「いい尿の日」は、なぜ必要だったのか
――「いい尿の日」とは、どのような記念日なのでしょうか?
中島:「いい尿の日」は2015年に当社が制定しました。11月は気温が下がり、頻尿や夜間頻尿といった排尿トラブルが増えやすい時期です。そこで、このタイミングに合わせて、症状への理解と、症状に合った治療の重要性を広く伝えることを目的に、この記念日を設けました。ただ正直に言うと、制定当初は記念日を登録したものの、それを軸にした継続的な取り組みまでは十分にできておらず、社内でも存在が薄れていた時期がありました。
――それが改めて注目されたきっかけはなんだったんでしょうか?
中島:大きかったのは、2023年の「クラシエの綜合化」です。それまで別会社だった製薬、フーズ、ホームプロダクツの3事業が統合されました。このタイミングで、「いい尿の日」が本来持っている啓発のための記念日という役割を、改めてきちんと活かしていこうという方針が社内で共有されたんです。同年11月にプロジェクトが本格始動し、2025年に3回目を迎えました。
――プロモーションを設計するうえで、どんな課題意識があったのでしょうか。
中島:頻尿や夜間頻尿は、日常生活への影響がとても大きいにもかかわらず、「恥ずかしい」「年齢のせいだから仕方ない」と思われがちで、なかなか相談や受診につながりません。そこで私たちは、いきなり商品を訴求するのではなく、まずは「この悩みは多くの人が抱えている」「きちんと向き合えば改善できる」という認識を広げることが重要だと考えました。
そのために、クラスタ調査などの定量調査だけでなく、店頭での声やお客様相談センターへの電話など、実際の生活者の声を丁寧に集めていきました。そうして見えてきたのは、一方的に情報を届けるだけではなく、悩みに寄り添いながら双方向の関係を築く必要がある、ということでした。
――症状そのものが、あまり理解されていない側面があるんですね。
中島:そうなんです。「年齢のせい」「自然な老化現象」と受け止められてしまい、そもそも治療や対策の対象として認識されていないケースが多かったんです。でも実際には、外出を控えたり、夜中に何度もトイレに起きて睡眠の質が下がったりと、生活の質に大きな影響を与えています。
これらは体の中で起きている変化が原因で、正しく向き合えば改善できる可能性があるものです。「我慢するしかないもの」ではなく、「対処できるもの」だと伝えていくことが、このプロジェクトの核になっています。
症状を正しく伝えるための三位一体プロモーション
――「いい尿の日」では、具体的にどのような取り組みを行っているのでしょうか?
中島:プロモーションは大きく3つあります。テレビCM(映画館での劇場CMを含む)、新聞広告、そしてセミナーです。
テレビCMは、より広い層に届けるための認知向上が目的です。特に映画館の劇場CMは、「映画の途中でトイレに行きたくなる」という、まさに悩みが顕在化しやすいシーンにいる人たちに向けて配信しています。その瞬間の体験と重ね合わせることで、より強く自分事として感じてもらうことを狙いました。
次に新聞広告は、頻尿や夜間頻尿といった症状そのものへの理解を広げる役割を担っています。八味地黄丸がどのように関わるのかを伝えるだけでなく、「それは年齢のせいではなく、きちんとした症状である」という気づきを持ってもらうことを重視しました。毎月掲載することで、少しずつ意識に刷り込んでいく狙いがあります。
――そしてセミナーも実施されていますね。
中島:はい。セミナーは、唯一お客様と双方向でやり取りできる取り組みです。直近では2025年10月7日に「漢方で健康な毎日を 尿のお悩み対策セミナー」を開催し、その内容を「いい尿の日」に合わせて朝日新聞に掲載しました。
――どのような内容だったのでしょうか?
中島:前半は、医師による講演です。尿トラブルの基本的な仕組みや症状を解説したうえで、それに対する対処法の一つとして、漢方薬の考え方をわかりやすくお話しいただきました。
そして後半では、過去に前立腺がんを経験され、尿トラブルについて実体験を語れる著名人にご登壇いただきました。この「当事者の声を軸にした対談形式」は、ASAKOさんからの提案でした。
実体験を持つ方が「どんなことで困ったのか」「生活の中で何がつらかったのか」を語り、それに対して医師の専門的な視点で補足やアドバイスを行う。講義型ではなく、視聴者が自分を重ねやすい構成になったと思います。
——会場参加が285名、オンライン視聴が約722名と、参加者数が1,000名超えの大成功だったようですね。
中島:年代を見ると70代の参加者が最も多かったです。この悩みを抱えている方が非常に多いこと、そして新聞読者の世代と親和性が高かったことが理由だと思います。「対策したい気持ちはあるけれど、どうすればいいかわからない」。そういう方が、専門家の話を聞く機会として参加してくださったのだと感じました。
もちろん著名な登壇者の影響力もありますが、それ以上に「専門家の先生の話を聞きたい」という動機が強かった印象です。それだけ、このテーマに真剣に向き合っている方が多かったのだと思います。
――排尿というデリケートなテーマを扱う難しさはありましたか?
中島:ありました。強く言いすぎると引かれてしまう一方で、曖昧すぎると正しく伝わらない。そのバランスが一番難しかったですね。
「尿トラブル」「尿の悩み」と表現するのか、そもそも「尿」と書くべきか、「トイレ」「おしっこ」にするのか。言葉ひとつで受け取られ方が変わるので、タイトルや表記、プログラムの文言まで細かく検討しました。
先生の講演内容についても、専門性を損なわないようにしながら、一般の方にも理解できるレベルに調整しています。噛み砕きすぎると信頼感が薄れますし、難しすぎると伝わらない。その境界線を探る作業が、最も時間をかけた部分でした。
——参加者からの反応はいかがでしたか?
