ブランド戦略・パーパス・サステナビリティ

2025.09.29

経営統合ブランディング完全ガイド:社名変更・ロゴ開発から成功するブランド統合戦略

本記事の要約

経営統合は単なる規模拡大ではなく、企業が社会に示す存在価値=パーパスを再定義する機会です。

社名・ロゴ・VIを意味の統一として設計し、商標・ドメイン・言語で守りを固め、名刺やWebなど全接点を計画的に刷新することが重要です。

統合日は完成ではなく始まりであり、KPIで測定し改善を続けることで、統合ブランドは「新しい看板」ではなく「選ばれ続ける理由」となります。

目次

経営統合ブランド戦略の
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経営統合は、しばしば「規模の経済」「統合シナジー」といった経営合理性から語られます。しかし、「なぜこの統合を行うのか」という、そもそもの意義が明確に答えられなければ、ステークホルダーに対して、いらぬ不安を生み出してしまいます。

 

経営統合は 企業が社会に示す存在価値=パーパス を再定義する絶好の機会です。異なる文化や強みを持つ企業が統合するとき「新会社は、どんな社会を実現していくのか?」を旗印として掲げることが重要です。

 

経営統合を「存在価値を社会に改めて示す契機」と位置づけることで、ブランドは単なる“見た目の統一”から“未来への期待”へと進化します。

 

社員にとっては「働く意味」の再確認となり、顧客や株主にとっては「この経営統合がもたらす価値」を理解するシグナルとなります。

 

一方で、多くのビジネスパーソンにとって、経営統合は一生に一度「あるか、ないか」の取り組みで、暗中模索になりがちです。

 

そこで今回の記事では、経営統合におけるブランド統合のステップについて解説していきます。

 

経営統合におけるブランディングの重要性 ― 存在価値を可視化する旗印

経営統合におけるブランド統合は、単なる「名称」や「デザイン」の変更ではありません。ブランドは、統合後の新会社が 社会に対してどのような存在価値を示すのかを伝える旗印そのものです。

 

 

❶ 社内に対して ― 「働く意味」の再確認

ASAKOの経験上、経営統合の重要なポイントは「不安と期待のマネジメント」にあります。

 

経営統合は社員にとって、組織のアイデンティティや拠りどころが揺らぐ大きな心理的転機です。「自分の役割はどう変わるのか」「会社はどこへ向かうのか」という疑問や不安が必ず生じます。

 

このとき、ブランディングが果たすべき役割は、「新会社の存在価値は何か」を明確に言語化し、それを社員に共有することです。

 

パーパスを起点としたブランド統合は、社員に「新会社で働く意味」や「経営統合によって広がる可能性」を示し、一体感と誇りを醸成します。

 

 

❷ 社外に対して ― 信頼と共感のシグナル

顧客や株主、取引先、地域社会にとっても、経営統合は極めて大きな変化です。統合の意義が十分に伝わらなければ、「うまくいくのか」「大丈夫なのか」といった不安が広がります。

 

新会社の新しいブランドは、単なるロゴや名称の刷新ではなく、「この統合が社会にどんな価値を生み出すのか」を示すシグナルであるべきです。

 

パーパスを軸にしたメッセージは、顧客に安心感を与えるだけでなく、社会との新たな共鳴を生み出します。

 

 

❸ 経営の意思を形にする ― 戦略の一貫性

新会社のブランドはまた、経営トップの意思を可視化する役割も担います。

 

掲げるパーパスとブランドの方向性が一致していれば、社員・顧客・投資家といったステークホルダーからの理解と支持を獲得しやすくなります。

 

逆に、パーパスとブランド表現がちぐはぐであれば、統合の目的は曖昧に見え、長期的な信頼を損なうリスクとなります。

 

経営統合におけるブランド統合のステップ

いよいよここからは、経営統合におけるブランド統合のステップについて解説していきましょう。

 

STEP1:社名開発 ― 存在価値を言葉に込める

経営統合のプロセスで最も注目を集めるのが「新社名・社名変更」です。新しい社名は、統合後の新会社が社会に示す存在価値を言葉で表す象徴であり、社員や顧客にとっては「新しい企業の第一印象」を決定づけるものです。

 

❶ 社名変更の判断基準

 

社名変更の判断基準は、次の通りです。

 

