それは、何のためのテクノロジーなのか

  • 福島

    今回の本題ですが「人を幸せにするテクノロジー」について、みなさんはどう考えていますか?

  • 吉永

    テクノロジーって、⾒えなかったものを⾒えるようにしたり、できなかったことをできるようにしたりするけど、それが⾒たくないものや、やりたくないものだったら誰かを不幸にしてしまうかもしれないので、結局は⼈の気持ちに寄り添えているかどうかが⼤事なのかなと思います。

  • 服部

    そこは大切ですよね。私は、テクノロジーってコミュニケーションを便利にするとか円滑にするだけではなく、よりコミ ュニケーションを生むなり増幅させたり、人と人のつながりを深めるようなことが大事だと思っていて。私がデジタルネイティブのZ世代だから感じるのですが、この世代でいまSNS疲れだったり、アナログに対する憧れがあったりします。SNSは常に誰かから連絡がきて、何かしらから催促がくる。追いかけ回されることに疲れてしまっている。⼀⽅でアナログに対する憧れは失敗があるからだと思うんですよ。レコードにはホコリが入るから雑音があるし、インスタントカメラは撮ってからしか分からない。そういう失敗って記憶に残るなと。LINEは確かに便利だし速い。だからこそ未読を無視しちゃったり、連絡がすぐに繋がるから遅刻しちゃったり。でも手紙って手間がかかるからこそみんな大切にするし、貰ったら嬉しい。今は時間の流れが速くて。情報量の多い時代、人の温もりを感じるコミュニケーションが重要になってくるのかなと思っています。

  • 澤邊

    昭和の待ち合わせって、命がけでしたからね。今だったら「ちょっと遅延してます」とかすぐ言えるけど。よく会えたよね。だから会えたときの嬉しさはあったんでしょうね。

  • 服部

    昔は駅の掲示板に待ち合わせ場所を書いたって聞きました。

  • 吉永

    昭和の話で思ったんですけど、いまは「想像する時間」がすごく少ないんだなと。例えば連絡が取れなかったら、いま何してるのかなとか、会ったときどう⾔えば喜ぶかなとか、想像すると思います。手紙も待っている間にいろいろ想像したりすると思う。そこが意外と楽しいんだなと思って。ネットで検索するとすぐに答えが出ちゃうじゃないですか。想像するところのおもしろさが作れたら。でも一見不便なので、そこを楽しいと思ってもらうのはハードルがあるかもしれないですけど。こう、想像する余⽩みたいなところを作れたらおもしろいのかなと思って。

  • 澤邊

    そういう⼀周回ってなんか懐かしいなと思うのと、あの不器⽤さ、不便さがいいなと思うのは確かにありますね。SNSの「Be Real」が流行っているのも、そういう流れなんでしょうね。

  • 吉永

    あと、思い出があるってすごく⼤事なことだなと思います。あのときああいうことをしたなと振り返る思い出があるのは幸せだなと思っていて。情報が多すぎる今の時代、昔に⽐べて思い出がだんだん浅くなっているようにも思うので。そういう体験をつくれたらいいなと思います。

  • 福島

    なるほどね、そこに企業のブランドとかがどう関与していくかってところを作れるといいですね。

  • 澤邊

    「⼈を幸せにするテクノロジー」っていう話だけど、テクノロジーを要素分解すると 2つくらいあって。サイエンスとエンジニアリングとした場合、サイエンスはアートと一緒なんですよね。別にサイエンス自体はそんなに解決していないというか、宇宙の姿を解きたいとか「WHY」のほうが強いですよね。エンジニアリングはデザインと一緒、具体的に解決していくもの。我々クリエイティブの世界は、サイエンスと近いところにいたほうがいいのかなと思いますね。エンジニアリング的な限界は結構きてて、まあ最近AIが進化したからまだまだあるかもしれないけど。例えばドライヤー、洗濯機とか家電ってそんなに進化していないし、課題解決って意味で見ると大体やり尽くしているんですよね、エンジニアリングは。

  • 我々がテクノロジーって捉えたときに、幸せとの接点というと、結局幸せって何だろうか?と。20世紀はたぶん労働からの解放ってことでそれを全部潰していったわけじゃないですか。なるべく家事も簡単にできるようになって自由時間を手にした。じゃあ自由な時間を手にした我々は朝から晩までネットフリックスを観るのが幸せなのかってなる。このテクノロジーを使って、「WHY」ですよね、なぜ我々は生きるのか、何が幸せなのかをみんなが考えるフェーズに入ったから、そこを一緒に考えていけるようなきっかけをクリエイターが作っていくのが、20世紀とは全然違うんじゃないかなって気がしますけどね。

  • 福島

    この時代、これからの時代、そもそも幸せとは何かをまず考えることですね。今の要素分解で、サイエンスとエンジニアリングの話で、今のテクノロジーって便利とか快適とか効率とかに突き進んで、究極的にはAIも出て、そのあたりは確かに結構行き着いているんじゃないかなと。今後は澤邊さんが目指す没頭だったり、感動だったり、効率とかとは違うところに目を向けていくことが重要なんだろうなと私も感じています。

