ファストカーボンは中小企業視点で生まれた
ディエスジャパンは1985年、オフィス向けレーザープリンター向けのリユーストナーカートリッジの製造、販売を主軸とする企業として創業しました。長年にわたりオフィス環境のコスト改善にて様々な企業を支えてきましたが、コロナ禍と急速なペーパーレス化の影響で、2020年以降で主軸商品の売上が約15%減少。事業転換の必要性に迫られる中、北條社長のもと脱炭素経営を新たな成長軸として掲げ、環境分野への挑戦を始めました。社内の意識改革を進めつつ、地域や社会と共生する企業を目指し脱炭素事業に本格参入。大阪の「OZCaF(OSAKAゼロカーボン・スマートシティ・ファウンデーション)」での活動を通じ、CO₂排出量を「見える化」するツール『ファストカーボン+』の共同開発を推進し、中小企業でも取り組みやすい脱炭素経営支援の仕組みを構築しています。
上田:ESGを意識するようになったきっかけは、どんな出来事だったのでしょうか。
北條:ESG領域への挑戦は、まさにゼロからのスタートでした。私は前職で17年間IT業界に勤め、2015年にディエスジャパンに入社。2019年に社長へ就任しました。ちょうどその頃、コロナ禍とペーパーレス化の進行で事業が大きな打撃を受け、「このままでは会社の未来がない」と危機感を抱きました。そこで、これまで掲げてきたミッション・ビジョン・バリューを刷新し、地域や社会との共生を軸に据え直して、環境事業への転換を決意しました。
当社はもともとリユーストナーや古紙回収など、環境に関わるビジネスを手がけており、「環境」は身近なテーマでした。再生可能エネルギーや脱炭素市場について学ぶうちに、新たな成長の可能性を確信し、印刷消耗品の製造業にとどまらない新たな柱として脱炭素事業を位置づけました。
上田:構想の段階から、すでに「環境」を核にしたビジョンがあったのですね。
北條:はい。新規事業の構想を固めるため、事業構想大学院大学に1年間通いました。経営者同士が課題を持ち寄り、議論を重ねる中で、「見える化プロジェクト」というアイデアが生まれました。また、大阪のJ3チーム・FC大阪主催の脱炭素セミナーで「OZCaF」と出会ったことが大きな転機になりました。
当時のOZCaFの活動は、主に自治体主導で啓発に注力していましたが、その先は民間企業の実践的な行動を後押しする具体的なスキームへと、活動領域を広げていく段階にありました。そこで、事業構想大学院大学でのアイデアをもとに、OZCaF内に実働型プロジェクトチームを立ち上げることを提案。OZCaF内でも賛同を得て、理事企業として参画することになりました。
上田:これが『ファストカーボン+』誕生のきっかけになったのですね。
北條:はい。この実働プロジェクトから、現在の『ファストカーボン+』開発が具体化しました。当時OZCaFは当初独自のCO₂排出量算出ツールを保有していましたが、操作性、機能性に課題があり、中小企業が自社で使いこなすにはハードルが高かったのです。
そこで、私たちは販売現場で培ったユーザー視点を活かし、共同開発を推進。その結果、脱炭素の専門知識がない方でも会計データからCO₂排出量を算定できる『ファストカーボン』が誕生し、中小企業が脱炭素経営に取り組みやすい環境を実現しました。
会計データからCO₂排出量を可視化する
カーボンニュートラルへの取り組みが世界的に加速する中、サプライチェーン全体での排出量開示が求められています。中小企業でも「取引先からCO₂排出量の算定を求められた」という声が増え、脱炭素経営はもはや大企業だけの課題ではありません。しかし実際には、「何から始めればよいか分からない」「専門知識がない」と悩む企業も少なくありません。
そこで登場したのが、会計データをアップロードするだけで排出量を自動算出できる革新的ツール『ファストカーボン』です。専門知識は不要で、誰でも簡単にCO₂排出量を可視化できます。北條社長は、見える化経営に新たな気づきをもたらすと語ります。
上田:会計データからCO₂排出量を算出するという仕組みは非常に新しい発想ですね。国内では初の試みではありませんか。
北條:はい。日本国内では初の仕組みです。もともと国が公表している「排出係数一覧」があり、円をCO₂に換算するという考え方自体はありました。ただ、これまでの日本では「重量ベース」で測定するのが一般的だったんです。金額をCO₂に換算していいのかと疑問を持たれる方も多いのですが、環境省のガイドラインにおいても、金額ベースでの算定は正式な手法の一つとして認められています。実際、Q&A等でも重量ベースと金額ベースを使い分けることは「何ら問題ない」との見解が示されているんです。それでも、日本企業は「きっちり正確に測らなければ」と考える傾向が強く、その結果、作業負担が増して取り組みが進まないケースが多いんです。
上田:なるほど。日本らしい正確さが、逆にハードルになっているのですね。
吉田:物流企業では、排出量を正確に算出しようとすると、基幹システムの改修が必要になると聞いたことがあります。それは現実的ではありません。だからこそ、既存の会計データを活用する「円換算」のアプローチが有効ですね。また、導入企業が増えれば、「他社がやっているならうちもやろう」という流れも生まれます。
北條:まさにその通りです。大手が導入していると安心するのが日本的ですが、早く導入した企業ほど社内の見える化が進み、改善に着手できます。難しいことではないんです。
上田:実際に御社で導入されてみて、どんな変化がありましたか?