  • ブランド資産の継承か刷新か
    これまでの社名に高い認知度や信頼がある場合は、継承も有効です。一方、統合を機に新しい存在価値や期待を打ち出すなら刷新が効果的です。
  • パーパスとの整合性
    新社名は、統合後のパーパス──すなわち「社会に示す存在価値」と一貫していなければなりません。名前自体が社会への約束を体現するのが理想です。
  • グローバル展開への対応
    海外市場での発音や意味、さらには多言語におけるネガティブ含意の有無も確認が欠かせません。

 

 

❷ パーパスの言語化

 

まずは「統合後の新会社は、社会に対してどんな存在価値を示すのか」というパーパスを明確に言葉にします。ここで重要なのは、単なるスローガンづくりではなく、経営統合の意義を社会視点で整理することです。

 

このステップを丁寧に行うことで、後の社名開発が単なる記号ではなく「存在価値を体現した言葉」として意味を持つようになります。

 

また、「社名の意味・由来」は、統合後の記者発表で必ず聞かれるポイントにもなるので、決しておろそかにはできます。

 

 

❸ ネーミングコンセプトの策定

 

次に、パーパスを支えるキーワードを定義します。「革新性」「信頼」「共創」などの抽象的な価値観を軸に置き、それをどのようなトーンで表現するかを決めていきます。

 

たとえば「先進性を打ち出すなら未来的な響き」「信頼を強調するなら安定感のある言葉」といった具合です。

 

この段階でネーミングの方向性を絞り込むことで、無数の候補が散漫にならず、ブランド戦略に沿った案を展開できます。

 

 

❹社名案の立案と整理

 

ここでは自由度を高め、意味性・記号性・響きの3軸で社名案を複数案考えます。ASAKOの場合、今後の商標チェックなどを踏まえて、100~200案を考えます。その際の基準は次の通りです。

 

  • 意味性:企業の存在価値や未来像を想起させる名前(例:Visionary, Harmony)
  • 記号性:覚えやすく、記号的に使えるシンプルな形(例:NOVA, AXIS)
  •  響き:耳に残りやすく、国際的に発音しやすい音の組み合わせ

 

社名案は、事業成長による子会社・孫会社の増加を見越した場合、できるだけ短いことが理想です。なぜなら、子会社→孫会社になるにしたがって、社名は長くなる傾向にあるからです。

 

例えば、「ABC edge Computing Company Holdings」という長い社名を考えたとしましょう。

 

  • 子会社:ABC edge Computing Company Solutions
  • 孫会社:ABC edge Computing Company Solutions 北海道

 

など、子会社→孫会社になるにしたがって、社名が長くなり、直感的に認識しにくくっていることがわかると思います。

 

このように、将来の事業拡大による子会社・孫会社の増加を見越した場合、新会社の社名はできるだけ短いものを選ぶのがポイントです。

 

 

STEP2:商標チェック― 存在価値を守り、広げるために

 

新会社のブランドを確実に守り、世界に広げていくためには、商標調査・出願は必ず必要なステップです。これを怠れば、せっかく掲げた新社名が、法的リスクによって毀損されてしまう恐れがあるからです。

 

 

❶ 商標調査のポイント

 

新社名は統合新会社の顔であり、社会に示す存在価値そのものです。その権利を確実に守るには、国内外での商標調査と出願が必須です。

 

  • 対象国と区分の設定:
    事業を展開する市場(日本・海外主要国)に加え、事業領域に応じた国際分類(第9類、35類、42類など)を明確化する。
  • 早期出願の重要性
    統合ブランドは注目度が高いため、出願の遅れが模倣リスクやブランド乗っ取りにつながる。
  • ブランド戦略との整合性:
    商標区分の範囲が狭すぎると、将来的な事業拡張で保護できなくなる。パーパスに基づき「社会に提供する価値」を幅広くカバーする視点が必要。

 

 

 ❷商標調査のステップ ― ブランドの存在価値を守るために

 

新会社の新しい社名の候補が決まったとき、それを確実に守るのが商標です。しかし「とりあえず商標が使われていないかどうか調べればいい」と軽く考えてしまうと大きな落とし穴があります。

 

商標調査は段階を踏んで丁寧に進めることで、新会社の存在価値を長期的に守れます。

 

 

① 商標データベース調査(一次チェック)

 

商標調査をする際には、まずは特許情報プラットフォームJ-PlatPatで、同じ名前がすでに登録されていないかを確認します。ここで「完全一致」があればその時点で候補から外すことができます。

 

