ブランド戦略・パーパス・サステナビリティ
2025.11.27
ブランド体系とは?ブランドアーキテクチャーの意味と設計ステップ|戦略的ブランド構造をつくる方法徹底解説
本記事の要約
ブランド体系とは、複数のブランド・事業・サービスを戦略的に整理し、関係づける設計図です。
役割の明確化、資源配分の最適化、社内外の一貫性を実現し、経営・マーケティング・採用・広告をつなぐ基盤となります。
ブランドを“管理する図”から“生かす構造”へ――それがブランド体系の本質です。
目次
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❶ はじめに|ブランド体系(Brand Architecture)で乱立を整える企業の「意味構造」
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❷ ブランド体系とは何か|ブランドアーキテクチャーの定義・目的・効果
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❸ 「ブランドポートフォリオ」「ブランド戦略」「ネーミング戦略」との違い
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❹ ブランド体系の目的|経営戦略と顧客理解をつなぐ基盤
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❺ 縦の一貫×横の棲み分け|ブランド体系設計の基本フレーム
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❻ ブランド体系の3モデル比較|マスターブランド・サブブランド・個別ブランドの使い分け
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❼ ブランド体系の作り方|現状整理から設計、運用までの3ステップ
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❽ 経営とつながるブランド体系|投資配分とLTV思考の導入
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❾ ブランド体系の運用とガバナンス|一貫性維持のための仕組みづくり
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❿ FAQ|ブランド体系の実務でよくある質問
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⓫ まとめ|ブランド体系で「意味」を運用資産に変える
はじめに|ブランド体系(ブランドアーキテクチャー)でブランドの乱立を整える
いま、多くの企業でブランドが“乱立”しています。
新規事業、サービス拡張、M&A、サブスクリプションやD2C展開──ビジネスの多角化が進むほど、ブランドの数も増え続けます。
しかし、増えたブランドが有機的につながらなければ、散漫な状態となり「顧客にとって何の会社なのか」「社員はどこに誇りを持つべきか」が曖昧になります。
結果、ブランド同士のカニバリゼーション(食い合い)が起き、マーケティング投資の効果は分散してしまいます。
このような課題を整理し、全体最適の視点からブランドの関係性を構造化すること──それが「ブランド体系(ブランドアーキテクチャー)」です。
ブランド体系を整えることで、
- 各ブランドの役割が明確になり、戦略的な資源配分が可能になる
- ブランド間の連携(シナジー)が生まれ、認知・信頼・売上のすべてが循環する
- 経営・マーケティング・採用・IRといった“全社的コミュニケーション”が一貫する
ブランド体系とは、企業のブランドを「どのように認識され、どう使われ、どう選ばれるか」という意味と役割の整理図です。
本記事では、ブランド体系の定義から、種類・設計ステップ・実務での注意点までを体系的に解説します。
ブランド体系とは何か|ブランドアーキテクチャーの定義・目的・効果
ブランド体系とは、企業が持つ複数のブランド・事業・サービスを、戦略的に整理し、関係づけるための枠組みです。英語では「ブランドアーキテクチャー」とも呼ばれ、ブランド全体の“設計図”を意味します。
たとえば、企業ブランド、事業ブランド、商品ブランド、サービスブランド、さらにはグループブランド──。
それぞれが独立して存在するだけでは、顧客や社員から見て「どんな関係性があるのか」「なぜ複数のブランドが必要なのか」が分かりにくくなります。
