。
経営層へのヒアリング、社員へのアンケート、ワークショップなどを丁寧に行い、組織としての腹落ち感を高めるためには、最低でも3ヶ月の期間を設けることを推奨しています。

Q2. 「ミッション・ビジョン」や「企業理念」とパーパスの違いは何ですか?
A. 最大の違いは「社会視点(Social Good)」が含まれているかどうかです。
従来のミッションや理念は「自分たちが何をしたいか(Will)」という自社視点が中心になりがちです。
対してパーパスは、「社会においてなぜ存在するのか(Social Value)」という、社会からの要請や貢献の視点が強く含まれます。
ただし、言葉の定義にこだわりすぎるよりも、「自社にとって一番しっくりくる体系(MVVやパーパスなど)」を定義し、社内で統一することの方が重要です。

Q3. 社内メンバーだけで策定できますか? 外部パートナー(コンサル)は必要ですか?
A. 社内だけでも可能ですが、外部パートナーを入れることで「視座」と「質」が変わります。
社内メンバーだけの場合、どうしても「社内の政治や忖度」が働いたり、既存事業の延長線上でしか発想できなかったりする傾向があります。
外部の専門家を入れるメリットは、客観的な第三者視点が入ること、そしてプロの言語化技術によって「想い」を「刺さる言葉」に昇華できる点にあります。

Q4. プロジェクトは若手社員中心で進めるべきでしょうか?(誰が決めるべきか)
A. 策定プロセスへの参加は推奨しますが、「決める責任」は経営層が持つべきです。
若手主体のプロジェクトは、社内の活性化や自分ごと化には非常に有効です。
しかし、経営層が「若手の自主性に任せる」と言って丸投げしてしまうと、最終的な経営戦略とのズレが生じ、採用されないケースが多発します。
ボトムアップで意見を吸い上げつつも、最終的な決定と責任は経営陣がコミットする体制が理想です。

Q5. 策定したパーパスが「形骸化」しないためにはどうすれば良いですか?(浸透施策)
A. 策定と同時に「評価制度」や「行動指針」への落とし込みを設計してください。
ポスターを貼ったり唱和したりするだけでは、パーパスは定着しません。「そのパーパスを体現した人が評価される仕組み」や「迷った時にパーパスを基準に判断する業務フロー」など、具体的な実務の中に組み込むことが、形骸化を防ぐ唯一の方法です。

まとめ

パーパス策定プロジェクトは、単に良いコピーを書く作業ではありません。

それは、「私たちは何者で、どこへ向かうのか」という問いに対し、組織としての共通解を導き出す経営活動そのものです。

まずは「5つの合意形成」から始めてみましょう。

今回ご紹介した5つのポイントについて、まずはプロジェクトメンバーや経営層と話し合ってみてください。

これらが明確になるだけで、プロジェクトの解像度は劇的に上がり、迷いは消えていくはずです。

正しく設計されたパーパスは、組織を強くし、迷った時の道しるべとなるのです。

「5つの合意形成」や「策定プロセス」は、社内の利害関係が複雑に絡むため、内部メンバーだけで進めるのが難しい場合も少なくありません。

「作って終わり」にせず、組織が本当に動き出すためのパーパス策定。現状の課題感の整理からでも構いませんので、まずはお気軽にご相談ください。

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著者プロフィール

羽田 康祐

羽田 康祐 (はだ こうすけ)

ビジネス開発局

産業能率大学大学院経営情報学研究科修了(MBA)。 日本マーケティング協会マーケティングマスターコース修了。外資系コンサルティングファームなどを経て現職。 「外資系コンサルティングファームで培ったロジック」と「広告代理店で培った発想力」のハイブリッド思考を武器に、メーカー・金融・小売り等、幅広い業種のクライアントを支援。マーケティングやブランディング、ビジネス思考をテーマにしたブログ「Mission Driven Brand」を運営。 ハンドルネームはk_bird。著書にロングセラー『問題解決力を高める「推論」の技術』『本質をつかむ』『ブランディングの教科書』『パーパスブランディングの教科書』がある。

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