「やさしく触れていいですか」というスローガンで知られる、大王製紙のエリエール。1979年の誕生以来、トイレットペーパーや紙おむつなど、人の肌に直接触れる数多くの商品を世に送り出してきました。
そんな大王製紙が、2022年4月にスタートさせたのが「えがおにタッチPROJECT」です。コロナ禍で人との関わりが希薄になる中、「人と触れ合うことが幸せにつながる」というメッセージを社会に届ける、同社にとって初めての本格的な社会的取り組みとして始まりました。
このプロジェクトの構想と実行を裏側から支えていたのが、ASAKOです。表に出ることは少ないものの、企画の初期段階から大王製紙と伴走しながら、この取り組みを形にしていきました。
今回は、当時このプロジェクトに関わった瀬野志郎さん(以下、敬称略)と金澤真紀子さん(以下、敬称略)をお招きし、ASAKOとともに進めた「えがおにタッチPROJECT」の舞台裏について伺います。

 “ものづくり”から“心づくり”へ──エリエールが選んだ新しい社会との向き合い方 

―—そもそも、「えがおにタッチPROJECT」はどのように始まったのでしょうか? 

瀬野:2021年頃、これまで“ものづくり”にこだわって商品を提供してきたエリエールとして、社会に貢献できる新しいプロジェクトを始めようという話が社内で持ち上がりました。当時は他メーカーもさまざまな社会的な取り組みを行っていて、それらも参考にしながら、「エリエールだからこそできることは何か」をテーマに、複数の代理店と議論を重ねていました。

その中でASAKOさんから提案された「えがおにタッチPROJECT」が、私たちのブランドスローガンとも親和性が高く、「ぜひ一緒にやりましょう」という流れになったんです。

金澤:人と人が触れ合うことで、幸せホルモンのひとつであるオキシトシンが分泌され、気持ちが穏やかになったり、笑顔が増えると言われています。この「触れることが人の心にポジティブな変化をもたらす」という考え方が、「えがおにタッチPROJECT」の発想の土台にもなっています。

さらに、「えがおにタッチ」という名前には、単に“触れる”という物理的な行為だけでなく、心の温かさや幸福感が広がるイメージも込められています。人と人とのつながりを、五感を通じて表現したプロジェクト名だと思っています。

――つまり、心理的な側面も重視しているということですね。 

金澤:その通りです。ただ触れればいいという話ではなく、その人の温かさを感じたり、気持ちが通い合ったりすることが一番大切です。「笑顔が増える」というスタンスこそが、このプロジェクトの核になっています。

瀬野:私は営業畑が長く、これまでは「物を売って売り上げをつくる」仕事が中心でした。ですから、売り上げに直接つながらない社会貢献型のプロジェクトが、本当に仕事として成り立つのか。正直、最初は違和感もありました。当初は社内でも「何をやっているんだ」という声があったと思います。
ただ、大きな転機になったのは、お得意先の販売店さんにこの取り組みの趣旨を説明したときでした。「ぜひ一緒にやりましょう」と前向きに受け止めていただき、共同で企画を進めることになったんです。販売店のトップが賛同してくださったことで、社内の空気も少しずつ変わっていきました。

金澤:私はこれまでテレビCMなどの出稿に携わってきました。社会貢献活動を担当するのは初めてで、「どうやって売り上げにつながるのか」という視点は常に気になっていましたし、自分が何をすべきなのかも、最初はなかなか見えませんでした。

――それを変えたきっかけはなんだったのでしょうか? 

金澤:ASAKOさんが主導し、大王製紙主催で行われた生活者向けのオンラインイベントに参加したときです。「えがおにタッチPROJECT」の医療監修をしてくださっている先生が登壇され、その言葉や生活者に向けたメッセージを実際に聞くことで、「このプロジェクトが目指している価値」や「人の心にどう届くのか」が、自分の中でようやく腑に落ちたんです。

“売らないCM”で、心を動かしたASAKOのクリエイティブ 

2022年4月、「えがおにタッチPROJECT」は本格的に始動しました。立ち上げを記念したキックオフイベントでは、人気お笑い芸人を招いた記者発表会を開催し、「人と人が触れ合うことの大切さを、もう一度取り戻そう」というメッセージを社会に向けて発信しました。プロジェクトの活動は、大きく二つの柱で構成されています。一つは、「えがおにタッチ」という考え方を広く社会に届けるための啓発活動。もう一つは、販売店と連携して展開するタイアップ施策です。

瀬野:プロジェクトの趣旨をより多くの方に知っていただくため、3本の動画を制作し、2022年8月にチャリティー番組内のCMとして放映しました。そのときのSNSの反応が、本当に想像以上に良かったんです。
これまでも商品の感想やクレームという形で生活者の声に触れることはありましたが、「エリエールというブランドがどう受け止められているか」を、ここまで強く実感したのは初めてでした。まさにそれを狙って立ち上げたプロジェクトだったので、この方向性が正しかったと確信しました。