ブランド体系は、これらをひとつの構造として整理し、ブランド同士の役割・序列・関係性を明確にするための考え方です。
ブランド体系の目的
ブランド体系の目的は、単なる「整理」ではありません。企業の成長に直結する3つの戦略的目的があります。

❶経営資源の最適配分
限られた予算・人材・時間を、どのブランドにどれだけ投資すべきかを判断し、優先ブランドを明確にすることで、ブランディングのROI(投資対効果)が高まります。
❷顧客にとっての理解しやすさ
ブランド体系を整えると、顧客が「この会社は何をしているのか」「どんな価値を提供しているのか」を直感的に理解できるようになります。
❸社内外コミュニケーションの一貫性
ブランド体系が定義されていれば、経営メッセージ、広告表現、営業資料、採用広報までが同じストーリーで語られるようになります。
その結果、ブランドの世界観が社内外に一貫して伝わり、信頼と共感が育ちます。
「ブランドポートフォリオ」「ブランド戦略」「ネーミング戦略」との違い
ブランド体系と混同されがちな言葉に、「ブランドポートフォリオ」「ブランド戦略」「ネーミング戦略」があります。これらは密接に関係しますが、目的と適用範囲が異なります。つまり、
- ブランドポートフォリオ=「何を持つか」
- ブランド体系=「どう整理するか」
- ブランド戦略=「どう育てるか」
- ネーミング戦略=「どう表現するか」
という関係にあります。

ブランド体系の目的|経営戦略と顧客理解をつなぐ基盤
ブランド体系の議論が混乱する最大の原因は、「ブランド戦略の専門用語を、異なる認識で使っている」ことです。
たとえば、会議で「企業ブランドをどう強化するか」と話していても、ある人は“社名ブランド”のことを指し、別の人は“コーポレートメッセージ”を指している。
また、「マスターブランド」と言いながら、実際には「企業ブランド」と同義で使っているケースも少なくありません。
しかし、企業ブランド=マスターブランドでは必ずしもないのです。
企業ブランドは「会社そのものを象徴する信頼や評判」であり、マスターブランドは「他ブランドを束ね、共通のブランド連想を与える上位ブランド」を意味します。
このような用語の解釈がズレたまま議論を進めてしまうと、ブランド体系を再設計した後に「どの名前を残すのか」「どの事業を統合するのか」で認識が食い違い、最終的には意思決定がブレてしまいます。
まずは、ブランドに関する専門用語を「自社の共通言語」として定義することが重要です。
以下は、一般的なブランド体系設計における用語整理の一例です。このような定義表を作成し、経営・マーケティング・デザイン・営業の全てが同じ言葉を使うことで、議論の前提が統一され、ブランド体系の設計がスムーズに進むようになります。

縦の一貫×横の棲み分け|ブランド体系設計の基本フレーム
ブランド体系を設計するうえで重要なのは、「縦の一貫性」と「横の棲み分け」という2つの視点です。
この2軸を整理することで、企業全体のブランド構造に秩序が生まれ、顧客にも“理解しやすく、選びやすい”状態が実現します。
❶ 縦の関係:上位ブランドと下位ブランドの「一貫性」

縦の関係とは、企業ブランド → 事業ブランド → 商品ブランドといった階層構造の整合性を指します。
各階層で語るストーリーがバラバラだと、ブランド全体の信頼が崩れます。
たとえば、企業ブランドが「革新」を掲げているのに、事業ブランドが「安心・安定」をメインに打ち出していれば、顧客は混乱します。縦の一貫性を保つためには、以下の3点を意識しましょう。
- Purpose(存在価値):上位ブランドの理念を下位ブランドでどう具現化するか
- Promise(約束価値):共通の信頼軸をどう共有するか
- Personality(らしさ):トーン&マナーをどう一貫させるか
アップルのように「デザイン × 革新 × シンプル」というアイデンティティを、企業→プロダクト(Mac/iPhone/AirPods)まで貫いて表現しているブランドは、この“縦の一貫性”が極めて強い例です。
上位ブランドが理念を語り、下位ブランドがその理念を体験で証明する──この構造ができている企業ほど、ブランド価値は階層的に増幅していきます。
❷ 横の関係:ブランド間の「棲み分け」

一方、横の関係とは、事業ブランドや商品ブランド同士の関係性を整理することです。
この棲み分けが曖昧だと、社内ではブランド同士が競合し、顧客から見ても「どのブランドを選べばいいのか」が分からなくなります。棲み分けを設計する際のポイントは以下の3つです。
- ターゲットの違い:誰に向けたブランドか(BtoB/BtoC/若年層/富裕層など)