ただし、この調査だけでは不十分です。表記が少し違うだけのものや、読み方が似ている商標は、商標データベース調査で引っかからないことが多いため、あくまで“ふるい落とし”のステップに過ぎません。

 

 

② 簡易商標調査(約1週間)

 

次のステップでは、弁理士が専門的な観点から「類似」まで含めて調査する、簡易商標調査を行います。

 

商標は外観(見た目)・称呼(読み方)・観念(意味) の三要素で判断されるため、完全一致でなくても不合格とされることがあります。例えば、

 

  • スペルが少し違うだけで、音は同じ
  • 形は違っても、意味が似ている

 

といった場合も、商標上は「同じもの」とみなされる可能性があるのです。

 

ASAKOのこれまでの実務経験から言えることは、例え商標データベースJ-PlatPatで商標登録がなかったとしても、簡易商標調査で生き残るのは100案中、10~15案程度です。つまり、85%~90%の社名案は「類似性有」として落とされてしまいます。

 

よって、簡易商標調査段階で「全滅」を防ぐためには、最低でも50案程度の社名案が必要になります。

 

 

③ 商標本調査(約3-4週間)

 

続いてのステップは、商標本調査です。

 

例え社名案が簡易商標調査を通ったとしても、あくまで日本の国際弁理士の調査・見解であって、絶対確実というわけではありません。そこで必要になってくるのが各国の弁理士事務所が行う商標本調査です。

 

特にグローバル展開を視野に入れる企業にとっては、この工程が欠かせません。ここで初めて「本当に登録できるのか」「どの国から出願すべきか」といった実務的な判断が可能になります。

 

商標本調査では、簡易商標調査では拾いきれない要素まで掘り下げます。

 

単に先行商標があるかどうかだけでなく、識別力不足(一般名詞すぎる/説明的すぎる)、公序良俗違反(不適切な言葉や差別的ニュアンス)、地理的表示(地域名そのものをブランド化できない)など、国際的に共通する禁止要件に該当しないかを確認します。

 

また、商標制度は国ごとに独自のルールがあるため、それに照らした調査も行います。

 

たとえば中国では英字商標だけでは不十分で、現地で自然に使われる「漢字名」を同時に登録しておかないと、別の事業者に押さえられてしまいます。

 

また、米国ではIntent-to-Use(使用意思)制度があり、実際に使用開始しないと登録が取り消されるため、スケジュール管理が重要になります。

 

欧州(EUIPO)では、EU全域で効力を持つ一括出願が可能ですが、一国でも拒絶理由が出ると全体が却下されるリスクがあります。

 

商標本調査は、登録可能性の確率が提示されます。弁理士が「この名称は70〜80%の確率で登録可能」といった形で見込みが提示されるので、経営層は新社名採用の最終判断をリスクベースで行うことができます。

 

商標本調査では、単に「出願できるかどうか」を判断するだけではありません。どの国に、どの順番で、どの方式で出願するかという戦略を固める工程でもあります。

 

  • 出願方式
    マドリッド・プロトコルで出願する場合、一括出願でコスト効率が高い反面、拒絶された国があると全体に影響が及びます。一方で各国単独出願:柔軟性は高いものの、費用と工数が増えます。
  • 出願順序の設計
    事業開始の優先度が高い国(日本・米国・中国など)を先に押さえるか、模倣リスクが高い市場から着手するかなど、攻めと守りのバランスを見極める必要があります。

 

実務上は、比較的調査コストが安い簡易商標調査で50案程度の新社名案をふるいにかけ、生き残った7-8案に対して、商標本調査をかけることが一般的です。

 

 

STEP3:ドメイン取得 ― 存在価値をデジタルで体現する

 

統合新会社の情報発信は、まずはWebサイトが中心になります。顧客や投資家、取引先が最初に新会社と接触するのも、名刺やパンフレットよりもむしろ検索やリンク経由のWebサイトというケースが増えています。

 

だからこそ、新社名に合わせたドメイン戦略はブランドの一貫性を守るうえで欠かせません。もしこの設計を誤れば、「公式サイトが見つからない」「別企業のページに飛んでしまう」といった混乱が生じ、無用なトラブルを生み出してしまいます。

 

 

❶ドメイン取得の現実とリスク

 

ASAKOの経験上、例え新社名が商標的に問題なかったとしても、その半分程度はすでに他者にドメインを取得されてしまっているのが現状です。

 