北條:驚きが多かったですね。燃料費や電気代が多いのは想定していましたが、「出張・交通費」が想定以上に高かったんです。経費の中でも交通費は細分化されにくく、誰がどれだけ移動しているかが見えづらい。このツールで可視化した結果、役員や管理職クラスが頻繁に出張している実態が浮き彫りになりました。もちろん業務上の出張であれば問題ありませんが、「その移動は本当に必要か?」という議論が起こり、出張申請ルールの見直しにつながりました。
上田:まさに可視化の効果ですね。
北條:はい。当社はSBT認定(科学的根拠に基づく排出削減目標)も取得しているので、「誰が、どこで、どれだけ排出しているか」を把握し、どう減らすかを議論することが重要です。監視のためではなく、改善のための見える化として社員の理解も得られています。
上田:なるほど、社内の理解が深まることで、社員のエンゲージメントも向上しますね。
北條:以前は社員からできない理由ばかり出ていましたが、今では率先して、どのように結果を活用すべきか、提案が出てくるようになりました
上田:他のツールと比べたときの魅力はどんな点でしょう
北條:やはりコストパフォーマンスです。高機能なツールは多いですが、中小企業にとって重要なのは見える化の一歩を踏み出すこと。ファストカーボンはその入り口として最適なんです。導入のしやすさと使いやすさが評価され、展示会や広告を通じて多くの企業から問い合わせをいただいています。
上田:今後は、「会計データから排出量を算出する」という考え方が、脱炭素経営の新しいスタンダードになりそうですね。
「意識」は広がったが、実践はこれから
上田:この3年間で、SDGsや脱炭素に関する潮流はどのように変化しましたか?
北條:SDGsという言葉自体はすっかり一般的になりました。企業の担当者がSDGsバッジをつけ、「環境意識」や「ダイバーシティ」といった言葉を使う場面も増えています。ただ、実際に行動にまで落とし込めている企業はまだ少ないのが現実です。本来SDGsは企業ではなく、人の行動を変えるための指針。一人ひとりが自分ごととして捉え、日常の中でどんな行動をとるかが重要です。
上田:とはいえ、中小企業ではまだ浸透していない印象もあります。
北條:そうですね。日本は全体としてかなり遅れています。原因の一つは、国が示すロードマップが大企業向けに偏っていること。中小企業には「自分たちは何年までに、どのくらい削減すればいいのか」という明確な指標がないんです。そのため、必要性は感じていても義務化にならないと動けない状態が続いています。
現時点で動きが見られるのは、ヨーロッパなど海外取引のある製造業が中心です。大企業からの報告要請に対応する形で排出量の算定に取り組み始めていますが、実際に削減まで踏み込めている企業はごく一部にとどまっています。
上田:最近は「まずスコープを測れ」という声が多い印象ですが……。
北條:本当にその通りです。ただ、「スコープ1・2・3」という言葉自体があまりにも難解なんです。
私はこの分野に3年以上関わっているので理解できますが、初めて聞く方は「何それ?」と拒絶反応を示してしまう。日本語で「ガソリンの使用量」「電気代」などと言えば誰でも理解できるのに、カタカナ用語ばかりが先行してしまっている。その結果、言葉の壁が行動へのブレーキになってしまっているんです。
上田:確かに、専門用語が浸透の妨げになっていますね。その点、『ファストカーボン』は説明も平易で、専門部署がなくてもすぐに取り組める点が大きな魅力だと感じます。
北條:ありがとうございます。『ファストカーボン』は第三者機関の確認も受けていますので、SBT認定の申請や対外開示にも活用可能です。また、外部発信に使えるレポートを作成するプランも用意しており、企業の信頼性向上にもつながります。
上田:こうして「見える化」を起点に、ESG認証の取得やブランディング活動へとつなげていくことが重要ですね。可視化したデータを活用し、ESG評価や広報展開までを一気通貫で進めることで、企業価値をさらに高めることができます。
さらに、ASAKOが開発したESG評価システム『シナジープレミアム』と連携すれば、CO₂排出量の可視化からESG認証の取得、そしてプレジデントオンラインでの1年間のPRまでをワンストップで支援可能です。中小企業が持続可能な経営を実現するうえで、心強い伴走者となるはずです。
ESG経営が業績アップの最短距離になる
上田:ディエスジャパンのESG評価はAですが、何か取り組みの秘訣はあったのでしょうか。
北條:実は特に意識して取り組んではいないんです。経営者は「何を改善すれば会社が良くなるのか」を理解しながら経営することが重要です。私が社長に就任した6年前。当時は業績が悪化傾向にあり、営業利益も芳しくありませんでした。商品力頼みの体制や評価制度の形骸化、人材育成の遅れ――課題の多くは人と組織にありました。
それらを見直す中で気づいたのが、ESGスコアリングの評価項目と、自分が経営者として感じていた課題が一致していたことです。ESGは外部評価のためだけでなく、企業を成長させるための内省の道具にもなる。特に二代目や後継経営者にとって、「何から取り組むべきか」を整理する有効なアプローチになると思います。
上田:なるほど。外部評価だけではなく経営判断の指針にもなるわけですね。それは意外と知られていない使い方かもしれませんね。
北條:まさにその通りです。ESGは経営の根幹として、もっと企業文化に根づいてほしいと思います。課題を見える化することで、健康診断のように自然とやるべきことが見えてきます。『ファストカーボン』や『シナジープレミアム』はコストも手頃で、初めての企業でも導入しやすいのが特徴です。
上田:最後に一言お願いします。
北條:私自身、経営課題を一つずつ見つけ出すのに6年かかりましたが、『ファストカーボン』を使えば、その6年分の気づきを短時間で得ることができます。数字を通じて会社の現状を客観的に見れば、次の行動が自然と見えてきます。悩むより、まず取り組むことが大切です。見える化こそ、企業変革への最短ルートだと思います。まずは小さくても一歩、見える化から始めてほしいです。