- 提供価値の違い:どんなベネフィットや感情を提供するのか(機能重視/感性重視など)
- 価格・ポジションの違い:どの価格帯・利用シーンを担うのか
たとえばトヨタ自動車は、「TOYOTA」「LEXUS」「GR」などを明確に棲み分けています。
TOYOTAは“大衆の信頼”、LEXUSは“高級志向”、GRは“走りの情熱”といったように、それぞれ異なる価値軸と顧客心理を狙って設計されています。
このように、横方向の棲み分けができていれば、複数ブランドが競合せず、補完し合うポートフォリオとして機能します。
❸ 縦と横のバランスが、ブランド体系の成熟度を決める
縦の一貫性があることで、ブランドは“信頼”を得られ、横の棲み分けがあることで、“市場での存在感”が際立ちます。この2つのバランスが取れたとき、ブランド体系は単なる整理図ではなく、意味のエコシステムとして機能し始めます。
企業ブランドが理念を掲げ、事業ブランドが実行し、商品ブランドが体験で証明する。その一連の流れが、顧客にとって「理解しやすく、選びやすい」ブランド構造をつくるのです。
ブランド体系の3モデル比較|マスターブランド・サブブランド・個別ブランドの使い分け
ブランド体系を設計するうえで、基本となる構造は大きく3つに分類されます。それが「マスターブランド型」「サブブランド型」「個別ブランド型(マルチブランド型)」です。
それぞれの特徴と適用シーンを理解することで、自社のブランド群をどう整理すべきかの方向性が見えてきます。
❶ マスターブランド型
マスターブランド型とは、ひとつのブランド名を傘にして、すべての事業・商品を展開する構造です。別名「モノリシック型」や「ブランド・アンブレラ戦略」とも呼ばれます。
◎ マスターブランド型の特徴
- 企業ブランドの認知・信頼を全商品に波及できる
- ブランド投資を一極集中でき、効率が高い
- 表現やコミュニケーションの一貫性を保ちやすい
◎マスターブランド型のメリット
- 広告・PR・デザイン投資の重複が少なく、スケールメリットが働く
- ブランド価値がすべての事業・商品に伝播しやすい
- 社内で「ブランドの方向性」を統一しやすい
◎マスターブランド型のデメリット
- ブランド毀損が全商品に波及するリスク
- 多様な市場ニーズに対応しにくい
- 拡張しすぎると“何のブランドか分からない”状態になる
◎マスターブランド型の代表的な例
- Google(Google Maps/Google Drive/Google Cloud)
- SONY(Sony Music/Sony Bank/Sony Pictures)
- ユニクロ(UNIQLO U など)
◎マスターブランド型が向いている企業
- ブランド価値の核が明確で、幅広い市場に通用する企業
- 事業やサービスの統一的な理念・ビジュアルで勝負したい企業
❷ サブブランド型
サブブランド型は、マスターブランドの信頼を借りながら、個別ブランドの独自性を発揮する構造です。
企業名(または親ブランド名)を冠しつつ、商品やサービスごとに個性を持たせます。「複合ブランド戦略」や「エンドースド型」と呼ばれることもあります。
◎サブブランド型の特徴
- マスターブランドとサブブランドの“相互補完”構造
- ブランド連想の共有と差別化の両立が可能
◎サブブランド型のメリット
- 新商品・新事業の立ち上げ時に信頼を獲得しやすい
- ブランドを徐々に独立させていく“育成設計”が可能
- ブランドの親和性を保ちながら多様な顧客層をカバーできる
◎サブブランド型のデメリット
- ネーミングや表現設計が複雑になりやすい
- ブランド間の“距離感”の調整が難しい(強すぎても弱すぎても失敗する)
◎サブブランド型の代表的な例
- サントリー:サントリー伊右衛門/サントリーBOSS/サントリー天然水
- 任天堂:Nintendo Switch/Nintendo Wii/Nintendo DS
- 資生堂:SHISEIDO/ELIXIR/MAQuillAGE(段階的に独立)
◎サブブランド型が向いている企業
- 強いマスターブランドを活かしながら、新ブランドを育てたい企業
- 異なるターゲット層に向けた商品展開を予定している企業
❸ 個別ブランド型
個別ブランド型は、それぞれのブランドを独立して展開する構造です。
ブランド名・ポジショニング・ターゲット・表現を完全に分けて運用します。別名「マルチブランド戦略」や「独立型ブランド体系」とも呼ばれます。
◎個別ブランド型の特徴
- ブランドごとに独立した世界観を構築
- カテゴリーや顧客層ごとに柔軟な差別化が可能
◎個別ブランド型のメリット
