動物園の人気者として、多くの人に愛されてきたパンダ。和歌山県白浜町の「アドベンチャーワールド」でも、長年にわたり人々に笑顔と感動を届けてきました。しかし2025年6月28日、パンダたちはこの地を離れることに――。
別れを前に、パンダファンの想いを未来へとつなぐクラウドファンディング「再見!パンダファミリー ~未来へつなぐいのちの物語~」が立ち上がりました。
今回は、このプロジェクトに関わった、アドベンチャーワールドを運営する株式会社アワーズの長谷川穂波さん(以下、敬称略)、講談社『FRaU』編集長の舩川輝樹さん(以下、敬称略)、そしてASAKOの齊藤・矢嶋の4名に語ってもらいました。三者の共創関係、ファンへの想い、そしてこれからの展望についてご紹介します。

受賞はわずか1.4%――15,000件の中から選出された「地域貢献賞」

表紙に「ありがとう! 白浜パンダファミリー」と記された、クラウドファンディングの返礼品『FRaU編集 ADVENTURE WORLD特別号』。誌面には、日本を代表するパンダの聖地・アドベンチャーワールドで長年愛されてきた、良浜(らうひん)、結浜(ゆいひん)、彩浜(さいひん)、楓浜(ふうひん)の4頭の、さまざまな表情や姿が随所に収められています。

2025年6月17日にスタートしたクラウドファンディング「再見!パンダファミリー ~未来へつなぐいのちの物語~」は、開始からわずか1週間あまりで目標支援額1,000万円を達成。最終的には3,126名から、約1,300万円もの支援が寄せられました。

この取り組みは、国内最大級のクラウドファンディングサービス「CAMPFIRE」が主催する「クラウドファンディングアワード2025」(※)において、地域価値を再発見し、未来へとつなぐ媒体としての役割が高く評価され、「地域貢献賞」を受賞しました。
※2024年11月から2025年10月までに実施された約15,000件のプロジェクトの中から、わずか200件、全体の約1.4%だけしか選出されない

「このクラウドファンディングを通じて、支援者の皆さまがアドベンチャーワールドのパンダ4頭に寄せてきた深い“愛”を、改めて実感しました」と振り返るのは、ASAKOの矢嶋。
彼女は2025年4月から、返礼品の制作をはじめ、クラウドファンディングの企画構築、支援者対応、関連イベントの運営サポートまで、幅広く携わってきました。
「ファンの皆さまの想いと、アドベンチャーワールドの想い、その両方を込めた特別な一冊を制作できたと思っています。プロジェクトを進めてきた仲間はもちろん、支援者の皆さまと一丸となって企画をつくりあげられたからこそ、『地域貢献賞』の受賞につながったのだと感じています」

今回の「地域貢献賞」受賞の原点は、2024年に始動した「FRaU S-TRIP 和歌山」プロジェクトにあります。
そこには、和歌山県を代表する観光地・アドベンチャーワールド、ライフスタイル誌の発刊を起点に地域の観光・文化・食の魅力を発信してきた『FRaU S-TRIP MOOK』を手がける講談社、そして地域共創の取り組みを支えるASAKOという、三者による強固な連携がありました。

「SDGs×旅」で地域を深掘りする――『FRaU S-TRIP MOOK 和歌山』プロジェクト始動

——多くのパンダファンを巻き込んだ「FRaU S-TRIP 和歌山」プロジェクトは、どのようにして始まったのでしょうか。

舩川:2026年に創刊35年を迎える『FRaU』は、ここ数年、SDGsを大きなテーマとして誌面づくりに取り組んできました。ただ、SDGs、気候変動、ごみ問題などの言葉には、どうしても重く、身構えてしまう響きがあるのも事実です。
そこでASAKOさんと一緒に立ち上げたのが、『FRaU S-TRIP MOOK』シリーズです。「SDGs×旅」を軸に、地域とタッグを組み、1冊まるごとその土地を深掘りする。実際に足を運び、人に出会い、暮らしや取り組みを体感しながら、サステナブルな未来のヒントを伝えていくことを大切にしています。

