ブランド戦略・パーパス・サステナビリティ

2025.10.06

セグメンテーションがマーケティング成功の鍵!|意味・やり方から分析手法まで解説

本記事の要約

現代の市場は情報洪水とニーズ多様化により、従来型のマスマーケティングでは成果が得にくくなっています。

その中で重要なのがセグメンテーションです。市場を細分化し共通特性を持つ顧客群を特定することで、資源を効率的に集中できます。

ターゲティングやポジショニングの前提となる戦略的出発点であり、ROI最大化やブランド力強化、LTV向上につながる基盤です。

目次

はじめに|なぜ今「セグメンテーション×市場細分化」がマーケティング戦略で重要なのか

いま、BtoC・BtoBを問わず、マーケティングの現場は「情報洪水」のど真ん中にあります。

 

SNS、検索広告、レビューサイト、ECプラットフォーム…。生活者も、BtoBの意思決定者も、毎日膨大な情報の中から「自分に関係のあるものだけ」を瞬時に選び取っています。いわば、「情報のセグメンテーション」を生活者自らが行っている状態です。

 

同時に、多くの市場はすでに成熟期に入り、ニーズもかつてないほど多様化しました。かつては、「そこそこ平均的な商品」と「広く届けるマス広告」でも、一定の成果が出せました。しかし今は、

 

  • 「平均的な商品」ほど価格競争に巻き込まれやすい
  • 「誰にでも向けたメッセージ」は、誰の心にも残らない

 

という状況になっています。いわゆる「マス向け」の発想だけでは、ブランドがあっという間に“その他大勢”に埋もれてしまう時代です。

 

ここで重要になるのが、「どの顧客に集中するか」を決める セグメンテーション戦略です。

 

セグメンテーションとは、一言でいえば「市場を細かく切り分けること」。

 

ただし、その本質は 限られたリソースを“狙うべき市場機会”に集中させるための設計図をつくることにあります。BtoCマーケティングでもBtoBマーケティングでも共通する、STP分析の“出発点”となる考え方です。

 

すべてのマーケティング戦略の基本フレームである STP戦略 は、

 

  • S:Segmentation(市場の細分化・セグメンテーション)
  • T:Targeting(狙う市場の選定・ターゲット設定)
  • P:Positioning(独自ポジションの確立・ポジショニング戦略)

 

という3つのステップで構成されています。そのいちばん最初に位置するのが、この「セグメンテーション」です。

 

ここで市場の切り方(セグメンテーションの軸選定)を誤れば、その後のターゲティングも、ポジショニングも、クリエイティブや商品開発までも、すべての前提がズレてしまいます。

 

逆にいえば、セグメンテーションがシャープであればあるほど、マーケティング戦略全体の精度と再現性は一気に高まります。

 

この記事では、「なんとなく分かるけれど、実務でどう使えばいいか分からない」となりがちなセグメンテーションのやり方について、

 

  • セグメンテーションの基本
    └ STP戦略との関係/地理・人口動態・心理・行動の「4つの変数」を整理し直す
  • 4つの「市場細分化のやり方」を事例でイメージする
    └ コーヒー市場・アイス・眼鏡・日用品などの具体例で、「市場の切り方」のバリエーションを掴む
  • 自社で使える“市場の切り方”のヒントを持ち帰ってもらう
    └ 「うちの市場は、どこをどう切り直せるか?」を考えるための視点をインストールする

 

の3つを解説していきます。

 

単に「セグメンテーションの種類を暗記する」のではなく、BtoB/BtoC問わず、自社の事業・ブランドに当てはめて考えられる “セグメンテーション思考のフレーム” として使える状態を目指して、順を追って解説していきます。

 

※参考:ブランディングとは?感情が動く唯一無二の価値を創り出す戦略入門

セグメンテーションとは?|STP戦略の「S」として市場をどう切り分けるか

STP戦略におけるセグメンテーションの役割

セグメンテーションとは市場を細分化し、共通のニーズや特性を持つ顧客グループに分類するプロセスのことです。

 

「市場セグメンテーションの定義」を一言で言えば、「同質性の高い顧客グループを見つける作業」とも言えます。

 

マーケティング戦略の基本である STP戦略(STP分析)の最初のステップであり、「どの市場で戦うべきか」を決めるための最も重要な前提になります。

 

 