  • 澤邊

    技術を突き詰めて効率化していくと、今ある話みたいに労働者が仕事を奪われるとか、ディストピア方向に行きがち。仕事が奪われても、本来ハッピーなわけじゃないですか、労働から解放されるわけだから。だけど困るってことは何が問題なのか。仕事がなかったら何するんだろ?みたいなところを突きつけられている。やっぱり、それぞれの持つ幸せって何だろうっていう考えるきっかけを作っていくっていう。難しい話だけど、その哲学に挑んでいくタイミングなんでしょうね。

  • 広告とエンタメのこれから

  • 福島

    今後の広告、エンタメ業界の可能性の話をしてみたいんですけど。僕は、広告業界の変遷を構造化してみたときに、広告ってずっと“ヘンタイ”だなという持論があるんです。少し前の1970年代、80年代の広告は「露出狂時代」と、僕は名付けているんですけど、俺を見てくれ、こんなすげぇのあるぞっていうだけでモノが動くコミュニケーションをとっていた。そこからターゲティングができるようになると「ストーカー時代」へ。よくあるオンラインショップみたいに追いかけて、ちょっとクリックしたらずっと同じ広告が出てくる。そこからまた進歩して、最近のSNSでの広告は「痴漢時代」と僕は言ってるんですけど、SNSでこっそり近づいて個人にアプローチするという。ずっとヘンタイだったんですよ、広告って。

  • 澤邊

    おもしろい! それ、次のヘンタイも待ち構えているの?

  • 福島

    これからは、ポジティブなヘンタイの時代で、「オタク時代」なんじゃないかなと。「推し活時代」とも、僕は名付けているんですけど。企業がヘンタイ的なアプローチするんじゃなくて、自分が心から大好きだというものとか、これ本当にいいんだよってみんなに広めていく。推し活とかオタクになっていくんじゃないかなと。ただ、「オタク時代」「推し活時代」には条件があると考えているんです。それは、本気や本物であること。これがないと、広告はヘンタイを通り越して「詐欺師時代」になってしまうと考えています。だから、僕たちユニットでは、本気や本物、本当とかを「honʼs(ホンズ)」と名付けて、それを⼤切にしながら活動しているんです。

  • 澤邊

    オタクや推し活の熱狂というのは僕も実感あって。コロナのときね、ワントゥーテンの企画したいろんなイベントが中止になって。唯一動いていたのはコアなファンを持ってるアニメの舞台。コロナ禍にもかかわらず、倍率が10倍くらいの熱狂ぶりで多くの⽅が来てくれて。このコアファンの力、推し活って何があっても止まらないんだなと。これって巨大産業化していくと思ってて。先日、サウジアラビアのキディヤシティでドラゴンボールのテーマパークができると発表されましたよね。あれを日本じゃなくて向こうでやられちゃう悲しさはあるけど。まあ、でもコアファンが日本だけじゃなく世界にもいる。そういうアニメ、コンテンツの産業は巨大化していくのはもう絶対あるので、エンタメの未来は全部そっちでしょうね。街中もIPと組み合わせたり、食とかとのテーマパークみたいな形とか、楽しい街になっていく。未来像としてはそっちなんじゃないですか。で、便利云々はもうスマホで完結するから、お店だってほとんどなくなっていって、楽しい施設が増える。自分の推し活ができるところとか、コミュニティがそこで生まれて、というふうになるんじゃないかな。

  • 福島

    きっと細分化されていきますよね。昔みたいに老若男女みんな大スターが好きとかは、もうない。

  • 澤邊

    ないですよ。逆にそれ作れたヤツはすごい。ま、よっぽど頭使わないとなかなかそういうのは生まれにくい。細分化された推し活コミュニティがいろんなところに生まれてきて、それを人々が選択して。一つじゃなくていいですからね、一人10個くらいあって、今日はこっちの活動とか。それがオンライン上にも展開されて、メタバース的な世界になっている。

  • 福島

    最後にどうしても言いたかったのが、推し活も、イマジネーションも、面倒くさいことも、結局行動に移していかないといけないし。やっぱり勇気がすごい大事だなと思っていて。なかなか一歩踏み込めないのを勇気を持って行動することが今後のテーマになってくるんじゃないかなと思っているんですけど。

  • 澤邊

    確かに、飛び込んで興味持てば、その先に広がる世界が良かったみたいなことはいっぱいあるから。その後押しをどう我々が作っていけるか。我々は「没頭」って言っていて、その入り口を作るって面倒くさいんですけど、確かに勇気はテーマとしてあるかもね。

  • 福島

    その細分化されていくところに、我々がどう寄り添えていけるか。

  • 澤邊

    結局、思うんだけど要はマニュアルがない状態なわけでしょ、我々。20世紀はあったわけですよ。ある意味楽だったんですよ。今は100万個くらいマニュアルがあるから、どれをとっていいか分からなくて、そんな状況に置いておかれるから、結局は自分なんでしょうね、21世紀は。自分がどうありたいかをきっちり見つけられる人が幸せなんでしょうね。それがないまま、いろんなマニュアルにフラフラ渡り歩いていると、いつまでたっても幸せになれないっていうだけな気もするから。結局は自分。勇気を持ってイマジネーションを持って、見に行くっていうこと。

  • 福島

    そこをテクノロジーやクリエイティブで後押ししていきたいですね。