——第一弾は徳島県でしたね。最新号で和歌山県を選んだ理由は何だったのでしょうか。

舩川:営業から「和歌山県を取り上げてみてはどうか」という提案を受けたとき、迷いはありませんでした。名前は知っていても、実際に訪れたことのない地域には、まだ言語化されていない魅力やテーマが必ずある。さらに、地域の方々に喜んでいただける、意義のある取り組みになると感じたんです。
実は以前、東京で開催された「春のパンダトーク」というイベントで、アワーズの長谷川さんにお目にかかったことがありました。平日の夕方にもかかわらず、会場は満員で、その光景から、パンダとファン、そしてアドベンチャーワールドとの間にある強い絆を感じました。この経験が、「ぜひ、この関係を誌面にしてみたい」という思いにつながったのです。

長谷川:私たち株式会社アワーズは、和歌山の企業として約50年にわたり、多くの観光客をお迎えしてきました。ただ、私たちは白浜町にある一企業にすぎません。白浜があり、南紀があり、地域全体が魅力的だからこそ、アドベンチャーワールドにも足を運んでいただける。
そうした考え方を大切にしています。
今回のプロジェクトでも、単なる広告や露出ではなく、「地域のみなさんと一緒に1冊をつくる」ことを重視しました。そのため、白浜町周辺の企業や団体の方々と何度もミーティングを重ね、趣旨に共感していただける協賛を呼びかけてきました。

齊藤:このプロジェクトにおいて、アワーズさんの存在は欠かせませんでした。編集部と各協賛企業とのつながりはこれまでもありましたが、協賛企業同士の“横の関係”が生まれることは、実はあまりなかったんです。
アワーズさんが中心となって、「一緒にやりませんか」と声をかけてくださったことで、関係人口の輪が一気に広がりました。南紀エリアの主要交通インフラを担うJR西日本さんと南海電鉄さんの両社が 同じテーブルにつき、それぞれのサステナブルな取り組みを語り合っていた光景は、とても象徴的でした。

——2024年10月10日発売の『FRaU S-TRIP MOOK 和歌山』の表紙のパンダの写真は、ビジュアル的にも大きなインパクトがありました。 

舩川:実は、最初から表紙にパンダを使う予定だったわけではありません。アワーズさんからは、「単に“かわいい”という消費のされ方になるなら避けてほしい」という率直なご意見をいただいていました。
取材を重ねるうちに見えてきたのは、アドベンチャーワールドが本気でサステナビリティに取り組んでいる姿でした。たとえば、パンダが食べる竹は、放置竹林に悩む自治体と連携し、計画的に調達・循環させている。その仕組みを知り、「パンダは和歌山における循環型社会の象徴なのではないか」と感じたんです。そうした思いをお伝えしたところ、「その文脈がきちんと伝わるのであれば、パンダを表紙にするのもありですね」という言葉をいただき、最終的に表紙に据えることができました。

 

 

長谷川:サステナビリティへの考え方や、動物たちの命を未来へつなぐ姿勢、そしてホスピタリティの部分まで含めて描いていただけたことは、本当にありがたかったです。
パンダは確かに注目を集めやすい存在ですが、それだけで終わらせず、その奥にある取り組みまで伝えていただけた。それこそが、『FRaU S-TRIP MOOK 和歌山』ならではの価値だと感じています。

 

 

——なるほど。アワーズさんは、『FRaU S-TRIP MOOK』の理念と深く共鳴する企業だったのですね。 

パンダを起点に生まれた共創――雑誌づくりで終わらなかった三者の挑戦 

発売時には、和歌山県庁で当時の岸本周平知事による記者会見が行われるなど、『FRaU S-TRIP MOOK 和歌山』は大きな反響を呼びました。プロジェクトチームの間では、「ぜひもう一度取り組みたい」という前向きな声が自然と高まっていきます。しかしその矢先、2025年4月、アドベンチャーワールドで暮らしてきたパンダ4頭が中国へ帰るというニュースが報じられました。

舩川:正直に言うと、かなりショックを受けました。それだけ、この取材に強い思い入れを持って向き合っていたのだと思います。取材でアドベンチャーワールドを訪れたのは3〜4回ほどでしたが、そこで出会ったパンダたち、飼育スタッフの皆さん、そして来園されているファンの方々との関係性は、本当に印象深いものでした。
「これほど多くのファンがいて、これほど強い思いが集まっているのなら、FRaUにも何かできないだろうか」と自然に考えるようになりました。ただ、雑誌をもう一冊つくるとなると、費用は膨大です。再びアワーズさんに全面的なご協力をお願いするのも、現実的ではないと感じていました。
そんな中で、ASAKOの齊藤さん、矢嶋さんから提案されたのが、「クラウドファンディング」という選択肢でした。

