組織・採用・エンゲージメント
2025.10.02
社員100人の壁をどう越える? スタートアップのためのPMVVとブランディング活用法

本記事の要約
スタートアップが直面する「100人の壁」は、単なる社員数の増加ではなく、組織文化の拡散、人材の多様化、市場競争の激化など事業全体に影響を及ぼす転換点です。
この壁を越えるには、給与や待遇ではなく「共鳴」で人が集まり、社員が「なぜ働くか」を語れ、顧客や投資家が支持できる一貫した物語が必要です。
その基盤となるのが、パーパス・ミッション・ビジョン・バリュー(PMVV)を軸にしたブランディング戦略です。
目次
スタートアップは「0→1」「1→10」と呼ばれるフェーズを突破し、急成長の波に乗った瞬間、次の試練に直面します。社員数が100人前後に達したタイミングで立ちはだかる成長の停滞、それがいわゆる「100人の壁」です。
この壁は単なる社員数増加の問題だけではありません。組織の在り方、人材の多様化、カルチャーの維持、さらには市場での競争戦略まで──事業のあらゆる側面に影響を及ぼす転換点です。
創業期はトップの情熱やスピード感で推進できたとしても、100人規模になると「なぜこの会社が存在するのか」「どんな未来を描いているのか」といった共通の拠り所がなければ、組織は分散し、競合環境の中で埋没してしまいます。
100人の壁をどう乗り越えるか:スタートアップの成長戦略
スタートアップにおける「100人の壁」とは、社員数の拡大による組織の仕組み、人材マネジメント、企業カルチャー、そして事業戦略にまで影響を及ぼす、成長の転換点のことを指します。
まず組織課題 として顕著なのは、創業メンバーのカリスマ性や属人的な意思決定から、制度や仕組み、文化によって組織を支えるフェーズへの移行です。
小規模な頃は経営者の声が直接社員に届き、意思疎通もスピーディーでした。しかし、100人規模になると「暗黙の了解」や「トップの想い」だけでは伝わらなくなり、組織全体を動かすための共通言語や企業理念が不可欠になります。
次に、人材の課題です。採用市場の競争は激化しており、給与や待遇だけでは優秀な人材を惹きつけることは難しくなっています。
さらに、多様なバックグラウンドや価値観を持つ人材が加わることで、組織として「なぜここで働くのか」を明確にできないと、優秀な人材が離職してしまうリスクも高まります。
また、市場課題 も無視できません。スタートアップの成長が注目されればされるほど新規参入の競合は増え、価格競争や機能面での追随が進みます。
かつての独自性が薄れ、「どの商品・サービスも似ている」と見なされやすくなるのです。この段階でブランドが陳腐化すると、投資家や顧客からの期待値も下がってしまいます。
そしてもう一つの重要な視点が、ステークホルダー対応です。社員・顧客・投資家・社会といった多様な関係者に対して、再度一貫性のある成長ストーリーを発信できるかどうかが、企業の信頼と成長可能性を大きく左右します。
イギリスの人類学者ロビン・ダンバー(Robin Dunbar)によると、人間が安定した社会的関係(顔と名前を一致させ、互いの関係性や背景を理解し続けられる関係)を維持できるのは 約150人が上限とされています。
この数は「狩猟採集社会の村落規模」や「軍隊の中隊規模」「教会の典型的な信者数」など、歴史的・文化的に繰り返し現れる人数と一致するとされます。
「100人の壁」とは スタートアップがカリスマ経営から組織経営へと進化するための試練 であり、その突破には戦術の積み重ねではなく、経営の核に「理念」を据えることが不可欠なのです。
企業理念の基本4要素:PMVV
スタートアップが「100人の壁」に直面したとき、最大のチャレンジは人・組織・市場の三方向に一貫した“意味”を提示できるかにあります。その中心として重要性を増してくるのがPMVVです。
PMVVとは、Purpose(パーパス)・Mission(ミッション)・Vision(ビジョン)・Value(バリュー)の頭文字を取ったフレームワーク です。
これらは単なるスローガンや言葉の飾りではありません。社員の行動や顧客体験にまで浸透して初めて意味を持ち、組織カルチャーを支え、社員・顧客・投資家をつなぐ“共通言語”として機能します。
❶ パーパス(Purpose)=実現したい社会像
パーパスは、企業が社会の中で果たす存在価値を示すものです。単に「利益を出すための手段」ではなく、「私たちの事業が広がった先に、どんな社会を実現したいのか」を明確にします。
