ブランド戦略・パーパス・サステナビリティ

2025.11.03

ブランドマネジメントとは?意味・目的・やり方をわかりやすく解説|ブランディングとの違いも紹介

本記事の要約

ブランドマネジメントとは、ブランドに対する信頼・共鳴・感情移入といった「ブランドエクイティ(資産)」を維持・強化するための継続的なビジネス活動です。

ブランディングが戦略と実行のフェーズであるのに対し、ブランドマネジメントはその成果を管理・評価するフェーズを担います。

心理的・機能的・社会的価値の3側面からブランドを総合的に管理し、変化の激しい市場環境の中でも一貫した価値提供と持続的な事業成長を実現するための取り組みです。

目次

はじめに|なぜ今、ブランドマネジメントが重要なのか

近年、ビジネス環境はこれまでにないスピードで変化しています。

 

どれほど優れた商品やサービスを揃えていても、競合がすぐに似た価値を打ち出し、情報がSNSを通じて一瞬で拡散する――そんな「同質化の時代」に、ブランドを長く保ち続けることは容易ではありません。

 

かつては、広告投下やキャンペーン施策によって一時的な成果を上げることもできました。

 

しかし今では、短期的な施策を積み重ねるだけでは、ブランドが持つ「信頼」や「感情移入」を維持・強化することは難しくなっています。

 

企業が本当に目指すべきは、「一度つくったブランドを、いかに長く愛される存在に育てるか」です。

 

そのためには、戦略を立てるだけでなく、それを継続的に機能させ、磨き続ける“仕組み”が欠かせません。

 

この“仕組み”こそが、ブランドマネジメンです。

 

ブランディングが「ブランドの戦略と実行」を担うのに対し、ブランドマネジメントはブランドを管理・評価し、成果を拡大する」役割を担います。

 

ブランドをつくる力と、ブランドを生かし続ける力――。

 

この両輪がそろってはじめて、ブランドは社会の中で確固たる存在感を持ち続けることができるのです。

 

本記事では、ブランドマネジメントの基本的な考え方から構成要素、そしてブランディングとの違いまでを体系的に整理し、紹介します。

 

読み終えたときには、自社のブランドを「一時的な成果」から「持続的な資産」へと育てるための具体的なヒントが得られるはずです。

 

ブランドマネジメントとは?戦略を“継続的な成果”に変える仕組み

ブランドマネジメントとは、ブランディングの効果が最大化するように一貫して管理・評価していくプロセスを指します。

 

言い換えれば、ブランディングによって構築されたブランドを、現場で確実に機能させ、長期的に成果を維持するための運用システムとも言えます。

 

多くの企業では「ブランドをつくる」こと、つまりブランディングに注力する一方で、その後の「ブランドを守り、育てる」フェーズ――すなわちブランドマネジメントが後回しになりがちです。

 

しかし、ブランドは一度構築すれば終わりではありません。時代の変化、顧客の期待、社会的文脈の変遷によって、ブランドの“意味”も常に更新が求められます。

 

たとえば、ブランドのトーンやデザインがバラバラになれば「一貫性」が損なわれ、発信と体験がずれれば「信頼」は崩れ、市場変化に対応できなければ「存在価値」を失ってしまう。

 

ブランドマネジメントの目的は、こうしたリスクを未然に防ぎ、ブランドの価値を継続的に積み上げていく状態を保つことにあります。

 

そのためには、ブランドを「感覚で扱うもの」から「資産として管理するもの」へと意識を転換することが必要です。

 

つまり、ブランドマネジメントとは、企業が持つブランドを戦略資産(Strategic Asset)として捉え、計画・実行・検証・改善を循環させるアプローチなのです。

 

ブランドを“資産”として捉える理由と「ブランド提供価値」の3側面

かつて企業価値の大部分は、工場や設備、在庫といった「有形資産」で構成されていました。

 

しかし現在では、ブランド・知的財産・人材・顧客関係などの「無形資産」が企業価値の7割以上を占めると言われています。

 