● STP戦略の全体像

  • S:Segmentation(市場の細分化)
    └ 市場をさまざまな切り口で分類し、“地図”を描くプロセス
  • T:Targeting(狙う市場の選定)
    └ 細分化した市場の中から、最も勝てる領域を選び出す
  • P:Positioning(顧客の頭の中での独自ポジション確立)
    └ 選んだターゲットから見て、「唯一の選択肢」になる立ち位置を設計する

 

セグメンテーションは、STPの起点です。ここでの切り分けが曖昧だと、後のターゲティングも、ポジショニングも、すべてがズレてしまいます。

 

 

 

セグメンテーション・ターゲティング・ポジショニングの違いとよくある失敗例

「セグメンテーションとターゲティングの違いが分からない」「ポジショニングまでごちゃっとしている」という相談は、BtoB・BtoC問わずよくあります。

 

しかし、この3つは似ているようで、役割が完全に異なります。

 

 

● セグメンテーション=「地図を描く(市場をどう区切れるか)」

  • 市場全体をどう分類できるか?
  • どんな顧客群が存在しているか?
  • どこに市場機会が潜んでいるか?

 

いわば“地形を正しく理解する”プロセスです。セグメンテーション設計の精度が、その後の戦略の精度を決めます。

 

 

● ターゲティング=「目的地を選ぶ(どのセグメントを狙うか」

  • その中で、どの市場が最も勝ちやすいか?
  • 自社リソースや強みと合致するのはどこか?

 

セグメンテーションで描いた“地図”の中から、「行くべき場所(ターゲットセグメント)」を選ぶ工程です。

 

 

● ポジショニング=「目的地でどう見られるかを設計する」

  • 選んだ顧客に、何の価値で存在意義を伝えるか?
  • どのような独自性で“替えのきかないブランド”になるか?

 

ターゲットにとっての“唯一の選択肢”としての立ち位置を定める、ポジショニング戦略のフェーズです。

 

 

【混同したときに起こる典型的な失敗例】

  • 性年代だけで雑にターゲット設定してしまう
    → 実際の行動や価値観を捉えられず、「20代女性向け」などのふわっとしたターゲットペルソナになり、刺さらないメッセージになる
  • ターゲット選定をせず、なんとなく大きい市場を狙ってしまう
    → リソースが分散し、結果的に誰にも届かない
  • ポジショニングを「競合よりちょっと安い・ちょっと便利」など表面的な差別化にしてしまう
    → 顧客の心に残らない、競争力のないブランドになる

 

セグメンテーションを正しく設計することは、BtoCでもBtoBでも、マーケティング戦略全体の“芯”をつくることと同義です。ここがシャープになれば、戦略の精度も一気に高まります。

セグメンテーションの3種類|市場・消費者・顧客をどう切り分けるか

セグメンテーションには、大きく分けて3つの種類があります。それぞれの目的と活用シーンを理解することで、戦略に応じた適切な切り分けが可能になります。

 

 

1. 市場細分化(Market Segmentation)とは|どの市場領域で戦うかを決める

新たな市場機会を発見することを目的とする、「市場そのものの切り方」に関するセグメンテーションです。「どの領域を自分たちの市場と見なすか?」を決める戦略レベルの市場細分化と言えます。

 

  • 例:コーヒー市場を「家庭用」「アウトドア用」に分けることで、新しい成長領域を見出す。
  • 例:日用品市場を「自宅用」「オフィス用」「旅行用」など、利用シーンで分ける。

 

 

2. 消費者セグメンテーション(Consumer Segmentation)とは|潜在顧客を「どんな人か」で分ける

潜在的なターゲット顧客を見極めるためのセグメンテーションです。

 

  • 人口動態(デモグラフィック:年齢・性別・職業・所得など)
  • 価値観(サイコグラフィック:ライフスタイル・趣味嗜好・価値観)
  • 行動データ(ビヘイビアル:購買頻度・チャネル・Web行動など)

 

を組み合わせて、「どんな人たちか(Who)」を描き出します。

 

  • 例:20代女性の「美容意識が高い層」や、30代男性の「健康志向層」など。
  • 例:BtoBであれば、「従業員300名以上×IT投資意欲が高い×SaaS利用経験あり」のようなセグメント。

 

 

3. 顧客セグメンテーション(Customer Segmentation)とは|既存顧客をLTV・頻度・ロイヤリティで分ける

既存顧客を対象にしたセグメンテーションです。LTV(顧客生涯価値)の最大化や、CRM・解約防止・アップセル戦略に直結します。

 

例:

  • 「ライトユーザー」「ミドルユーザー」「ヘビーユーザー」を分けて、それぞれに適したアプローチを行う
  • 「定期購入会員」「単発購入者」「解約リスクが高い層」などを分け、MAツールでシナリオ配信を行う

