人材不足時代の採用戦略|応募者獲得と定着率向上に効くパーパス採用ブランディング

本記事の要約
いま、日本企業の採用は危機的状況です。とくにBtoB企業は深刻な採用難に直面しています。求人広告を出しても応募数は年々減少し、求めるスキルを持つ人材が集まりにくくなっています。ようやく応募があっても、内定を出した後に待遇面で大手や競合に競り負け、辞退されるケースが後を絶ちません。
さらに、せっかく採用できても早期離職が増加傾向にあり、待遇改善や働きやすい職場づくりといった施策も限界に達しています。求人サイトや転職エージェントの影響力は依然として強く、採用コストも高騰の一途をたどっています。小手先の採用手法や制度改革だけでは、もはや解決が難しい状況です。
そして忘れてはならないのが、人口動態の現実です。日本の人口は今後も減少を続け、労働人口が縮小していくことは確実です。これはつまり――人材難の問題を先送りすればするほど、状況は悪化していき、改善される見込みはないという、不可逆の構図に私たちは立たされているのです。
目次
なぜ「待遇」だけでは採用競争に勝てないのか
多くの企業はこれまで、給与の改善、制度・福利厚生の充実といった待遇面の強化を図ってきました。
しかし、こうした待遇面はすぐに各社が横並びになり、結局は資本力のある大手企業や人気業界に優秀な人材が流れる状況が続いています。
また、求人広告の出稿を増やしたり、複数の転職エージェントを活用したり、採用イベントを開催するなどの取り組みは、一時的に応募数を押し上げる効果はあるものの、入社後の定着やエンゲージメントの向上には直結しません。結果として、採用と離職を繰り返す「人材の出入りが激しい状態」が常態化しています。
現代の働き手、とりわけ優秀な若手人材は、
何をやるか(仕事内容)
いくらもらえるか(条件面)
といった従来の待遇的な要素に加えて、
なぜその仕事をやるのか(意味)
誰と働くのか(共感・仲間意識)
企業が社会にもたらす価値は何か(存在価値)
といった「パーパス視点」を重視して就職先を選ぶ傾向が強まっています。
採用の成否を分けるカギは、「待遇の良さ」だけではなく、その企業の在り方に共鳴できるかどうかへと移っています。
企業が掲げる存在価値や価値観に、求職者が感情移入できる状態をつくれるかが、応募意欲、内定承諾率、そして入社後の定着や活躍を左右する分水嶺となっているのです。
パーパス視点が採用にもたらす価値とは
採用の成否を分けるのは、もはや待遇の良し悪しだけではありません。
求職者は、「この会社は何のために存在しているのか」「自分はここで何を成し遂げられるのか」という“意味”を求めています。そして、その意味に深く共鳴したとき、人は初めて「ここで働きたい」と心から思えるのです。
ASAKOでは、この“意味”を軸にした採用の仕組みを「パーパス採用ブランディング」と呼んでいます。
パーパス=企業の社会的存在価値:
「私たちはなぜ存在しているのか」「社会にどんな価値を生み出しているのか」という根本的な問いに対する答え。
ブランディング:
感情移入を通じて、指名で選ばれる状態をつくること。
パーパス採用ブランディングとは、このパーパスへの感情移入を通じて、求職者から“指名で選ばれる”状態をつくる取り組みです。
たとえば、
水処理ソリューションの大手企業:
「浄水技術の提供企業」という機能提供の枠を超え、
→ 「世界の人々が水問題で悩まなくてもよい社会を実現する企業」へ
学習塾向けAI教材提供企業:
「学習支援サービス」から、
→ 「学びを自信に変えた若者が次々に社会に羽ばたく未来をつくる企業」へ
介護保険提供企業:
「介護や認知症の時に保障する保険」から、
→ 「介護や認知症ケアで悩まなくてもいい社会を実現する企業」へ
組み込みソフトウェア開発企業:
「組み込みソフトウェアを受託開発する企業」から、
→ 「誰もが“夢想”を“実装”できる社会を実現する企業」へ
目指すのは、ビジネス目的と社会目的が重なり合う構図をつくることです。
顧客に選ばれる
従業員が誇りを持って働ける
社会から応援される
これらがすべて同じストーリーでつながるブランドを設計し、採用力・事業成長・社会的評価を同時に高めていくことがゴールです。
数字と現場の声で見るインパクト
パーパス採用ブランディングは、パーパスや物語の美しさだけでなく、確かな成果として数字と現場に表れます。ここでは、導入企業が実際に得た効果を定量・定性の両面から見ていきます。
❶定量効果
パーパスを設定している企業と、設定していない企業では、採用の成果に明確な差が出ています。
応募者数に対する満足度
パーパス無:33.7%
パーパス有:54.3%
→ +21ポイント
採用人数に対する満足度
パーパス無:28.5%
パーパス有:47.7%
→ +19ポイント
採用人材の質に対する満足度
パーパス無:27.6%
パーパス有:45.5%
→ +18ポイント
内定承諾率に対する満足度
パーパス無:37.1%