その中でもブランドは最も再現が難しい無形資です。

 

競合が同じ技術やサービスを真似することはできても、「このブランドでなければ」と選ばれる理由までは再現できません。

 

たとえば、価格や機能が似通った商品が並ぶ中で、顧客があるブランドを選ぶ理由の多くは、「信頼しているから」「そのブランドなら感情が満たされるから」「自分の価値観にフィットするから」といった感情的要因にあります。

 

この“感情移入”こそが、ブランドの最大の資産価値です。

 

ブランドマネジメントは、こうした感情的価値を継続的に積み上げ、資産として管理する仕組みと言えます。その中心にあるのが「ブランド提供価値」という考え方です。

 

ブランド提供価値とは、ブランドが持つ価値を心理的価値・機能的価値・社会的価値の3つの視点から捉え、企業の持続的成長に結びつけていく概念です。

 

  • 実利価値:品質・利便性・実用性などの実利的満足
  • 感情価値:信頼・共感・感情移入といった感情的なつながり
  • 社会的価値:理念・文化・社会貢献といった社会的意義

 

 

ブランドマネジメントの役割は、これら3つの価値をバランスよく高め、ブランドを“選ばれる資産”から“選ばれ続ける資産”へと進化させることにあります。

 

ブランドマネジメントの9要素:戦略を機能させるための実践的フレームワーク

どれほど優れたブランド戦略を描いても、運用や組織が機能しなければ成果は長続きしません。

 

逆に、優れたブランドマネジメント体制があれば、一度築いたブランド価値を資産として積み上げ、変化する市場環境の中でも安定的に成果を出し続けることができます。

 

ブランドマネジメントを実務として運用する際には、次の9つの要素を押さえておく必要があります。

 

 

① コーポレートブランドのマネジメント

 

すべてのブランド活動の基盤となるのが、企業そのものの存在価値や理念を体現する「コーポレートブランド」です。

 

ここで問われるのは、「私たちは何者なのか」「なぜ存在するのか」というパーパスの明確化です。

 

単なるロゴやスローガンの刷新に終わらせず、企業カルチャー・人材・経営判断にまで一貫させることが重要です。

 

 

 

② ブランドポートフォリオのマネジメント

 

複数の事業やブランドを持つ企業にとって、全体の整合性とシナジーをどう設計するかは極めて重要です。

 

ブランド同士が競合(カニバリゼーション)せず、互いを補完し合うよう体系的に整理することが求められます。

 

ポートフォリオ戦略によって、経営資源をどこに集中すべきかが明確になります。

 

 

 

③ ブランド組織・人材のマネジメント

 

ブランドを育てるのは、戦略書でも広告でもなく「人」です。

 

ブランドを理解し、体現し、守り抜く人材が社内に存在しなければ、ブランド価値は維持できません。

 

そのために、ブランドマネージャー制度やブランド推進委員会など、横断的なガバナンス体制が不可欠です。

 

 

④ ブランドデザインポリシー(VI)のマネジメント

 

デザインは、生活者にとって最初に触れるブランド体験です。色・形・トーン・フォントといった視覚要素は、「信頼」や「高品質」といった印象を左右します。

 

部門ごとにバラバラな表現が散見されると、ブランドの一貫性は一瞬で崩れます。したがって、ビジュアルアイデンティティ(VI)の統一と運用ルールの徹底が必要です。

 

 

 

⑤ ブランディングプロセスと成果のマネジメント

 

ブランディング活動もビジネス投資の一部である以上、と投資効果の可視化が求められます。

 

「どの施策がどの指標を改善しているのか」を測るため、KPI・KGIの設定とモニタリングを行う仕組みを整えましょう。

 

ブランドKPIは、認知・好意・信頼・推奨などの心理指標と、売上・LTVなどの経済指標の両輪で設計します。

 

 

⑥ 市場変化へのマネジメント

 

ブランドの価値は、時代とともに変化します。

 