- 各ブランドが明確なポジションを持ち、市場を取りこぼしにくい
- ブランド連想の“打ち消し合い”を防げる
- 事業売却・M&Aなどの構造変化にも対応しやすい
◎個別ブランド型のデメリット
- ブランディングコストが分散する
- ブランド数が増えるほど、統制・ガバナンスが難しくなる
- 統一的な企業イメージを打ち出しにくい
◎個別ブランド型の代表的な例
- P&G:パンテーン/アリエール/ファブリーズ/ジレット
- ユニリーバ:Dove/Lipton/AXE/Ben & Jerry’s
- トヨタ:TOYOTA/LEXUS(部分的なマルチブランド構造)
◎個別ブランド型が向いている企業
- 多事業・多市場を展開しており、顧客層が明確に異なる場合
- ブランドごとに強い独立性・専門性を打ち出したい企業

どの構造が正しいかに“正解”はありません。重要なのは、「顧客の理解のしやすさ」と「企業戦略の一貫性」が両立しているかどうかです。
自社の事業数・市場多様性・ブランド力を踏まえて、どの構造を採用するか、あるいは複合的に組み合わせるかを見極めましょう。
ブランド体系の作り方|現状整理から設計、運用までの3ステップ
ブランド体系を整えるプロセスは、単なる「整理」ではなく、経営・マーケティング・人材戦略をつなぐ“構造改革”です。ここでは、実務で使える3ステップのアプローチを紹介します。
ステップ1|現状を「整理」する:ブランドの棚卸し
まず最初に行うのは、現行のブランド群を可視化し、現状の構造を理解することです。ここでは、ブランド体系の「全体像」を俯瞰し、重複・ギャップ・非効率を洗い出します。
◎主な作業内容:
- 自社が保有する全ブランド(企業・事業・商品)をリスト化
- 各ブランドの目的・ターゲット・提供価値・主要KPIを整理
- 社内外での“認識のズレ”を調査(顧客調査/社員ヒアリング)
この棚卸しフェーズを怠ると、後工程で「なぜこのブランドを残すのか?」という根本議論が再燃し、意思決定が滞ります。まずはデータと実感の両面から、“ブランドの現状認識”をチーム全体で共有しましょう。
ステップ 2|ブランド体系を「設計」する:意味と構造を再構築
次に、ブランド間の関係性を再定義し、戦略的な体系を設計します。ここでは、縦軸と横軸の両面で「どう一貫させ」「どう棲み分けるか」を明確にします。
◎設計の基本ステップ:
- ブランドの階層(企業/事業/商品)を整理
- 各ブランドの役割・目的・相互関係を定義
- ブランド構造モデル(マスター/サブ/個別)の選定
- 命名ルール・VI(ビジュアルアイデンティティ)・ブランドメッセージの整合化
この段階で重要なのは、「経営の方向性」と「顧客の認識構造」を一致させることです。
組織の論理だけで体系を設計すると、顧客が混乱する“内向きブランド体系”に陥ります。外部視点を踏まえた「理解されやすい意味構造」に落とし込むことが鍵です。
ステップ 3|「運用」する:ガバナンスとアップデート設計
設計したブランド体系は、一度つくって終わりではありません。新規事業・M&A・リブランディングなど、変化に合わせて柔軟に更新していく「運用フェーズ」が重要です。
◎運用のポイント:
- ブランド管理体制の明確化(責任部署・意思決定プロセス)
- ブランドポートフォリオレビューの定期化(年1回など)
- 新ブランド立ち上げ時の判断基準(どの階層に置くか・命名規則など)
- 社内向け「ブランド体系ガイドライン」の策定
さらに、ブランド体系の構造が顧客接点でも一貫して反映される状態を目指します。
経営とつながるブランド体系|投資配分とLTV思考の導入
ブランド体系の最も重要な目的は、「どこに経営資源を集中させ、どのブランドを伸ばすか」を明確にすることです。
単なる整理図ではなく、投資判断・事業戦略・マーケティング戦略を結びつける“経営の羅針盤”として機能させる必要があります。
ブランドポートフォリオを「資源配分のマップ」として使う
ブランド体系を可視化すると、各ブランドが企業全体の中でどんな役割を果たしているかが一目でわかります。その情報をもとに、「投資するブランド」「維持するブランド」「整理すべきブランド」を明確に区分できます。
典型的な評価軸は以下の通りです。

このようにブランドポートフォリオを定量・定性の両面で分析することで、「感覚的に強いブランド」ではなく「経営的に残すべきブランド」を見極めることができます。
ブランド単位でのLTV(ライフタイムバリュー)設計
ブランド体系の再設計において、近年特に重要視されているのが「ブランド単位のLTV思考」です。