 

これらのセグメンテーションは独立しているわけではなく、新規市場開拓(市場細分化)ターゲット選定(消費者セグメンテーション)既存顧客強化(顧客セグメンテーション)という流れで相互に関連しています。

 

「市場・見込客・既存顧客」の3レイヤーでセグメントを見ることが、実務ではとても重要です。

セグメンテーションの4変数|地理・人口動態・心理・行動データの基本

セグメンテーションを設計する際の基本軸となるのが、Geographic(地理)/Demographic(人口動態)/Psychographic(心理)/Behavioral(行動)という “4つの変数” です。

 

セグメンテーションのやり方に迷ったら、まずはこの4変数から整理すると、「市場をどう切るか?」が一気に明確になります。

 

 

1. 地理的セグメンテーション(Geographic)|エリア・都市規模・気候で分ける

特徴:エリア・地域特性で切るセグメンテーション

  • 都市/郊外/地方
  • 気候(寒冷地・温暖地)
  • 人口密度
  • 商圏距離

 

向いている領域:

  • エリアマーケティング
  • 小売・飲食チェーン
  • OOH(屋外広告)
  • 配送・ロジの最適化

 

「地域ごとにニーズが変わる」「立地で行動が変わる」場合に最も効果を発揮するセグメンテーションです。

 

 

2. 人口動態セグメンテーション(Demographic)|年齢・性別・所得など属性で分ける

特徴:最も一般的で、広告戦略の基本となるセグメンテーション

  • 年齢
  • 性別
  • 世帯構成
  • 職業
  • 所得
  • 教育レベル

 

特に活躍する領域:

  • メディアプランニング(テレビ・Web広告)
  • 製品の基本ターゲット設定
  • リサーチ設計(調査対象の条件設定)

 

“どんな属性の人か” を捉えるセグメンテーションで、多くのマーケティング戦略の土台となります。

 

 

3. 心理的セグメンテーション(Psychographic)|価値観・ライフスタイルで分ける

特徴:「価値観・ライフスタイル」で切る、近年もっとも重要な変数

  • 趣味嗜好
  • 美意識
  • ブランド志向
  • ライフスタイル
  • 家族観・働き方観
  • サステナビリティ意識

 

重要な理由:

顧客の「なぜ選ぶのか?」(選択理由・価値観)を捉えられるため、ブランディング戦略・コミュニケーション戦略・商品企画 と強く相性が良いセグメンテーションだからです。

 

「価値観の多様化」が進む今、人口動態だけでは届かない深いインサイトを拾ううえで、心理的セグメンテーションは欠かせません。

 

 

4. 行動セグメンテーション(Behavioral)|購買頻度・Web行動・ロイヤリティで分ける

特徴:実際の“行動データ”で切る最も実務的なセグメンテーション

  • 購買頻度・購買金額
  • 利用シーン(自宅・通勤・休日など)
  • Web行動(閲覧・クリック・滞在時間)
  • チャーン(離脱)傾向
  • ロイヤリティ/ファン度合い

 

活躍シーン:

  • CRM(顧客管理)
  • MA(マーケティングオートメーション)
  • EC・D2C
  • リピート施策
  • デジタル広告の最適化(オーディエンスセグメント設計)

 

行動データは「机上のペルソナ」ではなく、実際に動いている顧客 をもとにセグメント設計できる点が強みです。

 

 

4つの変数を組み合わせたセグメンテーション設計と

単独ではなく、複数の変数を掛け合わせることで、セグメンテーションの精度は飛躍的に高まります。

 

例:

  • 地理 × 行動:「都市部 × EC購買頻度が高い層」
  • 人口動態 × 心理:「30代 × サステナブル志向 × 共働き世帯」
  • 心理 × 行動:「ミニマル志向 × まとめ買い行動」

 

このような複合的なセグメントは、広告・商品企画・ブランド戦略の的中率を大幅に高めます。

 

最近では、生成AIやデータ分析ツールを使い、これら4変数を組み合わせた “データドリブンなセグメンテーション” を行う企業も増えています。

市場細分化の4つのやり方|新しい市場機会を見つける切り口デザイン

セグメンテーションは「市場をどう切るか?」という思考そのものです。

 

しかし多くの企業は 「人口動態でとりあえず切る」 という単純な方法(年齢×性別だけの粗いセグメンテーション)にとどまり、市場の本質的な機会を見落としてしまいがちです。

 