市場トレンドや消費者意識、テクノロジーなど、変化を常にモニタリングし、戦略を柔軟にアップデートすることが欠かせません。

 

プロダクトライフサイクルや社会的潮流の変化を先読みし、機動的に対応できる組織体制が鍵となります。

 

 

⑦ 価格(プライシング)のマネジメント

 

価格は、ブランドの「信頼」と「価値」を最も端的に表す要素です。

 

安易な値引きはブランド毀損につながり、積み上げた信頼を一瞬で失うリスクを孕みます。

 

ブランドの提供価値に見合った価格戦略を維し、短期的な販促圧力に屈しない経営判断が求められます。

 

 

⑧ ブランドエクイティのマネジメント

 

ブランドは企業の「無形資産」です。

 

その資産価値は、心理的価値(信頼・共感・好感)、機能的価値(品質・利便性・実用性)、社会的価値(理念・文化・貢献)の3層で構成されます。

 

ブランドエクイティの蓄積を可視化・評価し、ブランド拡張やリブランディングに戦略的に活かすことが重要です。

 

 

⑨ 知的財産権(IP)のマネジメント

 

ブランドは「名前」や「ロゴ」だけでなく、企業の思想やストーリーも含めた“知的資産”です。

 

それを守るためには、商標・意匠・著作・特許などの法的保護が欠かせません。

 

特に商標権は先願主義であるため、ブランド構築の初期段階から法務戦略と連携することが必要です。

 

ブランドマネジメントの9要素は、単なる管理のチェックリストではなく、ブランドを「生きた資産」として運用し続けるための循環構造です。

 

これらが組織的に機能するとき、ブランディングで築かれた価値は、「一過性の成功」から「持続的な成果」へと転換されていきます。

 

ブランディングとブランドマネジメントの違い ― 戦略と実行、管理と評価の関係性

ブランディングとブランドマネジメント。この2つの言葉は混同されがちですが、実はその役割は明確に異なります。

 

ブランディングとは、「ブランドをどうつくるか」という戦略と実行の話です。

 

一方、ブランドマネジメントとは、「ブランドをどう育て、どう守るか」という管理と評価の話です。

 

両者は決して分離して存在するものではなく、ブランドの成長を循環的に支える“両輪”の関係にあります。

ブランディングが創造のフェーズだとすれば、ブランドマネジメントは持続のフェーズです。

 

 

◎ ブランディング:価値を生み出す「戦略と実行」

 

ブランディングの目的は、生活者の心の中に「他にはない独自の役割と感情移入」を築くことです。

 

そのために、パーパスやビジョンを定義し、デザインやコミュニケーションを通じて価値を届けていきます。

 

すなわちブランディングとは、ブランドの“理想像”を社会に実装していく創造的プロセスです。

 

ターゲットの選定からブランドストーリー、ビジュアルアイデンティティ、広告・プロモーションに至るまで、「ブランドをどう見せ、どう感じさせるか」をデザインする活動全体を指します。

 

 

◎ ブランドマネジメント:価値を維持・拡張する「管理と評価」

 

一方のブランドマネジメントは、ブランディングによって生み出された価値を“継続的に成果へと変える”プロセスです。

 

ブランド体験が一貫して提供されているか、認知や信頼は向上しているか、資産価値(ブランドエクイティ)は積み上がっているか──

 

こうした観点でブランドを定期的にモニタリングし、改善サイクルを回します。

 

ブランドマネジメントが機能していなければ、せっかく築いたブランドも維持できず、価格競争や機能比較の波に飲み込まれてしまいます。

 

 

◎ 両者の関係:ブランディングが“戦略”、ブランドマネジメントが“運用”

 

両者の関係を図式化すると、次のように整理できます。

 

 

 

 

ブランディングがなければ、ブランドマネジメントは始まりません。しかしブランドマネジメントがなければ、ブランディングは“打ち上げ花火”で終わります。

 

この2つを分断せず、戦略から運用・評価までを一貫させることこそが、ブランドエクイティを継続的に高める鍵となるのです。

 

FAQ|ブランドマネジメントに関するよくある質問と誤解の整理

Q1. ブランディングとブランドマネジメントの違いは何ですか?