特にアメリカではドメイン売買ビジネスが盛んで、プレスリリース前に社名が漏れると第三者に先に登録され、高額での買取を吹っ掛けられるケースも珍しくありません。場合によっては数百万〜数千万円規模の買い取りコストが発生することすらあります。

 

このため、新社名をプレスリリースする前に ドメインの取得を完了させておくことが鉄則になります。

 

 

❷ ドメイン取得のポイント

 

① com優先の原則

 

グローバルブランドとして認知されるためには、まず「.com」を確保することが不可欠です。もし既に取得されている場合は、交渉による取得や、ブランドを損なわない代替案(例:-group, -global などの接尾辞)を検討します。

 

② 主要ccTLDの確保

 

事業展開地域ごとに、.jp(日本)、.cn(中国)、.de(ドイツ)などの国別ドメイン(ccTLD)を確保します。

 

これは、WEBサイトのローカライズに必要不可欠であり、各ローカル顧客への信頼感を高めるとともに、現地市場でのSEO効果や安心感にもつながります。

 

③ ブランド保護

 

本格的に使わないドメインであっても、ブランドを悪用されるリスクを避けるために予防的に取得しておくことが重要な場合があります。

 

例えば、スペルをわずかに変えたドメインを第三者に取られてしまうと、フィッシング詐欺の温床となりかねません。

 

ドメインは「単なるアドレス」ではなく、統合ブランドの存在価値をデジタルで可視化する看板です。社名やロゴと同じように、法的・戦略的な観点から計画的に押さえておきましょう。

 

経営統合という注目度の高いタイミングでは、ドメイン取得のスピードと網羅性が、ブランドの信頼を守る大きな分かれ道になるのです。

 

 

STEP4:言語・文化チェック存在価値を誤解なく伝える

 

 

経営統合で新しい社名を立ち上げるとき、意外と見落とされがちなのが言語と文化の検証です。

 

どんなに素晴らしいパーパスや新社名を掲げても、異なる文化圏でネガティブな意味に受け取られてしまっては、その存在価値は正しく伝わりません。

 

グローバル展開を視野に入れるなら、言語・文化チェックは必須のプロセスです。

 

チェックすべきポイントは、次の3つです。

 

  • 発音・表記のしやすさ
    現地語で自然に発音できるか。誤読されやすい名前や、複雑すぎて覚えにくい表記は、社名の浸透を妨げます。
  • ネガティブな意味合いの回避
    意図せずにスラングや侮蔑語と重なっていないか。ネガティブな連想が生まれると、せっかくのブランドが拒否感を持たれてしまいます。
  •  文化的な共鳴の確認
    日本語では前向きな言葉でも、他国では真逆の意味を持つ場合があります。現地の価値観や感性とフィットしているかを確かめることが大切です。

 

例えば「シナジー」という言葉は、新社名案を考える際に遡上に挙がりやすいキーワードです。しかし「志那」という差別的な表現を連想させる場合があるため、中国市場での使用は慎重さが求められます。

 

このように、日本ではポジティブに聞こえる言葉であっても、意図せずに歴史的背景や文化的なニュアンスを帯びてしまい、ネガティブな連想を抱かせてしまう場合があります。

 

また、東日本大震災以降「絆」という言葉は日本で「人と人のつながり」を象徴するポジティブな表現として広く浸透しました。

 

しかし中国語における「絆」は、「縛り付ける」「束縛する」といった否定的な意味を持ちます。まさに同じ言葉が文化圏によって真逆の印象を与える典型例です。

 

言語・文化チェックは、単なる翻訳の確認作業ではなく、ブランドが社会に示す存在価値を誤解なく伝えるためのフィルターです。

 

グローバル展開を視野に入れる統合ブランドでは、商標やドメインと同じくらい重要なステップと言えます。

 

 

STEP5:企業ロゴの開発― 存在価値を視覚に翻訳する

 

新社名が「存在価値を言葉にした象徴」であるならば、ロゴは「存在価値を視覚に翻訳した象徴」です。

 

人は言葉よりも先に視覚情報で印象を判断するため、ロゴやVIの設計は、統合後ブランドに対する第一印象を大きく左右します。

 

経営統合におけるロゴ刷新は、単に「新しいマークを作ること」ではありません。それは、統合新会社が社会に対してどのような存在価値を示すのかをビジュアルで表現する作業です。

 