金澤:あのときの反響は大きかったですね。プロジェクト開始からまだ3カ月ほどで、SNSコミュニティもそれほど大きくなっていませんでしたが、SNSにはお客さまの温かい声が一気に集まりました。

瀬野:実は、そのときにいただいた反応は、今でも大切に残しています。「エリエールの商品がすごい」というよりも、「エリエールのCMで泣いた」「心が揺さぶられた」といった声が本当に多くて。そうしたコメントを目にしたとき、このプロジェクトの意味を改めて実感しました。

――動画制作にも、ASAKOは深く関わっていたのですよね。 

瀬野:実はASAKOさんには、かなり無理なお願いもたくさんしてしまいました。特に動画制作はタイトなスケジュールの中で進めていて、「ああでもない、こうでもない」と何度も意見を交わしました。
「触れ合いを取り戻すことで心が温かくなる」という、少し抽象的なテーマをどう映像に落とし込むかは本当に難しかったと思いますが、こちらの細かい要望にも丁寧に向き合っていただき、とてもスムーズに進めることができました。

金澤:エリエールはこれまで、商品広告を中心にコミュニケーションをしてきたブランドです。社会貢献活動自体は行ってきましたが、CMを制作し、放映し、さらにイベントまで含めて大きく展開するのは、ほぼ初めてに近い取り組みでした。
「商品を売るためのクリエイティブ」ではなく、「想いを伝えるためのクリエイティブ」をつくる。その点で、ASAKOさんとの仕事は、私たちにとっても新しい挑戦だったと思います。

——では、実際のアイデアづくりはどのように進んでいったのでしょうか。 

瀬野:3本の動画のうち、2本はASAKOさんからご提案いただいたアイデアでした。もう1本は、私たちが持っていたイメージを形にしてもらったものです。ASAKOさんの案は、私たちがなかなか思いつかない視点から始まっていて、「なるほど、そう来るのか」と感じることばかりでした。
たとえば、エッセンシャルタッチ篇で描かれるメッセージは、自分の人生に置き換えて共感しやすいですよね。大人になると、親とハグをすることはほとんどなくなります。でも、孫の一言でふと気づかされる。そんなエピソードには、思わず胸を打たれました。ああいう視点は、正直、自分からはなかなか出てこなかったと思います。

金澤:それが出てきたら、瀬野さんはもうCMクリエイターですね(笑)。

——残りの1本は、瀬野さんご自身のアイデアだったそうですね。 

瀬野:はい。転校生篇は、私自身の体験がベースになっています。転勤が多く、子どもを連れてさまざまな土地を移る中で、「学校でちゃんと馴染めているかな」「いじめられていないかな」と、いつも親として不安がありました。その気持ちを、ちょっとした友だちの一言で心がほぐれ、関係がつながっていくストーリーとして描いてもらいました。

金澤:あの作品も本当に良かったですよ。そういう親の視点も、このプロジェクトにはとても大切だと思います。

こども食堂をつなぐ、ふれあいスゴロク誕生の背景 

2023年度からは、平和堂やツルハドラッグなどの販売店と連携し、「えがおにタッチ PROJECT」の共同キャンペーンを本格的に展開しています。売り上げの一部は、こども食堂など「触れ合いを増やす」というプロジェクトの趣旨に沿った団体の活動に活用されています。
 

瀬野:これまで全国で7社ほどの企業さまと、複数回にわたって共同キャンペーンを実施してきました。寄付先は私たちが一律に決めるのではなく、各企業さまの意向に沿って選んでいただく形を取っています。
また、寄付の際には寄付贈呈式を実施し、地元のマスコミにもお声がけしています。金澤が司会を務め、当日や翌日にテレビや新聞で紹介されることも多く、販売店さまにとっても地域での信頼やブランド価値を高める機会になっています。

金澤:はい、私が司会をしています(笑)。こうした活動は一度きりで終わるものではなく、毎年同じ時期に第2回、第3回と継続的に実施しています。単発の寄付で終わらず、長く続く取り組みとして育てている点も、このプロジェクトの大きな特徴です。
私自身、寄付先の方々と直接お話ししたり、こども食堂を訪問したりする機会も多く、売り上げの一部がどのように使われているのかを実際に目で見ることができました。単に「寄付して終わり」ではなく、その先の現場まで知ることができたのは、とても大きな経験です。
さらに、こうした活動を通じてバイヤーの方々や商品部の方と直接お話しする機会も生まれ、プロジェクトが現場としっかりつながっていることを実感しています。

——なるほど。支援は金銭的なものが中心なのでしょうか? 

金澤:それだけではありません。もっと直接的に子どもたちを支援できないか、触れ合いの場を広げられないかという想いがありました。
「こども食堂」と聞くと以前は「経済的に厳しい家庭の子どもが行く場所」「ご飯を食べられない子のための場所」というイメージが強かったかもしれませんが、今のこども食堂は大きく変わっています。子どもだけでなく、地域の大人やひとり親世帯、さらには子どものいないおじいちゃん・おばあちゃんまでが集まる、地域のコミュニティの場になっています。
そのため「こども食堂」での遊びの時間にも自然な触れ合いが生まれる仕掛けができないか。そうした発想から、ASAKOさんには「すごろく」を提案していただきました。

 

——すごろくですか? 