そこで本記事では、市場機会を見つけるための 4つの市場細分化アプローチ(市場細分化のやり方・手法) として体系化します。

 

 

4つの市場細分化アプローチの全体像

市場細分化には、次の4つの方法があります。

 

  1. 市場を細分化する(Conventional Segmentation)
  2. プロセスに割り込む(Insert into Customer Process)
  3. 市場を拡張する(Market Expansion)
  4. 市場をリフレーミングする(Market Reframing)

 

 

① 市場を細分化する(Conventional Segmentation)

既存の市場を「用途・シーン・人・価値観」などの切り口でさらに分解し、小さな成長領域を発見していく方法です。

 

例:

  • コーヒー市場を「家庭用/アウトドア用」に細分化
  • 家庭用をさらに「ギフト用/自分用」に細分化
  • 少人数世帯向けに「スティックコーヒー」を開発

 

最もオーソドックスで、再現性の高いアプローチです。

 

 

② プロセスに割り込む(Insert into Customer Process)

顧客が「何かを成し遂げるプロセス(JTBD)」を分解し、そのステップの途中に新しいカテゴリーとして入り込む方法です。

 

例:

  • スキンケアの「洗顔 → 化粧水」の間に“導入美容液(ブースター)”が割り込む
  • ヘアケアの「シャンプー → トリートメント」の後に“アウトバストリートメント”が割り込む

 

顧客の行動プロセスの隙間に新しい価値を作るため、高い差別化が可能な市場細分化手法です。

 

 

③ 市場を拡張する(Market Expansion)

 

そもそもの “市場の定義” を広げ直すことで、ブルーオーシャンを生み出す方法です。

 

例:

  • 眼鏡市場を「視力が悪い人」→「視力が正常な人」に拡張(JINS PC)
  • アイス市場を「子供向け」→「大人向け」に拡張(ハーゲンダッツ)
  • ビール市場を「飲める人」→「飲めない人」に拡張(キリンフリー)

 

定義を変えるだけで競争相手が一気に変わり、独占的ポジションを獲得しやすくなります。

 

 

④ 市場をリフレーミングする(Market Reframing)

複数の市場を統合したり、意味の枠組みを再定義し、“新しい市場カテゴリー” を創り出す方法です。

 

例:

  • 掃除機(ゴミ取り)+雑巾(拭き掃除) → クイックルワイパー
  • 除菌スプレー+消臭剤 → ファブリーズ
  • 化粧水+乳液+美容液 → オールインワンジェル(ドクターシーラボ)

 

“市場と市場のあいだ” に新しい領域をつくるため、競合不在の状態からスタートできるのが強みです。

 

上記の4手法は、単独でも効果を発揮しますが、複数を組み合わせることで 「見落としがちな市場機会」 を発見できます。

① 市場を細分化する|用途・シーン・世帯から「誰の・どんな用途か」を絞り込む

市場細分化の最もオーソドックスな方法が 「既存市場を用途・シーン・世帯などで切り分ける」 アプローチです。

 

コーヒー市場の事例は、用途を起点に市場機会を発見する典型例として非常にわかりやすく、セグメンテーションの本質を学ぶのに最適です。

 

 

コーヒー市場の基本構造|家庭用 vs アウトドア用に分ける市場セグメンテーション

まず大枠の市場をこのように「二分割」するところからスタートします。

 

◎ 家庭用市場

例:ネスレ(エクセラ、ゴールドブレンド)

 

◎ アウトドア用市場

例:スターバックス、ドトール、缶コーヒー(ジョージア・BOSS など)

 

このように “まず大きく市場を分ける” ことで、「どこに競争があり、どこに隙間があるのか」が可視化され始めます。これが市場細分化の第一歩です。

 

 

家庭用コーヒー市場の細分化事例|AGFによるギフト市場攻略

次に、家庭用市場をさらに分解します。

 

  • 自分たち用(家庭で日常的に飲む)
  • ギフト用(贈答・季節の贈り物)

 

AGFはこの中で ギフト市場 にフォーカスしました。

 

  • 「コーヒーギフトは AGF♪」

 

という有名なフレーズが象徴するように、ネスレが強い“日常用途”ではなく、成長余地のある“贈答用途”に集中して大きな成功を収めました。

 

市場を細分化することで、強者ネスレと正面衝突しない勝ち筋(ポジショニング) を発見した好例です。

 

 

さらに細分化①:家庭用アイスコーヒー市場への細分化

ギフト市場が伸び悩み始めたタイミングで、AGFはさらに細分化を推進。家庭用市場を再び「自分用」にフォーカスし、その中から “家庭用アイスコーヒー市場” を新たな成長領域として発見しました。

