「五感」をテーマに、情緒や感情に訴求。
——RUNWALKブランドの30周年に際し、その節目をどのように捉え、プロモーション企画を行ったのでしょうか?
杉本:ASICSといえば、皆さんはスポーツブランドという認識かと思います。スポーツメーカーとして長い実績がある中で、なぜ革靴やビジネスドレスシューズを手がけているのか?という疑問に行き着くんですね。その答えとして、ASICSのスポーツテクノロジーによる機能性を踏襲したビジネスシューズという点が、RUNWALKの価値であり他のメーカーさんとは異なる個性であると考えています。
そんな中、「なぜASICSが革靴なの?」という原点に立ち返り、ブランドの価値や意義をきちんと整理して打ち出す機会だと捉えていました。
畠山:「ウォーキングは、シニアの健康のためのものというイメージが固定化されている。でも、違うんだと。脳が活性化する行為でもあり、すべての年代の人の創造性を生み出す行為でもあり、日常を豊かにする根源的な価値がある。だから、ウォーキングという言葉の概念自体を変えてみせたい」。そういった高い志をアシックス商事さんが持っておられたので、具現化するための企画にしなければと強く思いましたね。
仙田:RUNWALKは、これまで大きいプロモーションを多く行ってきませんでした。ですから、我々もぜひご一緒にということでご提案させていただいたところから始まりました。そのタイミングが30周年だったというのは、非常に大きな意味があったと思います。
——プロモーションでは「歩くが五感をひらく」という、斬新なコンセプトを打ち出されました。
杉本:ASICSには、「Sound Mind,Sound Body(健全な身体に健全な精神あれかし)」というスローガンがあります。ただ、弊社としてのこれまでの活動はこのBody寄りだったんですよね。Mindに寄り添うような部分は数値データで表せないため、なかなか伝えづらかった。そこでASAKOさんに相談し、歩くことによって感じる感覚、歩くことで得られる精神的な安定といった情緒的なところまでを含めて、「五感」というフレーズで包括していただきました。
畠山:アシックス商事さんとのお仕事を通じて私たちが常に感じているのは、「ASICSグループだからこそ機能もテクノロジーも抜群に良い」という自信や自負です。ただし、抜群の機能だけではその先の情緒や感情まで語り尽くせない。歩くという行為は一人の人の生活を豊かにするものなんだということを伝えるために、物語性があって人の心を揺り動かしたり感性を刺激したりするようなテーマを打ち出してほしいと。「歩くが五感をひらく」というフレーズは、もともとアシックス商事さんの中にあった思いや言葉を拾い集め紡ぎ合わせることで生まれたものだと思います。
杉本:これまでは、どうしても商品の機能性のアピールに偏りがちで、情緒的価値は訴求しきれていませんでした。「なぜASICSが革靴を?」という問いの追求や気づきを含め、本当にいいきっかけになったと思います。
畠山:今回のアシックス商事さんは大胆に考えておられて、「販促よりもブランドとしての価値を打ち立てる方に重点を置いてください」ということでしたので、強い意志をもって臨みました。
仙田:歩くことは当たり前の行為すぎて、皆さんあまり意識されないんですよね。ただ、企画のディスカッションを重ねる中で、歩くことで得られるさまざまな要素が挙がりました。ASICS Walkingのブランディングで何を謳っていくかを、アシックス商事さんも非常に悩んでおられたので、それらを何とか上手く言語化し、お客様に伝えたいという思いが強かったです。
畠山:数値データで計れない感受性主体のものを表現するために、とにかく議論の繰り返しと重ね合わせでした。なかでも一番議論を重ねたのは、プロジェクトの要件定義です。 「何の目的で、誰に向けて、何をするのか」という要件定義に半年かかりました。ただ、その点をきちんと見つめられたことで、研ぎ澄まされたメッセージやイメージにたどり着けたと思っています。
杉本:メーカー側としては、新商品の発売、新店舗の出店などファクトは既に決まっていました。その前のティザーイベントだったので、わがままや無茶ぶりをし続けていたんだろうなと。
畠山:いえいえ。議論を通じて考えや思いをぶつけ合う過程で、アシックス商事さんの中でのブランドコンセプトが整理されていき、「日本におけるウォーキングの概念そのものを背負っていくんだ」という気概が強くなっていくのをひしひしと実感していました。そのお手伝いができたことは、我々にとって非常に大きかったですね。
ブランディング活動がもたらした、さまざまな価値や効果。
——プロモーションの場として銀座を選ばれたことも印象的です。ロケーションのこだわりや狙いはあったのでしょうか?