スタートアップにとって、投資家や顧客が共感できる未来像を提示できるかどうかは、成長の加速に直結します。
❷ ミッション(Mission)=果たすべき使命
ミッションは、組織が「何に取り組むのか」を端的に示す指針です。スタートアップは資源が限られているからこそ、ミッションを通じて「集中すべき課題」を明確にすることが求められます。
全社員が同じ方向を向くための羅針盤となり、日々の意思決定を加速します。
❸ ビジョン(Vision)=将来の自分たちの姿
ビジョンは、スタートアップが将来どんな存在に成長していきたいのかを描く未来像です。
まだ規模の小さい段階だからこそ、大きな夢や方向性を共有することで社員のモチベーションを高め、顧客や投資家にも期待を抱かせることができます。
❹ バリュー(Value)=価値観・行動指針
バリューとは「日々の行動や意思決定を支える価値観・信念」を指します。「何を大切にするのか」を明確にすることで、社員が迷ったときに立ち返れる基準となります。
顧客にとっても、そのブランドが「どんな姿勢で向き合ってくれるのか?」を測る重要なサインになります。
スタートアップが「100人の壁」を迎えるとき、PMVV(Purpose・Mission・Vision・Value)は、単に掲げるスローガンではなく、組織と市場を貫く“経営の羅針盤”としての役割を求められます。
しかし、創業期に勢いでつくられた言葉や、一部の経営陣の想いだけで策定されたフレーズは、成長とともに現実との乖離が生じやすいものです。
社員数が増え、事業が多角化し、顧客や投資家との関係性が複雑化すると、「その企業理念は本当に今の私たちを表しているのか?」という問いが突きつけられます。
だからこそ、100人規模に差しかかった今こそ、PMVVを改めて見直し、組織全体と社会に対して一貫したメッセージを届けることが不可欠です。
これにより、社員は日々の行動に確信を持ち、顧客や投資家は企業の未来に安心感を抱くようになります。
PMVVの策定・見直しのステップ
続いて、PMVVの具体的な策定・見直しのステップを見ていきましょう。
1. 外部環境の変化を把握する
政治・経済・社会・技術(PEST)の視点で、社会や市場の変化を徹底的に分析します。例えば、人的資本経営の潮流や多様な働き方の普及、生成AIの進展などが企業の存在意義に直結します。
2. 自社の歴史や原点を棚卸しする
企業理念は突然つくられるものではなく、企業がこれまで積み上げてきた歴史やDNAの延長線上にあります。創業の精神や、これまで大切にしてきた価値観を整理することが出発点です。
3. 顧客・社会への提供価値を抽出する
商品やサービスを通じて、顧客や社会にどんな価値を提供してきたのかを明確化します。単なる機能や価格のメリットではなく、「なぜ自社が必要とされてきたのか」を深掘りします。
4. 社会に広がったときの未来像(社会視点型パーパス)を描く
提供価値が社会全体に広がったとき、どんな未来が実現されるのかを言語化します。たとえば「挑戦する人を後押しする」という価値を掲げる企業なら、「挑戦が尊重される社会」という未来像を描くことができます。
5. シンプルで共感されるPMVVに落とす
PMVVは美しいだけのスローガンで終わってはいけません。社員が日々の仕事で思い出せるシンプルさと、顧客や社会から共感を得られる普遍性を両立した言葉にすることが重要です。
6. 社員・顧客を巻き込んで共創する
PMVVは経営者が一方的に発信するものではなく、社員や顧客と共に育てるものです。ワークショップや対話の場を設けることで、「自分ごと化」されたPMVVが浸透し、持続的な力を発揮します。
スタートアップが「100人の壁」を乗り越えるには、パーパスを中心に据え、社員・顧客・社会を一貫したストーリーでつなぐことが不可欠です。
100人の壁を越えるためのブランディング戦略
スタートアップが急成長し、社員数が100人規模に達すると、それまでの勢いだけでは前に進めなくなる瞬間が訪れます。
事業の多角化、採用競争、組織カルチャーの拡散、市場での同質化…。こうした課題を一つひとつ「モグラたたき」のように個別の施策で解決しようとすれば、コストも労力も増大し、持続的な成長から遠ざかってしまうでしょう。
そこで必要になるのがブランディングです。