 

これは「家庭用 × 自分用 × アイスコーヒー」という三軸の細分化による市場機会の発掘 といえます。

 

 

さらに細分化②:少人数世帯向け「ブレンディ・スティック」

AGFの細分化はここで終わりません。家庭用市場を世帯構成で切り直します。

 

  • ファミリー世帯
  • 少人数世帯(単身・DINKSなど)

 

この中で AGF が市場機会を見つけたのが 少人数世帯向けです。

 

  • 小分けで手軽に飲める 「ブレンディ・スティック」 を提案
  • 高いシェアを獲得し、定番カテゴリーへ

 

世帯変化という社会背景を適切にセグメントへ反映させた、市場細分化の成功例です。

 

 

アウトドア用コーヒー市場の細分化:缶コーヒー・オフィス・クラフトボス

アウトドア用コーヒー市場も大きく2つに分けられます。

 

  • プライベート用:カフェチェーン
  • 仕事用:缶コーヒーブランド(ジョージア/BOSS)

 

しかし、ここからさらに仕事用市場の細分化が進みます。

 

  • 作業場用
    例:缶コーヒーのメイン領域
  • オフィス用
    例:
    – マウントレーニア(ランチ女子の“手軽なカフェ体験”需要)
    – ネスカフェ・アンバサダー(オフィス × 同僚用)
    – クラフトボス(オフィス × 男性社員向け、“WORK & PEACE” の価値提案)

 

市場を「場所」「人」「気分」「用途」で複数軸から切り分けることで、BOSSやジョージアが押さえていない新しいポジションを創り出しています。

 

 

「市場を細分化する」とは何か?

 

市場細分化とは、既存市場を、用途・世帯構成・価値観・シーンなどで“切り直す”ことです。これにより、

 

  • 強者と正面衝突しない戦い方が見える
  • 小さな成長市場を発見できる
  • “誰の・どんな用途”に向けるブランドなのかが明確になる

 

市場を細分化することは、ブランドが勝つべき土俵を自分で作り出す ための最も基本的で強力なアプローチです。

② プロセスに割り込む|JTBD発想で生活者プロセスの「隙間」に新カテゴリーをつくる

市場細分化の2つ目のアプローチは、既存のプロセス(生活者が行っているステップ)の“間”に割り込み、新しいカテゴリーをつくる方法です。

 

生活者は商品そのものではなく、「済ませたいこと(JTBD:Jobs-To-Be-Done)」のために商品を購入します。

 

この “済ませたいことのプロセス” を丁寧に分解すると、まだ誰も価値を提供していない“隙間”が見えてきます。

 

 

「プロセスに割り込む」市場細分化とは?|JTBDとステップ分解による新市場の見つけ方

● JTBD(Jobs-To-Be-Done)とは?

生活者が「実現したい/済ませたいタスク」のこと。

 

例:
  • 肌を整えたい
  • 髪をツヤツヤにしたい
  • 朝の準備を効率化したい
  • 香りでリフレッシュしたい

 

 

● プロセス分解のポイント

生活者の行動には必ず“順番”があります。

 

例:スキンケア

 

  1. メイク落とし
  2. 洗顔
  3. 化粧水
  4. 乳液
  5. 美容液

 

この ステップとステップの“隙間” に新しい価値を差し込むのが「プロセスに割り込む」セグメンテーションの本質です。

 

 

スキンケアプロセスへの割り込み事例|ブースター(導入美容液)が生んだ200億円市場

● 従来のステップ

メイク落とし
→ 洗顔
→ (間)
→ 化粧水
→ 乳液・クリーム
→ 美容液…

 

 

● 新たに割り込んだステップ

「洗顔 → 化粧水」の間に“肌の吸水性を高める” という価値を提案。この“挿入ポイント”が新市場を生みました。

 

 

● ブースター市場を生んだ代表ブランド

  • ランコム ジェニフィック
  • アスタリフト ジェリーアクアリスタ

 

 

● 結果

ブースター(導入美容液)市場は 200億円規模 に成長。生活者のプロセスに“もうひとつの正解”を提示することで、新カテゴリーが確立された代表例です。

 

 

ヘアケアプロセスへの割り込み事例|アウトバス・トリートメント市場の成長メカニズム

● 従来のヘアケアプロセス

  • シャンプー
  • インバス・トリートメント(洗い流すタイプ)

 

これが長らく“正解”でした。

 

 

● 新しいステップの挿入

インバスの後に「ツヤを与える:洗い流さないトリートメント」 を追加。= アウトバス・トリートメント の誕生です。

 

 

● 市場規模

こちらも 200億円超 に成長。ヘアケアという既存ルーチンの“外側”に新ステップを作ったことで、まったく新しい領域が生まれました。

 

 

「プロセスに割り込む」とは?