 

ブランディングは、ブランドの「戦略と実行」の話、ブランドマネジメントは、その成果を「管理と評価」する話です。

 

ブランディングが“価値を生み出す”活動だとすれば、ブランドマネジメントは“価値を維持・拡張する”活動です。

 

両者は決して対立概念ではなく、むしろ連続するプロセスです。戦略(ブランディング)→実行→評価(ブランドマネジメント)という循環を設計することで、ブランドエクイティ(心理的・機能的・社会的価値)を継続的に高めることができます。

 

 

Q2. ブランドマネジメントの目的は何ですか?

 

ブランドマネジメントの目的は、「ブランド資産を長期的に育てること」です。一度構築したブランドも、放置すれば必ず劣化します。

 

  • 市場変化に対応できているか
  • 顧客がブランドを正しく認識しているか
  • 社員がブランドの理念を体現できているか

 

こうした要素をモニタリングし、戦略を改善し続けるのがブランドマネジメントの本質です。

つまり、ブランドを“つくる”のではなく、“育てる”営みなのです。

 

 

Q3. ブランドマネジメントを始めるには、まず何から取り組めばいいですか?

 

最初にやるべきは、「ブランドの現状把握」です。

 

ブランドの認知度・好感度・信頼度・推奨度といった指標を可視化し、理想とのギャップを明らかにすることが出発点です。

 

 

Q4. ブランドマネジメントの成果は、どう測定すればよいですか?

 

ブランドマネジメントの成果は、定量評価と定性評価の両輪で測定します。

 

◎ 定量評価(数値的な成果)

  • ブランド認知率・想起率
  • ブランド推奨度(NPS)
  • ブランドエクイティスコア
  • 売上・LTV・利益率

 

◎ 定性評価(感情・信頼の評価)

  • ブランドに対する信頼・共感・好意の変化
  • 社員のブランド理解度・体現度
  • 顧客からのブランド体験に関する声

 

特に注目すべきは「心理的価値」「機能的価値」「社会的価値」の3層です。

これらが継続的に高まっているかどうかを確認することが、ブランドマネジメントにおける最重要ポイントです。

 

 

Q5. ブランドマネジメントとマーケティングの関係は?

 

マーケティングは「売るための仕組みづくり」。ブランドマネジメントは「売れ続けるための仕組みづくり」です。

 

マーケティングが短期的な売上を生む装置だとすれば、ブランドマネジメントは中長期的に信頼とロイヤルティを育てる装置です。

 

つまり、マーケティングが「刈り取る」活動なら、ブランドマネジメントは「育てる」活動です。両者をバランスよく設計することで、ブランドは“売上”と“信頼”の両立を実現します。

 

 

まとめ|ブランドマネジメントは“信頼を育てる仕組み”

ブランドマネジメントとは、ブランディングによって生み出された価値を「維持・強化」し、持続的にブランドエクイティを高めていくための仕組みです。

 

ブランディングが“戦略と実行”を担うフェーズだとすれば、ブランドマネジメントは“管理と評価”を担うフェーズです。

 

企業が目指すべきは、「売れるブランド」ではなく「信頼され続けるブランド」です。

 

そのためには、ブランドを一過性の施策ではなく、経営と一体化した“長期的な資産”として扱う視点が欠かせません。

 

心理的価値(共感・好感)、機能的価値(品質・利便性)、社会的価値(理念・貢献)をバランスよく育てることで、ブランドは単なる商品名を超え、企業そのものの存在理由を語る象徴へと進化します。

 

「ブランドはつくるものではなく、育て続けるもの」――それが、これからの時代におけるブランドマネジメントの本質です。

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PROFILE 著名者プロフィール

羽田 康祐 はだ こうすけ

  • ストラテジックプランニングディレクター
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