矢嶋:今回のクラウドファンディングで大切にしたのは、単に支援して終わるのではなく、ファンの皆さんと一緒に形をつくることでした。そこで掲げたのが、「一緒につくる特別号」というコンセプトです。
リターンには、ファンの方が撮影した写真を誌面に掲載する企画や、写真とともにその方の思いやコメントを1ページ丸ごと紹介する企画などを用意しました。どうすれば、ファンの皆さんが大切にしてきた思いを、きちんと託せる場をつくれるのか。その問いから逆算する形で、内容は慎重に検討していきました。

舩川:私は週刊誌の現場にも長く関わってきたので、正直に言うと、読者参加型企画には不安もありました。写真やコメントを募集すると、どうしてもクオリティにばらつきが出てしまうものなのです。
その懸念を率直に伝えたとき、長谷川さんから返ってきたのが、「いや、皆さんは違いますよ」という言葉でした。

長谷川:アドベンチャーワールドに来てくださるファンの方々は、本当に熱心です。SNSでも日常的に写真を投稿し、互いに共有し、語り合う文化が根付いています。「撮る・共有する・語り合う」という循環が、パンダを中心にしっかりと出来上がっているんです。

 

舩川:実際に写真を集めてみると、驚くほど完成度の高いものばかりでした。絵柄が圧倒的にいい。ファンの方々は、私たち取材陣よりもはるかに長い時間軸でパンダを見続け、撮り続けてきています。「これが一番いい一枚だ」と自信を持って選び、丁寧に送り届けてくれた。その姿勢からは、被写体への深い理解と愛情、そして高いリテラシーが強く伝わってきました。

 

 

——クラウドファンディングは、目標金額に達しなければ実施しない方式でした。 

矢嶋:正直、プレッシャーは相当なものでした。すでに支援してくださっている方々は、「必ず実現してほしい」という思いを込めて参加してくださっている。その期待に応えなければならないという責任を、強く感じていました。
ところが、立ち上げ初日から想像以上の支援が集まりました。支援数は着実に、そして勢いよく伸びていき、期間中には本当に多くのメッセージも届きました。「この企画を立ち上げてくれてありがとう」「パンダとの思い出を残せる場をつくってくれてうれしい」——その一つひとつが、強い思いに満ちていました。

——期間中には、インスタライブも実施されたそうですね。 

矢嶋:クラウドファンディングは、どうしても途中で勢いが落ち着く時期が訪れます。そこで正念場のタイミングで、アドベンチャーワールドさん、そして舩川さんにご協力いただき、インスタライブを実施しました。
パンダ飼育スタッフの方と中継をつなぎ、インタビュー形式でお話を伺うなど、「今ここでしか見られない」と感じていただける内容を意識しました。その結果、配信後には再び支援が伸び、もう一段階大きな盛り上がりが生まれたと感じています。

舩川:僕はお膳立てしてもらって、ただ出演しただけですが、長年パンダ飼育に携わってきたスタッフの方々のお話があったからこそ、多くの方に届いたのだと思います。ライブで直接お話を聞ける機会は、本当に貴重でした。

長谷川:私たちは、パンダがいなくなったからといって、飼育や取り組みをあきらめたわけではありません。大切なのは、未来につないでいくこと、続けていくことです。そのためにも、パンダが「いる」「いた」という実績や思いを、きちんと形として残していきたいと考えています。
現在も、その思いを継承するイベントづくりを続けています。先日開催したイベントでは、久しぶりに多くのパンダファンの皆さんが集まってくださいました。

誌面からリアルへ――ファンとつくる「共創」のその先 

2025年11月16日、クラウドファンディングから派生したリアルイベントが開催されました。ムック本に写真を提供した支援者3名を登壇者として迎え、舩川さん、そしてアドベンチャーワールドの関係者とともにトークセッションを実施。誌面を起点に生まれた共創が、リアルな場へと結実しました。 