  • JTBD(済ませたいこと)のプロセスを分解し
  • ステップの“間”に新たな価値を差し込むことで
  • 新しいカテゴリーや成長市場を創り出す手法

 

これは、市場細分化というより “市場創造型セグメンテーション” に近いアプローチです。

③ 市場を拡張する|市場定義を変えてブルーオーシャンをつくる

市場細分化の3つ目のアプローチは、そもそもの「市場定義」を変えることで、競合がいない新領域(ブルーオーシャン)をつくる方法 です。

 

既存市場の中で“切り分け”をするのではなく、前提自体を変える ことで、一気に勝ちやすいフィールドを開くのが本質です。

 

 

なぜ「市場定義」がセグメンテーションの前提なのか

セグメンテーションの前提となるのは、「自分はどの市場で戦うのか?」という“市場の定義” です。

 

● 因果推論の例

因果推論は、A → B → C → D と論理が積み上がる思考法ですが、そもそものAが間違っていれば、すべての結論がズレる という特徴があります。これは、セグメンテーションも同じです。

 

● セグメンテーションにおける「A」=市場定義

市場の定義がズレていると…

 

  • 市場細分化(Segmentation)
  • ターゲティング(Targeting)
  • ポジショニング(Positioning)

 

すべてが誤った前提で進んでしまいます。

 

● 市場定義を変えると何が起きる?

  • 見える市場機会が変わる
  • 狙うべき顧客が変わる
  • 競合が変わる
  • 勝ちやすい戦場が変わる

 

つまり、市場定義は 戦略の方向を決める最重要ポイントです。

 

 

視力が正常な人に市場を拡張したJINS PC|眼鏡市場の再定義事例

● 一般的な定義

「眼鏡市場=視力が悪い人」すべての眼鏡チェーンが、この前提のもとで戦っていました。

 

● JINSは市場定義を大胆に拡張

「視力が悪い人」ではなく「視力は正常だが、PCをよく使う人」を市場と見なす=“ブルーライトカット需要”という新しい市場を創出しました。

 

● 結果

  • JINS PCが大ヒット
  • 視力矯正の市場とは別の軸で市場を独占
  • 競合が存在しない新市場を獲得

 

これは市場定義を変えることで勝ち筋を作った典型例です。

 

 

アイスを「大人のおやつ」に変えたハーゲンダッツ|市場拡張によるプレミアム戦略

● 従来の市場定義

「アイスクリーム=子どものおやつ」この前提が当たり前とされていました。

 

 

● ハーゲンダッツの市場定義

「市場=大人」と定義し、大人向けに、

 

  • 高価格帯
  • 高品質
  • 罪悪感の少ない“ご褒美”価値

 

を設計し、“大人用アイス市場”をほぼ独占しました。

 

 

● 結果

  • 競合のロッテ・森永・グリコは「子ども市場」で戦い続ける
  • ハーゲンダッツは競合不在の領域でブランドを確立

 

市場定義の変更が、ブランド価値そのものを変えた例です。

 

 

ビールが飲めない人に拡張したキリンフリー|ノンアル市場セグメンテーションの成功例

● 一般的な定義

「ビール市場=アルコールを飲める人」が当たり前とされ、それまでノンアルコール市場は限定的でした。

 

● キリンフリーの市場定義

「市場=アルコールを飲めない/飲まない人」と定義し、

 

  • ドライバー
  • 妊婦
  • 仕事中
  • 体質的に飲めない人

 

など、まったく競合がいない領域にフォーカスしました。

 

● 結果

  • ほぼ競争相手のいない“飲めない人市場”を獲得
  • 初年度350万ケース超えの大ヒット
  • イベント(海ほたるなど)で認知を広げる

 

市場を広げる発想が、ブランドの存在意義を大きくした代表例です。

 

 

市場を拡張するとは?