  • 社内に対して:
    社員が新しいロゴを身につけることで、「新会社の一員である」という誇りと帰属意識を実感できる。
  • 社外に対して:
    顧客・投資家・地域社会に「経営統合が新たな価値創造につながる」ことを示すシグナルとなる。

 

続いては、企業ロゴ開発のステップについて説明していきましょう。

 

 

❶ コンセプト開発

 

最初のステップは、パーパスを基点に「この企業が社会にどんな存在価値を示すのか」を、ロゴでどう表現すべきかを明確にすることです。

 

たとえば「信頼」「革新」「共創」など、新会社が大切にする価値をキーワードとして抽出し、それをビジュアルに置き換える方向性を定めます。

 

この作業を丁寧に行うことで、ロゴは単なるデザインではなく「新会社の存在価値を視覚化した象徴」となります。

 

 

❷ デザイン探索

 

定義されたコンセプトを、形・色・書体といった視覚要素に展開していきます。

 

この段階では「多様な方向性」を試すことが重要です。直線的で力強い形状は信頼や堅実さを、曲線や柔らかい色合いは共感や調和を表現できます。

 

また、タイポグラフィや色彩心理を活用し、パーパスに合致するトーンを探ります。複数の案を並行して開発することで、後の比較・検証がより効果的になります。

 

 

❸ 検証

 

候補ロゴが出揃ったら、社内外のステークホルダーに対してテストを行います。

 

社員には「自分が誇りを持って身につけられるか」、顧客や投資家には「経営統合の意義や未来性が伝わるか」を確認します。

 

ここでのフィードバックを踏まえ、デザインを洗練させていくことで、共感度と受容性の高いロゴへと磨き上げられます。

 

 

STEP6:VI(ビジュアルアイデンティティ)開発― 存在価値を視覚に翻訳する

 

ロゴはブランドの象徴ですが、それだけでは不十分です。ブランドを長期的に育て、社会に一貫して存在価値を伝えるためには、色・書体・レイアウトルールなどを体系化したVI(ビジュアルアイデンティティ) が欠かせません。

 

VIは、企業が掲げるパーパスを「視覚で翻訳し続けるためのガイドライン」であり、名刺やWebサイト、プレゼン資料からオフィス看板に至るまで、あらゆる接点でブランドの一貫性を守るものです。その効果は、次の3つです。

 

  • 統一性
    顧客に「どこで接しても同じブランドである」という安心感を与えます。例えば、Webサイトと営業資料でロゴや色使いがバラバラであれば、顧客に対して雑な印象を与えてしまいます。統一感&一貫性のある表現は、ブランドの佇まいを守り、信頼性そのものを支えます。
  • 再現性
    社員や取引先が迷わずに正しく制作物を制作できるようになります。デザインの属人的な解釈を避け、誰がデザインを施しても、高い品質を保てる状態をつくることができます。
  • 持続性
    一過性の流行やデザイントレンドに左右されず、長期的にブランドの存在価値を体現できます。10年先も使える普遍性を備えることで、ブランドの投資効果が高まり、継続的な差別化につながります。

 

デザインは、完成した瞬間から崩れ始める」とよく言われます。新しいロゴやビジュアルも、ルールや仕組みがなければ現場でバラバラに解釈され、あっという間に統一性を失ってしまいます。

 

だからこそ、VIを整備し、全ての制作物や発信に共通認識を持たせることが不可欠です。VIの整備によって、次のような効果が得られます。

 

  •  ブランドの世界観を視覚的に体現できる
  • どの接点でも「同じブランド」として認識してもらえる
  • 社内外の関係者にブランドらしさの共通認識を与えられる
  • 制作物の品質と効率を向上させられる
  • 中長期的にブランド価値を育て、差別化を築ける

 

つまり、VIとは単なる「デザインマニュアル」ではなく、ブランドの存在価値を長期的に維持・進化させるための“生きた仕組み” なのです。

 

 

STEP7:ブランドアイテムリニューアル計画 ― 存在価値を日常に浸透させる

 

 

新社名やロゴが決まり、商標やドメインで法的な基盤を整えたとしても、それだけではブランドは浸透しません。

 

ブランドが社会に根づくためには、社員や顧客が日々触れるあらゆる接点に「新しい存在価値」を一貫して感じられる仕組みが必要です。その役割を担うのがブランドアイテムのリニューアルです。

 

単なるデザイン変更ではなく、パーパスを日常の体験に落とし込む作業と位置づけることが重要です。

 

 

 