中島:質疑応答では、「水分はどのくらい取ればいいのか」「日常生活で気をつけることは」といった、非常に具体的な質問が多く出ました。事前質問も含めると、参加者の半数以上が何らかの質問をしていて、皆さん強い問題意識を持って参加されていたと思います。
新聞購読者向けのアンケートでも、「症状への理解が深まった」「自分に当てはまると感じた」「対処してみたい」といった声が多く寄せられました。実際、セミナー後には「どこで購入できますか?」といった問い合わせが相次ぐなど、「知る」から「行動する」への変化がはっきりと見えました。
イベント会社にはないASAKO
セミナーで症状改善に向かう気持ちを後押ししつつ、同時期に放映するテレビCMなどで具体的な解決策を提示する。啓発の最終目的は、正しい理解を行動へ、そして解決へとつなげることです。テレビCM、新聞広告、セミナーの3つを連動させた「いい尿の日」プロジェクト。その全体設計を支えたのが、ASAKOでした。
中島:実はASAKOさんには、当社の3ブランドを長年担当していただいています。テレビCMなどの広告制作だけでなく、店頭で使う販促物やPOPのデザイン、印刷会社との調整、さらには「売り場でどうすればお客様が手に取ってくれるか」というところまで、一気通貫で相談しています。
単なるクリエイティブ制作会社ではなく、「このブランドをどう育て、どう伸ばすか」という視点で、企画から実行まで深く関わっていただいている。実際に売上という結果にもつながっているからこそ、長く一緒にやれているのだと思います。
——今回の「いい尿の日」プロジェクトでも、その関わり方は同じだったのでしょうか?
中島:はい。今回も「何をやるか」から一緒に考えました。最初からセミナーありきではなく、動画施策や別の切り口など、いくつもの選択肢を検討しています。
1年目は動画、2年目、3年目と検証を重ねる中で、「このテーマに一番合うのはセミナー形式だよね」という結論にたどり着きました。こうした試行錯誤を、単年ではなく継続して一緒にできたことが大きかったと思います。
——動画はどうしても一方通行のコミュニケーションになりがちですよね。
中島:そうなんです。一方で、今回は医療用医薬品とも連動しているため、医師の専門性や信頼感をどう活かすかが重要でした。突き詰めると、「専門家の話を、双方向で、納得感を持って届けられる場」として、セミナーが最も適していた。信頼性と双方向性、その両方を満たせる形式でした。
——セミナーを新聞社主催という形にしたのもポイントでしたよね。
中島:全国的な広がりとテーマへの信頼性、その両方が担保されるかどうかは最初から重要な論点でした。正直、イベント会社にセミナーだけを依頼する選択肢もありました。ただその場合、どうしても「そのイベント単体を成功させる」発想になってしまいます。
ASAKOさんは、テレビCMや新聞広告を含めた全体の広告設計を一緒にやっているからこそ、「このセミナーをどう他の施策とつなげるか」「全体の中でどんな役割を持たせるか」という視点で考えてくれました。
——それがASAKOの強みということですね。
中島:イベント会社はイベントのプロです。でも視点はどうしてもその場限りになりがちです。一方でASAKOさんは、プロジェクト全体を俯瞰しながらバランスを取り、全体を底上げしてくれる存在です。
医療用医薬品の領域は、表現の制限や医師との関係性など、非常に繊細で複雑です。長年の付き合いの中で、当社の事情や制約を理解したうえで、「できること」「できないこと」を踏まえて提案してもらえる。その安心感は大きいですね。
単発ではなく、長期間にわたって伴走してきたからこそ分かることがある。その積み重ねが、今回の「いい尿の日」プロジェクトの完成度につながっていると感じています。
プロモーションが生んだ、想定外の相乗効果
中島:これまで八味地黄丸などのOTC医薬品(処方箋なしの市販薬)では、医師の先生と深く関わる機会はほとんどありませんでした。一方で、医療用医薬品の領域では、著名人を起用したプロモーションを行うことはありません。今回の取り組みでは、この両者の強みを組み合わせることができました。
OTCは医師の専門性による信頼感を、医療用は著名人の発信力による認知拡大を取り入れ、それぞれ補完し合う形です。特に医療用の治療選択肢を知ってもらえたことや、OTCの信頼感向上は大きな成果となり、今回のプロジェクトの相乗効果の核になりました。
——なるほど、そんな効果も生まれていたんですね。今後「いい尿の日」プロジェクトはどのように進めていくのでしょうか?
中島:これまでは、どうしても認知向上が中心でした。しかし今後は一歩踏み込み、「尿トラブルを改善することで、シニアのQOLを高められる」という価値そのものを伝えることを目標にしています。
単に「改善できます」と言うのではなく、改善した先にどんな生活が待っているのか。外出を楽しめるようになること、夜ぐっすり眠れるようになること。そうした前向きな変化を具体的にイメージしてもらうことが大切だと考えています。
その意識が高まることで、テレビCMや新聞広告で伝えているメッセージも、あとから効いてくる。「いい尿の日」は、その入口として機能する存在でありたい。啓発の先にあるのは、行動であり、改善であり、生活の質の向上です。その流れをつくることこそが、「いい尿の日」プロジェクトの最終的なゴールです。