ブランディングとは、単なるデザイン刷新や広告施策ではなく、「私たちは何者なのか」「なぜここに存在するのか」を明確にし、その答えを社員・顧客・社会に一貫して伝える営みです。
この基盤が整うことで、採用・組織・市場・社会との関係性が大きく変わります。
1. 採用ブランディング
スタートアップにとって人材確保は生命線です。しかし給与や待遇といった待遇面だけで人は集まりません。
スタートアップの場合、むしろ優秀な人材ほど「この会社に関わる意味」「社会にどんなインパクトを与えるのか」に価値を見出します。
採用ブランディングは、企業のパーパスやストーリーを通じて、「ここで働くことは自分の人生や価値観に合っている」「社会を変えられる」 と思ってもらうことが重要です。
結果として、条件ではなく共鳴で人が集まり、採用の母集団形成や定着率の向上につながります。
2. インナーブランディング
社員数が増えると、創業メンバーの情熱やトップのカリスマだけでは組織はまとまりません。
部門が増え、価値観が多様化するなかで必要なのは、社員一人ひとりが 「なぜ自分はここで働くのか」を自分の言葉で語れる状態 です。
これが実現できれば、単なる従業員から「ブランドの発信者」へと変わり、離職率の低下やエンゲージメントの向上にも直結します。
3. 商品・サービスブランディング
機能や価格だけでは、競合との差別化はすぐに埋没します。スタートアップが成長フェーズで直面するのは、「どうすれば市場で指名で選ばれ続けるか」という問いです。
ここで鍵になるのが 「ストーリー」で差別化を示すこと。スペックや価格以上に、顧客が「このブランドに共鳴したい」と思える理由を一貫して伝えることで、模倣されにくい独自のポジションを築くことができます。
4. パーパスブランディング
さらに重要なのが、会的な存在価値を明確にする パーパスブランディングです。
スタートアップは顧客や社員だけでなく、投資家・地域社会・パートナーなど多様なステークホルダーからの信頼を得なければ事業成長は限界を迎えます。
「私たちが存在することで、社会にどんな未来を実現できるのか」 を語ることができれば、資金調達や市場拡大においても強力な追い風となります。
FAQ:スタートアップのPMVVとブランディング戦略に関するよくある質問
Q1: 「100人の壁」とは具体的にどのような課題を指しますか?
A1: 「100人の壁」は、スタートアップが社員数100人規模に達した際に直面する組織文化の拡散、人材の多様化、市場競争激化など、事業全体に影響を及ぼす成長の転換点です。
Q2: PMVV(パーパス・ミッション・ビジョン・バリュー)はなぜ重要なのでしょうか?
A2: PMVVは、企業が「何のために存在し、何を成し遂げたいのか」を明確にし、社員、顧客、投資家など全てのステークホルダーに一貫したメッセージを伝えるための共通言語となります。これにより、組織の一体感を高め、成長を加速させます。
Q3: ブランディングはスタートアップにとってどのようなメリットがありますか?
A3: ブランディングは、単なる見た目の美しさだけでなく、企業の存在意義や目指す未来を明確にすることで、優秀な人材の採用、社員のエンゲージメント向上、市場での差別化、そして資金調達や市場拡大を強力に後押しします。
まとめ:PMVVを軸としたブランディングの重要性
スタートアップにとって「100人の壁」は避けて通れない成長の通過点です。勢いだけでは乗り越えられず、組織・人材・市場・社会のすべてを一貫してつなぐ共通の軸が求められます。
その軸こそが企業理念×ブランディングであり、PMVVを中心に据えた戦略的なブランディングこそが、企業の未来を左右します。
ブランディングはロゴやデザインを整えることではなく、「私たちは何者で、なぜ存在し、どんな未来を描くのか」を明確にし、それを社員・顧客・投資家・社会に一貫して伝える営みです。
この基盤を築くことで、採用難や離職率の増加、組織カルチャーの希薄化、競争優位性の低下といった課題を乗り越え、長期的に「指名され続ける企業」へと進化することができます。
言い換えれば、100人の壁を突破できるかどうかは、戦術の巧拙ではなく、「ブランドの意味をどれだけ深く、広く浸透させられるか」にかかっています。
今こそ、パーパスを中心にしたブランディングを経営の核に据え、成長の次なるステージへ進む時です。
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