❶ コーポレートアイテム ― 社会に示す顔を揃える

 

名刺、封筒、レターヘッド、会社案内といったコーポレートアイテムは、社外の人が最初に触れる「新会社の顔」です。

 

単なるロゴの差し替えにとどまらず、メッセージやトーンまで統合新会社のパーパスと一貫させることで、「この会社は何者か」を明確に伝えることができます。

 

さらに、ビルサイン・看板やエントランスプレート、フロア案内などの物理的な接点も統合ブランドの印象を左右します。

 

社員証や社印・ゴム印、制服・ユニフォームまで含めて刷新することで、内外に「新しい存在価値」を一貫して示すことが可能です。

 

 

❷ 営業・PRツール ― 顧客・投資家との最前線

 

提案書やプレスリリースのテンプレート、IR資料などの営業・PRツールは、顧客や株主との最初の接点となる「実務的な顔」です。

 

特にプレスキットや記者発表用バックパネルは、経営統合の象徴として社会的に注目されるアイテムです。

 

カタログ、パンフレット、導入事例集、技術資料、紹介動画、デモ機外装といった具体的な顧客接点も、「単なるロゴ刷新」ではなく「パーパスに基づいた顧客体験」として再設計することで、統合ブランドの価値を直接的に伝えることができます。

 

 

❸ WEB・デジタル ― 一貫性と拡張性を両立する基盤

 

ホールディングスサイトやIRサイト、リクルートサイトといった公式Webは、統合新会社の信頼と透明性を社会に示す基盤です。

 

特に検索やSNS経由での第一印象が瞬時に決まるため、デザインの統一に加え「存在価値を語るコンテンツ設計」が不可欠です。

 

また、デジタル広告、メール署名テンプレート、バーチャル背景、WEB動画、社内ポータルやグループウェア、社員証デジタル版などは、オンライン上の「顔」として新会社を広範囲に届けます。

 

デジタル資産の一貫性と拡張性が、ブランド体験の質を大きく左右します。

 

 

❹ 商品・サービス関連 ― 顧客が直接手にするブランド

 

商品パッケージや製品刻印、品質表示タグ、梱包資材、取扱説明書といった要素は、顧客が直接手にする「ブランドの実体」です。これらがバラバラであれば、せっかくの統合ブランドも一貫性を欠いてしまいます。

 

保証書や製品登録カード、認証マークなども含め、顧客が信頼を持って製品を利用できるよう、「新しい存在価値」を体現した設計へと刷新する必要があります。

 

❺ インナー向け資料 ― 社員の誇りと一体感を醸成する

 

社内報やイントラ、社内動画、研修資料、業務マニュアルといった社内資料は、社員が日常的に触れる「誇りと一体感を育む仕掛け」です。

 

記念品や表彰状、議事録・報告書のテンプレートに至るまで、パーパスを反映させたデザインやトーンで揃えることで、社員は「自分たちの存在価値を実感」できるようになります。

 

ブランドブックやパーパスカードの配布と組み合わせれば、統合の意義を“持ち歩ける誇り”として日常に浸透させることが可能です。

 

経営統合には明確な期日があります。その日までに必ず整えておかなければならないものと、統合後に順次切り替えればよいものを仕分けることが実務上のポイントです。

 

経営統合の日までに、必ず用意しておかなければならないアイテムは次の通りです。

 

  • 名刺:経営統合日に名刺交換ができなければビジネス活動そのものに支障が出る。
  • 封筒・レターヘッド:株主総会招集通知や請求書など、対外文書に必須。
  • 社印・ゴム印:契約や押印業務に欠かせない。
  • 社員証:統合後すぐに社員がオフィスへ入館できるようにするため。
  • プレスキット・記者発表用バックパネル:経営統合の記者会見で使うため。
  • 統合会社のWebサイト:代表挨拶や統合の意義、経営理念に加え、上場企業であればIR情報、証券コード、上場市場、問い合わせ窓口まで揃える必要がある。

 

ブランドアイテムのリニューアルは、統合後の存在価値を「社員の日常」「顧客体験」「社会との接点」に一貫して浸透させるためのプロセスです。

 

特に京地統合直後は、最低限必要なアイテムを確実に揃え、混乱を防ぎながら「統合新会社はここから始まる」という旗印を明確に示すことが、ブランド定着の第一歩となります。

 

経営統合ブランディング 成功の鍵

経営統合は単なる組織の合併ではなく、「新しい存在価値を社会にどう示すか」という挑戦でもあります。

 