“誰を市場と見なすか”を変えることで、競合のいない新領域=ブルーオーシャンをつくることが可能です。

 

市場定義を変える→ 競合が消える→ 戦いやすい市場が生まれるという、極めて戦略的なセグメンテーションです。

④ 市場をリフレーミングする|市場カテゴリーの意味を組み替えて新価値を生む

市場細分化の最後のアプローチは「市場そのものの意味(フレーム)」を再定義し、新しい市場構造をつくる方法です。

 

これは「細分化」でも「拡張」でもなく、“市場の見え方”を根本から組み替える発想=リフレーミング(Reframing) にあたります。

 

 

市場をリフレーミングするとは?|複数市場の統合と新カテゴリー創造のフレーム

市場には、多くの場合「当たり前の前提」があります。

 

  • 例:掃除は「掃除機」+「雑巾」
  • 例:スキンケアは「化粧水」→「乳液」→「美容液」

 

しかし、その“当たり前”を疑い、市場をまったく別の枠で捉え直す(Reframe)ことで、新たなカテゴリーを生み出すのがこのアプローチです。リフレーミングは次の特徴を持ちます。

 

  • 既存市場の境界を取り払う
  • 2つ以上の市場を統合して「新しい市場」をつくる
  • 結果として競合が存在しない状態をつくれる

 

 

掃除を再定義したクイックルワイパー|掃除機+雑巾市場のリフレーミング事例

● 従来の“掃除”の構造

  • ホコリを取る:掃除機
  • 汚れを拭く:雑巾

 

家庭内では、この2つが「別の作業」だと思われていました。

 

● クイックルワイパーが行ったリフレーミング

花王は “掃除機 + 雑巾” をひとつの行為として再定義。「ホコリ取り+汚れ取り」が同時にできる道具という新しいフレームを提示し、市場を再構築しました。

 

● 結果

  • 新市場(ドライシート式掃除ツール)を創出
  • 今では“掃除機”や“雑巾”と並ぶ標準カテゴリに
  • 競合不在の状態から圧倒的シェアを獲得

 

リフレーミングが最も綺麗に成功した事例のひとつです。

 

 

除菌×消臭で新市場をつくったファブリーズ|2市場統合によるポジショニング戦略

● 従来の市場構造

  • 除菌スプレー市場
  • 消臭スプレー市場

 

この2つは異なるカテゴリーとして存在していました。

 

● ファブリーズが行った市場リフレーミング

P&Gはこれらを統合し、「除菌しながら消臭する」という新しい価値軸 を設定。結果として、除菌市場 × 消臭市場 → 統合市場を生み出しました。

 

● 成果

  • 両市場から顧客が流入
  • 競合不在のポジションでシェア確立
  • 日常生活の“習慣カテゴリー化”に成功

 

リフレーミングは“複数市場を接続する”ことで、大きな成長につながります。

 

 

スキンケア3市場を統合したオールインワンジェル|ドクターシーラボの市場リフレーミング

● 従来のフレーム

スキンケア市場は、

  • 化粧水市場
  • 乳液市場
  • 美容液市場

 

と分断されていました。

 

● ドクターシーラボのリフレーミング

「化粧水 × 乳液 × 美容液」をまとめた新フレーム=オールインワンジェル市場を生み出しました。

 

● 結果

  • 3市場の“間”に新カテゴリーが誕生
  • 顧客は「ステップ短縮」という新価値を獲得
  • オールインワン市場は一大カテゴリに成長

 

リフレーミングの象徴的成功例です。

 

市場をリフレーミングするとは?

既存の市場・カテゴリーの“意味”を組み替え、新たな市場構造(New Frame)をつくることを指します。

 

  • 市場境界を超えて統合
  • 新価値軸を創出
  • 競合不在の市場で戦える
  • 購買行動そのものを変えられる

 

という、もっとも“創造的な市場細分化”のアプローチです。

 

セグメンテーションの測定と改善|KPI・CRM・アンケートで精度を高める方法

セグメンテーションは「設定したら終わり」ではなく、効果を測定し、継続的に改善していくことが成果を左右します。そのためには定量的なKPI管理と定性的な調査の両輪が欠かせません。

 

 

1. KPIでセグメンテーションの効果を測定する|CTR・CVR・LTV・シェア指標

 

代表的なKPIには以下が挙げられます。

 

  • CTR(クリック率):ターゲットに広告が届いているかを確認
  • CVR(コンバージョン率):ターゲットが実際に行動を起こしているかを測定
  •  LTV(顧客生涯価値):ターゲットが長期的に利益をもたらすかを把握
  • シェア拡大:市場全体に対してのブランドの存在感を測定

 

「セグメンテーション戦略が正しかったか?」を検証する物差しとして、これらのKPIを設定します。

 

 

2. CRM・MAによる顧客セグメント分析|価値の高いセグメントの見極め方

 