杉本:今回のプロモーションでは、RUNWALKの品格を大切にしたいと考えていました。重要なのは、その品格をお客様にどう伝えるか。今まで通りの見せ方ではダメだよね、クリエイティブな要素が重要だよねというような、ざっくりしたお題をASAKOさんにお話しながら。。。言うのは簡単なんですが。
仙田:そのお題を受け、プロモーションの場としてご提案したのが銀座です。直営店ではインバウンドのお客様も増えているというお話を伺っていたので、その点は意識しました。RUNWALKの品格や世界観を上手く表現できる場所としても、銀座は最適ではないかと。
杉本:品格という点では、申し分ないロケーションですよね。また、直営店「ASICS RUNWALK銀座」にも近いですし。さらに、今後のグローバル展開を見据えたインバウンド対策という点においても、銀座でのプロモーションは非常に良かったと思います。
畠山:会場の銀座蔦屋書店は、アートと日本文化を結びつける特別な場所で、感度の高いビジネスパーソンやインバウンド客が数多く訪れます。RUNWALKの上質なブランド体験を提供するには最適だと考えました。また、店内のGINZA ATRIUMは自然光が降り注ぐ開放的な空間の魅力を最大限に活用。アートポスター、アシックスのテクノロジーや歴史、歴代RUNWALK、現行モデルの分解パーツ、新発売前のRUNWALK 7のプロトタイプなど、ASICS Walkingブランドの奥行と多様性を物語るコンテンツ展示に仕上げました。
杉本:ご提案いただいた時点では、書店が会場ということに少なからず違和感がありましたが、結果としては素晴らしい会場でした。ブックコンシェルジュのセレクトによる「歩く」をテーマにした書籍の展示もあり、アートや文化と連動したギャラリー展開ができたことも大きなポイントになりましたね。
仙田:せっかくなのでお聞きしたいのですが、このプロモーションで具体的な手応えや成果を感じられたことはありますか?
杉本:もちろん。まず一つ目は、私たちにもこういうイベントができたんだ、すごいね、よかったねという率直な感想です。「五感」というフレーズで感情や情緒を動かすようなイベントなんて、私たちだけでは到底イメージできませんでしたから。
二つ目は、代表の小林も含めた多くの社員のほかASICSグループ全体からも多くの方に見てもらえて、ASICSグループの社内報でも取り上げられました。あまりないことなんですよ(笑)。
三つ目は、デパートやECショップなどのバイヤーさんもゲストとしてお呼びし、「ぜひ売り込んでいきたい」というお声もいただけました。販売面でのアピールもできたと思っています。
そして四つ目は、インフルエンサーの方にも来ていただいたことで、SNSなどのメディアを通して一般のお客様にも発信できたことです。ASICS Walkingに向けられる目線を、変えられたのではないかと感じています。
畠山:嬉しいです、 光栄ですね。アシックス商事さんがRUNWALKというハイエンドシップを打ち出すことで、ASICSグループ全体のインナーモチベーションにつながっているというお話は望外でした。ブランディング活動が販路拡大のモチベーションに寄与していくんだというのも、大きな気づきと学びになります。
杉本:まさに「五感」での体験の成果でしょう。会議などで、ブランドの課題や商品の販促についてロジカルにお話しされる方はたくさんいますが、それを「五感」で感じさせてくれるケースはまずありませんよね。
畠山:実は今回、ブランディングを手がけるにあたっては広告の手法を取りませんでした。広告のようにプッシュするのではなく、ターゲットとなる方との自然な出会いの場を作って待ち構え、引き込む発想でやらせていただいたのが肝だったのかなと思います。 商品を売るというより、文化や思想を提示する。ブランディングとしての発信を重要視しました。
グローバル展開で、さらなる高みへ。
—— プロモーションを通じて得られたブランディングの成果や手応えを、今後どのように活かし繋げていこうとお考えですか?
杉本:ASICS Walkingの大きな課題は、グローバルでの弱さです。ASICS全体では80%以上がグローバルの売り上げですが、ASICS Walkingの売上は国内が95%を占めています。
おかげさまで、RUNWALKに関してはフェーズが一つ先に進みました。ブランディングが成功し、お客様にも評価されたということで、ASICS Walkingとしてグローバル展開に向けて動いていきます。そのために、ウォーキングというカテゴリーを世界に広めたい。ウォーキングという習慣やカルチャーは海外にはなく日本独自のもので、海外では通用しないと長らく言われ続けてきました。
それなら、グローバルでウォーキングのカルチャーを作ろうぜ、ウォーキング=アシックスだと。ASAKOさんとともに作り上げた企業スローガン、「その一歩よ、ひらけゆけ。」の精神です。
畠山:「ASAKO Brand PRISM」のワークショップで、社員の皆様と一緒に作ったスローガンですね。このフレーズには、社員の皆様の思いや言葉が集約されています。ですので、それら全てをきちんと物語にしてつないでいくためにも、グローバル展開のパートナーとしてお手伝いさせていただければ嬉しいです。
杉本:RUNWALKは次のフェーズに進み、私たちはグローバルで頑張っていく。そんな今、ASAKOさんに担っていただく役割は何かについて、議論の壁打ちをしたいと思っています。今回のプロモーションで作った“点”つまりブランディングの成果を、“点”で終わらせないためにも。
仙田:せっかくいい立ち上げをご一緒させていただいたので、“点”を“線”にし、さらに“面”にしていきたいと思っています。
畠山:ブランドはメーカーの持ち物ではなく、生活者の中にあるもので、体験の価値を通して感じるもの。その信念をもちつつ柔軟な発想で、さらなる高みを目指すお手伝いができれば幸いです。
杉本:「ブランドはメーカの持ち物ではない」。そういった考えは、メーカー社内の人間だけでは生まれないんですよ。やはり代理店さんとお話しないと、第三の視点で見られない。「ASICS Walkingって何?」「RUNWALKって何?」という原点に立ち返ることができたのも、同じです。またぜひ、議論の壁打ちをしましょう。
仙田:あくまでも主体はクライアント様、私たちは鏡であり壁ですから。思いや考えをぶつけ合う議論の壁打ちを通じて企業活動の一助にしていただくことが、広告代理店として本望です。
畠山:一度語ったからOKではなく何度も語り続け、いずれは語り継がれるようにしていかなければ。そういうところまで持っていけるよう、ぜひ今後も議論の壁打ちをしながら並走させてください。