金澤:はい。企画から制作まで、すべてASAKOさんと一緒に進めました。オリジナルの「ふれあいスゴロク」を提供するため全国のこども食堂に募ったところ想像以上の反響があり、最終的には抽選となりましたが、当選したこども食堂に合計740個の「ふれあいスゴロク」を寄贈しました。
制作でいちばん大切にしたのは、「誰ひとり悲しい思いをしないこと」。勝ち負けよりも、みんなで一緒に楽しめることを重視しました。
「ふれあいスゴロク」には独自のルールがあり、イベントカードのマスに止まるとカードを1枚引きます。カードには、隣の人と指でハートを作ったり、エリエールらしくティシューを1枚落として下からキャッチしたりと、自然に体を動かし、ちょっとした触れ合いが生まれる仕掛けを盛り込んでいます。さらに、「最近笑ったことを教えて」「犬と猫、どっちが好き?」といった質問カードも用意し、会話のきっかけが生まれるよう工夫しました。
ゲームの中で生まれた何気ないやり取りが、その後の食事の時間や日常の会話につながっていく。そんなふうに、人と人の距離が少し近づくことを目指して、このすごろくは作られています。

——見ていても楽しいデザインですね。

金澤:子ども向けの可愛らしいデザインや遊び方も、ASAKOさんのノウハウがあってこそでした。カードの選定もかなり悩みましたね。本当はもっとたくさんの案がありました。
どれを採用するか決めるために、実際に子どもたちに遊んでもらったり、ASAKOの営業の方と大人だけでプレイしてみたりもしました。「これは面白い?」「どう感じる?」と意見を出し合いながら、少しずつブラッシュアップしていったんです。
放課後に、小学校低学年から高学年の子どもたちが集まる場所でデモを行ったこともあります。「これは少し難しいかも」と感じる仕掛けもありましたが、実際に遊んでもらうと、私たちの想像とは違う反応が返ってきました。
たとえば「右の子と目をつぶって、ゆっくり指を近づけよう」というカード。大人だけで試したときは「難しすぎるかも」と感じていたのですが、子どもたちは「うまくいかないこと」そのものを楽しんでいたんです。
私たちはつい「できる・できない」で判断してしまいますが、子どもたちは「楽しいかどうか」をいちばん大切にしている。そのことに、気づかされました。実際に感想を聞くと、たくさんあるカードの中で、このカードをいちばん面白かったと挙げる子もいたほどです。

ASAKOと描く、ふれあいのこれから 

――今後、このプロジェクトはどのように発展していくのでしょうか?

瀬野:私たちは、エリエールに対する世間のイメージを大きく変えたいというよりも、今ある良いイメージを土台にしながら、新しい側面を丁寧に積み重ねていきたいと考えています。
これまで築いてきたブランドのコアは大切にしつつ、そこに新しいクリエイティブや取り組みを加えることで、「こういうこともやっているブランドなんだ」と共感してくださる方を、着実に増やしていきたい。そのために、販売店さまとのタイアップに加え、SNSなどのデジタル施策も活用しながら、この活動をASAKOさんと共に、より広く届けていきたいと考えています。

金澤:このプロジェクトでいちばん重要なのは、ビジネスの観点で言えば、行動変容を生み出せているかどうかです。
SNSでの発信、販売店さまとのタイアップ、こども食堂へのすごろく提供など、取り組みの形はさまざまですが、共通して大切にしているのは「人の心が動いたかどうか」だと思っています。
特にSNSでは、お客さまの声をダイレクトに受け取ることができます。「今日さっそく試してみました」「イベントで行ったタッチング講座を、今夜家でやりました」「毎週1回、続けることにしました」といった声が実際に届いています。
触れ合いの大切さに気づき、それを日常の行動に移してもらえている。そうした変化が生まれていることこそが、このプロジェクトの大きな成果だと感じています。

――なるほど、「えがおにタッチPROJECT」は、そういった意味では、多くの人に行動の変化を促しましたね。

金澤:はい。そして、今取り組んでいることを途切れさせないというのも、非常に大切なポイントです。社会貢献活動は一度きりで終わるものではなく、長期的に続けていくことで、結果として企業のブランディングにもつながっていくと考えています。
同時に、継続するだけでなく、時代や社会の変化に目を向け続けることも欠かせません。お客さまのニーズは常に変化していますし、こども食堂も、かつてはあまり知られていない存在でしたが、今では多くの人に認知される場所になっています。
そうした変化を見逃さず、その時々の社会の声をプロジェクトに反映していくことが、活動を育てていく上で重要だと感じています。

瀬野:まさにその通りで、賛同いただいた販売店の皆さまからも、「このような企画は継続することに意味がある」という言葉を、口を揃えていただいています。
より多くの人にふれあいの大切さを伝え、行動につなげ、笑顔を増やしていくこと。
それこそが、私たちの経営理念である「世界中の人々へ やさしい未来をつむぐ」につながっていくと信じています。

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