CRM(顧客管理システム)やMA(マーケティングオートメーション)を活用すれば、顧客データから「どのセグメントが最も価値を生み出しているか」を分析できます。

 

  • 購買履歴
  • Web行動データ
  • カスタマーサクセスのログ

 

などをもとに、ターゲット精度を磨き込むことが可能です。「顧客セグメンテーション×CRM」の組み合わせは、LTV最大化のための王道パターンです。

 

 

3. マス広告でのアンケート活用|ブランド認知・イメージ変化を測るリサーチ設計

 

デジタル広告と異なり、テレビCMや新聞広告は直接的なCTRやCVRを測定できません。そのため、アンケート調査を通じて以下を把握します。

 

  • ブランド認知率(助成想起・純粋想起・第一想起)
  • 広告接触後のブランドイメージ変化
  • メッセージ理解度や共感度

 

これにより、マス広告がどれだけターゲット層に効果を残したかを定量的に確認できます。「マス施策の効果検証 × セグメント別集計」を行うことで、次回のターゲット戦略の精度も上がります。

 

 

4. PDCAサイクルでセグメンテーションを磨き込む|見直し頻度と改善のポイント

 

セグメンテーションは一度で完成するものではなく、環境変化や顧客ニーズの変化に応じて見直す必要があります。

 

  • Plan:仮説を立ててターゲットを設定
  • Do:施策を実行
  • Check:KPIや調査で効果を検証
  •  Act:ターゲットや施策を改善

 

このサイクルを継続することで、セグメンテーションは「机上の設定」から「成果を生み続ける戦略」へと進化します。

FAQ|セグメンテーションとターゲティング設計でよくある質問

Q1. セグメンテーションとターゲティングの違いは?

A. セグメンテーションは「市場を細分化するプロセス」であり、ターゲティングは「細分化された市場の中から狙うべき顧客を選定するプロセス」です。前者が「地図を描く作業」だとすれば、後者は「目的地を決める作業」と言えます。

 

Q2. 中小企業にもセグメンテーションは必要ですか?

A. はい。むしろ中小企業こそ、限られたリソースを効率的に活用するためにセグメンテーションが不可欠です。闇雲に幅広い市場を狙うよりも「最も成果が見込める顧客層」に絞ることで、投資対効果を最大化できます。

 

Q3. セグメンテーションの調査方法は?

A. デジタル広告であれば、Web行動データや購買履歴を分析する方法が一般的です。一方、マス広告の場合はアンケート調査を通じて「ブランド想起」や「イメージ変化」を把握することが効果的です。目的に応じて定量データと定性データを組み合わせることが重要です。

 

Q4. セグメンテーションはどのくらいの頻度で見直すべき?

A. 市場環境や顧客ニーズが変化するため、年に1回以上の見直しが望ましいです。特に新商品の投入や市場トレンドの変化があるタイミングでは、セグメンテーションの再評価が必須となります。

 

Q5. セグメンテーションの成功事例はありますか?

A. 代表例として、コーヒー市場におけるAGFの「ギフト市場への特化」や、ハーゲンダッツの「子供用市場から大人用市場への拡張」があります。これらは市場を細分化・再定義することで新たな成長機会を発見した好例です。

 

まとめ|セグメンテーションがROI・ブランド力・LTVを左右する理由

セグメンテーションとは「市場を細分化し、共通の特性を持つ顧客群を特定すること」であり、マーケティング戦略の出発点です。

 

単なる「分類作業」ではなく、STP戦略(Segmentation/Targeting/Positioning)の前提となる極めて重要なステップです。

 

効果的なセグメンテーションが行われれば、以下の成果が期待できます。

 

  •  ROIの最大化:無駄な広告投資を削減し、狙った層に効率的にアプローチできる。
  •  競合との差別化:平均的な商品設計から脱却し、独自のポジションを確立できる。
  •  長期的なブランド育成:顧客のニーズに即した体験を提供し、ロイヤルティやLTVを高められる。

 

逆に、セグメンテーションを曖昧にしたままでは「誰にも刺さらない状態」に陥り、広告効率の低下や価格競争への巻き込まれを招いてしまいます。

 

いまの時代において、セグメンテーションは「成果を分ける決定打」です。データと仮説検証を行き来しながら、常に測定・改善を重ねていくことで、セグメンテーションはマーケティング戦略を支える強固な基盤となります。

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PROFILE 著名者プロフィール

羽田 康祐 はだ こうすけ

  • ストラテジックプランニングディレクター
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