ブランド戦略が機能すれば、社員の一体感を生み、顧客や社会からの信頼を獲得できます。しかし、その準備を怠ると、せっかくの統合が「名前が変わっただけ」で終わってしまうことも少なくありません。

 

そこで最後に、統合ブランディングを成功に導くための6つの鍵をご紹介します。

 

❶ パーパスを最初に定義する

 

ブランド戦略の出発点は、社名でもロゴでもなく、「新会社が社会に示す存在価値(パーパス)」です。ここが曖昧なまま進めると、デザインやメッセージが場当たり的になり、一貫性が崩れます。

 

逆に、最初にパーパスを明確に言語化しておけば、すべてのブランド施策の基軸となり、社内外に納得感を持って伝えられます。

 

 

❷ 経営トップの意思を明確に示す

 

統合は社員にとって大きな変化であり、不安と期待が入り混じるタイミングです。だからこそ、経営トップ自らが統合の意義と新しい存在価値を語ることが重要です。

 

社内へのメッセージと同時に、プレスリリースや記者会見などで社会に発信することで、統合が単なる経営判断ではなく「未来への希望」であることを示せます。

 

 

❸ 商標・ドメイン・言語チェックを前倒しする

 

経営統合は注目度が高いため、商標の先取りやドメインの買い占めといったリスクが急増します。

 

特にグローバル展開を考えるなら、商標・ドメイン・言語のチェックは必ず発表前に完了させることが鉄則です。これを怠ると、後戻りできないコストや信用の損失につながります。

 

 

❹ ブランドアイテムを刷新する計画を持つ

 

社名やロゴを変えるだけでは不十分です。名刺、封筒、Webサイト、オフィスの看板など、日々の接点を順序立てて切り替えることで、混乱を最小限に抑えられます。

 

特に経営統合日までに必須となるもの(名刺・社員証・統合Webサイトなど)は優先順位をつけ、計画的に準備しておくことが重要です。

 

 

❺ インナーブランディングを軽視しない

 

新しいブランドを社員が「自分ごと」として受け止めなければ、浸透は進みません。ブランドブックやパーパスカードの配布、統合記念イベントやワークショップの開催など、存在価値を体感できる仕掛けをつくることが不可欠です。

 

 

❻ 統合後もブランドを育て続ける

 

ブランドは統合日に完成するものではありません。むしろ、そこからがスタートです。

 

採用ブランディング、商品開発、ESG活動など、あらゆる経営活動にブランドを反映させ続けることで、存在価値が生活者や社会に根づきます。ローンチイベントで終わらせず、長期的に育てる視点を持ちましょう。

 

FAQ

Q1: 経営統合におけるブランディングで最も重要なことは何ですか?

A1: 最も重要なのは、企業が社会に示す「存在価値(パーパス)」を明確に再定義することです。これがブランド戦略全体の基盤となります。

 

Q2: 社名変更やロゴ開発の際に、グローバル展開を考慮すべきポイントはありますか?

A2: はい、海外市場での発音・意味合い、多言語でのネガティブな含意の有無、そして各国の商標制度や文化的な背景を事前に確認することが非常に重要です。

 

Q3: ドメイン取得で特に注意すべきことは何ですか?

A3: 新社名をプレスリリースする前にドメイン取得を完了させるのが鉄則です。特に「.com」の確保と、フィッシング詐欺などのリスクを防ぐためのブランド保護を目的とした複数ドメイン取得も検討しましょう。

 

まとめ

経営統合ブランディングの核心は、企業が社会に示す存在価値(パーパス)の再定義です。

 

商標・ドメイン・言語の実務で守りを固め、コーポレート/営業・PR/WEB・デジタル/商品・サービス/インナーの各接点を計画的に切り替えて体験として届ける。

 

その後は想起・好意・指名検索・採用指標などで測り、学び、改善する——統合日はゴールではなく“Day1”です。

 

  • パーパスを一文で言えるか?
  • その意味は社名・ロゴ・VIに翻訳されたか?
  • 商標・ドメイン・言語で後戻りの芽を摘んだか?
  • 全接点の切替順序と優先度は決まっているか?

 

この4点が揃えば、統合ブランドは新しい看板ではなく、選ばれ続ける理由になります。

 

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PROFILE 著名者プロフィール

羽田 康祐 はだ こうすけ

  • ストラテジックプランニングディレクター
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