矢嶋:クラウドファンディング自体は無事に終了しましたが、その後、支援者の方々の期待値をどう高めていくかという点には、正直かなり苦労しました。支援してくださっている方々は、単にお金を払っているのではなく、イベントへの参加を含めた「特別な体験」を楽しみにしてくださっている。その期待に応えなければならない、というプレッシャーは大きかったですね。
イベント当日、久しぶりに顔を合わせたパンダファンの皆さんが「久しぶりだね」と再会を喜び合う姿が印象的でした。「とても楽しみにしています」というメッセージも数多く届いていました。そうした思いに応えられる企画を用意するのは簡単ではありませんでしたが、結果として無事にイベントを終えることができ、今はほっとしています。

『FRaU』ADVENTURE WORLD特別号記念イベント

——雑誌制作から始まり、クラウドファンディング、ファンの可視化、そしてリアルイベントによるコミュニティ形成まで、大きな成果を上げました。今後はどのように展開していくのでしょうか。 

齊藤:ゼロから積み重ねてきた取り組みが、クラウドファンディングという手法を通じて持続的になっています。3社をはじめとした協働プロジェクトの推進と並行して、「関係人口」という新たな形で、多くの企業やファン層との強いネットワークを確立できました。
アドベンチャーワールドを訪れるファンの方々とも関係性が生まれ、真の意味での「四方よし」となる好循環が生まれました。私たちが発信するメッセージに共感し、体験してもらう。その一体感を「FRaU 2.0」として育てていきたいと考えています。

舩川:私は、いつかまたアドベンチャーワールドにパンダが帰ってきてくれると信じています。そのときには、もっと涼しい時期に、屋外運動場で遊ぶパンダたちを撮影したいですね。もちろん『FRaU S-TRIP和歌山県』の第2弾もやりたいです。和歌山は本当に広く、1冊では紹介しきれません。広大な世界遺産の一部しか掲載できていませんし、まだまだ取り上げたい農家さんや漁師さん、伝統産業に携わる方々などが、たくさんおられます。そうした人びとに、どんどん密着取材していきたいです。

長谷川:現在、園内にパンダはいませんが、将来的なパンダ飼育の再開に向けて、チャレンジは続けています。アドベンチャーワールドには120種・約1,600頭の動物たちがいますので、それぞれの魅力発信も今後も続けていきます。
今回の『FRaU S-TRIP MOOK』の取り組みは、受け身の発信ではなく、皆さんと肩を並べて一緒に発信できたことが非常に大きかったです。和歌山県内の事業者との関係もより強固になり、新たなつながりも生まれました。また、雑誌や書籍は発売して終わりになりがちですが、今回のように発表の場を設け、思いを改めて伝える機会を持てたことは、大きな成果だったと感じています。

矢嶋:この企画を通じて、アドベンチャーワールドさん、そして講談社さんとの関係は、より一層強固になりました。同じ形に限らず、新しい挑戦も、ぜひ一緒にできたら嬉しいですね。

ASAKOメンバー紹介

齊藤 雅之

齊藤 雅之 (さいとう まさゆき)

ビジネス開発局 イノベーションデザイン部

2007年よりアカウントエグゼクティブとして、アパレル、観光、官公庁など幅広い業界で16年以上にわたりマーケティング支援を経験。近年は社会課題解決やSDGs、地方創生をテーマとしたソリューション提供に注力、2022年からは社内の女性エンパワーメントプロジェクトを主導。現在はイノベーションデザイン部に所属し、これまでの経験を活かしながら、中期経営計画のテーマにおけるビジネスプロデュースや生成AIサービスなど新規ビジネス開発にも携わり、様々な領域で活動している。

矢嶋 さえ

矢嶋 さえ (やじま さえ)

第一局 第一部

お客様のニーズを引き出す傾聴力と、そこから生まれるクライアント視点の提案で、単なる課題解決に留まらない最適な未来を共に創造したい。物怖じしない行動力で、常に新しい視点を大事に推進していき、現状打破に向けた道を切り開く。そして、「つながり」を何よりも大切に課題解決まで伴走し、お客様の目標達成に貢献する。共に成長し、成功を分かち合えるパートナーとして、長期的な視点でお客様のビジネスを力強くサポートしていきたい。

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