従来のLTVは「顧客生涯価値(顧客がどれだけ買い続けるか)」という発想でしたが、ブランド体系ではそれを拡張し、「ブランドを通じてどれだけの信頼・感情・再選択を生み出せるか」という視点で捉えます。
たとえば、同一企業の複数ブランド間でLTVを比較すると、短期売上では劣っていても、ブランド好感度や推奨意向の高いブランドのほうが、中長期では“企業全体のLTV”に貢献していることが明らかになる場合があります。
経営・マーケティング・人事を横断する「ブランド資本経営」
ブランド体系の再設計は、マーケティングだけの話ではありません。経営戦略・組織設計・人材戦略とも密接に連動する、いわば“ブランド資本経営”の基盤です。
- 経営企画部門:事業ポートフォリオとブランド構造の整合を管理
- マーケティング部門:ブランドの認知・好意・行動データを統合し、LTVを最大化
- 人事・採用部門:ブランドごとの価値観やカルチャーを明確化し、採用ブランディングに展開
このように、ブランド体系を「企業の意味と成果を接続する構造」として設計すれば、ブランドは単なる“マーケティング資産”から、“経営資本”へと進化します。
ブランド体系の運用とガバナンス|一貫性維持のための仕組みづくり
ブランド体系の設計が完成しても、それを“生かす仕組み”がなければ時間とともに崩壊していきます。
新規事業、商品改廃、M&A、組織変更──変化が激しい時代だからこそ、ブランド体系を「維持・更新する運用ガバナンス」が不可欠です。
❶ ブランド体系は“静的な図”ではなく“動的なシステム”
多くの企業がブランド体系の再構築後に陥る課題は、「体系をつくったが、数年後には現実と乖離している」という状態です。
原因は明確で、ブランド体系を“静的な完成図”として扱ってしまうからです。
実際には、ブランド体系は常に変化に追随する動的なシステムであり、定期的に“現実と意味のズレ”をメンテナンスする必要があります。
そのために重要なのが、ブランド体系の「運用ルール」と「責任設計」です。
❷ ガバナンス設計:責任とルールの明確化
ブランド体系の運用では、誰が・どの段階で・どの判断を行うのかを明確にすることが鍵です。
ブランド乱立の多くは、「承認基準」と「運用責任」が曖昧なことに起因しています。代表的なガバナンス設計の仕組みは以下の通りです。

特に「ブランド体系マップ」を定期的にアップデートすることで、組織全体が“今、自社がどう見られているか”を常に把握できます。
❸ 現場と連動する「ブランド体系運用の仕組み」
運用フェーズでは、現場との連携が欠かせません。ブランド体系を“管理資料”に閉じず、マーケティング・営業・広告・人事が使える実践フレームに落とし込むことが重要です。
主な実務設計のポイント:
◎CRM/MAツールと連動
- ブランド体系の階層を顧客データやキャンペーン設計に反映し、ブランドごとのLTVや購入動線を可視化する。
- CRMデータとブランド階層を紐づけることで、「どのブランドがどの顧客層に最も長く愛されているか」を定量的に把握できる。
◎サイト構造/SEO戦略との統合
- ブランド体系に基づき、Webサイトの情報設計を統一。
- ブランド名・カテゴリー・メタデータを整理し、検索AIが正しく理解できる構造(スキーマ設計)にする。
- これにより、ブランド単位での指名検索・ロングテール流入を最適化できる。
◎広告運用との連携
広告はブランド体系の“発信面”を担います。ブランドごとに訴求軸やトーン&マナーを統一し、キャンペーン単位でもブランド体系との整合性を取ることで、 “短期成果”と“長期的ブランド資産”の両立が可能になります。
さらに、各ブランドの役割に応じてクリエイティブガイドラインを策定し、広告代理店や制作パートナーにも共有することで、一貫したメッセージングを維持します。
こうした連携を仕組み化することで、ブランド体系は“管理されるもの”から“生かされる構造”へと進化します。
マーケティング・広告・CRM・PRすべてが「同じブランド地図」を共有することで、顧客体験の一貫性が企業成長の再現性につながるのです。
④ 継続的改善:ブランドヘルスのモニタリング
ブランド体系の維持に欠かせないのが、ブランドヘルスチェックの定期化です。単に認知度や売上を見るのではなく、「ブランドの健康状態」を継続的に測定します。
◎主要KPIの例:
- ブランド認知率
- 好意度・信頼度
- 推奨意向・再購買率
定期的にこれらをレビューし、体系全体のバランスをチューニングすることで、ブランドポートフォリオ全体の“意味の整合”が保たれます。
FAQ|ブランド体系の実務でよくある質問
Q1. M&A時、買収したブランドは必ずグループブランドに統合すべきですか?
必ずしも統合が正解とは限りません。
統合すべきかどうかは、コア/ノンコア事業の位置づけ、ブランド連想の相性、チャネルの重複度の3つで判断します。
たとえば、買収先が既存ブランドと重複する市場であれば統合が合理的ですが、独自の顧客基盤や価値観をもつ場合は独立ブランドとして残す方がブランドポートフォリオ全体の強さを保てます。
Q2. 新規事業を立ち上げる際、既存ブランド名を使うべきか、新ブランドを作るべきか迷います。
既存ブランドの連想がプラスに働くなら、マスターブランドの傘下で展開するのが効果的です。
逆に、価格帯・価値観・顧客層が大きく異なる場合は、新ブランド(サブ/個別ブランド)として独立させた方が、ブランド連想の混乱を防げます。
判断の基準は、「同じ名前を使うことで、顧客の期待が上がるか/下がるか」です。
Q3. 統合のタイミングはどのように決めればいいですか?
ブランド統合は段階的に進めるのが理想です。まずは「〇〇 by グループ名」のようなエンドース型で共存させ、顧客の理解と信頼を維持します。
その後、徐々にサブブランド化 → 再定義/独立の順に移行することで、ブランド連想を損なわずに統合効果を高められます。
一気に統合すると、既存顧客の離反やブランド毀損のリスクが高まります。
Q4. ブランド統合に伴うリスクにはどんなものがありますか?
主に3つのリスクが存在します。
① レピュテーション波及リスク(一方のブランドの評判が他方に影響する)
② チャネル衝突リスク(販売経路や取引関係の混乱)
③ 価格帯の背反リスク(高級・低価格のブランド連想が打ち消し合う)
これらを防ぐには、統合前にブランドごとのポジションマップを整理し、どの層をどのブランドでカバーするのかを明確にしておくことが重要です。
Q5. ブランド統合後に失敗を防ぐための運用ポイントはありますか?
統合後の“見せ方”と“語り方”が成否を分けます。
- ブランドサイトやSNSの階層構造をブランド体系と一致させる
- ブランドビジュアルやコピーを一貫トーンに再設計する
- 社内外への移行メッセージを明確にする(例:「〇〇ブランドは△△グループの一員になりました」)
れにより、顧客・社員・投資家すべてが混乱せず、スムーズに新体系へ移行できます。
まとめ|ブランド体系で「意味」を運用資産に変える
ブランド体系の目的は、ロゴや名前を並べることではありません。それは、企業の中に散らばった意味や価値をつなぎ直し、ひとつの「生きた構造」として機能させることにあります。
ブランドが増えるほど、何を伝えるかよりも、どうつながるかが問われます。理念・事業・商品・広告・人――それぞれが同じ意味を共有するとき、ブランドは“図面”から“力”へと変わります。
ブランド体系とは、経営の羅針盤であり、現場を動かす仕組みです。整えることで、投資が定まり、言葉がそろい、顧客の理解が深まり、社員の誇りが育っていきます。
意味を整え、構造を生かす。それが、乱立の時代における、ブランドを強くする新しい経営のかたちです。
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自社が「何を売るか」ではなく「顧客にどんな価値を届けているか」を、チーム全員の共通言語に。
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