パーパス有:52.3%
→ +15ポイント
入社後の定着・活躍に対する満足度
パーパス無:38.9%
パーパス有:54.8%
→ +16ポイント
いずれの指標も、パーパスを明確にしている企業の方が、高い成果を上げています。
❷定性効果
ASAKOには、パーパス採用ブランディングを実施した企業から、以下のよう喜びの声が寄せられています。
志望動機の明確化
「企業のビジョンと自身のキャリアを重ね合わせる候補者が増えた」(精密機器・人事)
「明確な志望動機を持つ方が増えた」(化学・人事)
ミスマッチの減少
「応募時点でのミスマッチが減った」(金融・人事)
「採用希望者とのミスマッチを事前に防げるようになった」(輸送用機器・人事)
離職率の低減
「業務に誇りを持つ人材が増え、離職率が下がった」(介護・総務)
内定者の納得感向上
「内定者・採用者アンケートで、“入社の決め手”としてパーパスが挙げられるようになった」(電子デバイス・人事)
こうした変化は偶然ではありません。
ASAKOでは、企業ごとの歴史や事業の特性を深く掘り下げ、「何のために存在するのか」というパーパスを明確化し、それを一貫して採用活動に反映させています。
では、どのようにしてこの仕組みをつくり上げているのか——その全体像が、ASAKO独自の「Brand PRISM-R」です。
ASAKOが提唱するパーパス採用ブランディングの全体像
「Brand PRISM-R」は、パーパスを起点に自社の魅力を再発見し、戦略に落とし込み、実践するまでを3つのフェーズで体系化したモデルです。
感情と行動の両面から採用体験を設計し、求職者から“指名で選ばれる企業”へと変えていきます。
フェーズ❶ 自社の魅力の再発見と誇りの言語化
まずは、業界や会社が「魅力的に見えない」という状況から脱却するために、パーパスを設定・再解釈し、感情移入できる「働く意味・誇り」を再発見します。
ここで用いるのがBrand PRISMという7領域のフレームワークです。パーパスを軸にしたブランド戦略を構築するために、以下の7領域を体系的に整理します。
ターゲットペルソナ
最も重要な顧客像と、その価値観を明確化。
「どのような顧客の成功を実現したいか?」を定義。
ブランド提供価値
機能的価値・感情的価値・自己実現価値を定義。
ブランドパーパス
提供価値を通じて実現したい社会の理想像を描く。
ブランドパーソナリティ
社会と共有すべき価値観や個性を言語化。
ブランドポジショニング
市場における独自の役割や立ち位置を明確化。
ブランドACT
採用手法やアプローチをアップデート。
ブランドステートメント
スローガンやステートメントを策定し、象徴として定着させる。
さらに、パーパスを軸に2つのストーリーを構築します。
❶Social Impact Story(社会と“共鳴”する物語)
「顧客にどのような価値を提供し」「どのような価値観を広げ」「どのようなより良い社会を築くのか」をストーリー化し、企業の存在価値を描きます。
❷Good Profit Story(“成長”を生む物語=戦略と実行)
「どのようなペルソナに対して」「どのような独自の役割を果たし」「どのようにビジネスをアップデートしていくのか」をストーリー化し、理想論に留まらず、戦略と実行を描きます。
Brand PRISMによってパーパスを再定義し、2つのストーリーを明確に描くことで、企業と求職者の間に“共通ストーリー”が生まれます。
このフェーズを通して、求人票や待遇だけでは伝わらない求職者との“共通ストーリー”が生まれます。パーパスを通じて「この会社は何のために存在しているのか」というストーリーとして語られることで、求職者の心に強く響くようになるのです。
さらに、入社の動機が「パーパスへの共鳴」となり、待遇件を越えて「実現したい社会」という共通の目的で結ばれているため、入社後の定着率や活躍度の向上につながるのです。
フェーズ❷ パーパス採用ジャーニーによる戦略設計
次に、求職者の意思決定プロセスを「感情」と「行動」の連鎖として捉え、その流れを設計します。採用活動を単なる募集・告知の場から、ブランド体験を提供するプロセスとして再構築することが狙いです。
パーパス採用ジャーニーは、次のステップで構成されます。
知らない → 興味 → 情報収集 → 応募・選考 → 内定・入社 → 定着
各段階ごとに、求職者が
何を感じるのか
何に迷うのか
何を求めるのか
を明確にし、その時点に応じた最適なコミュニケーションを設計します。
重要なのは、「どの接点で、何を、どのように意味づけして伝えるか」です。たとえば、SNS広告では「この会社は何のために存在するのか」という大きな物語を提示し、採用イベントではその背景や価値観を体感できるコンテンツを提供します。
求人票や面接では、条件や仕事内容だけでなく、「この仕事が社会にどんな価値をもたらすのか」という視点を必ず織り込みます。
このアプローチのねらいは、短期的な応募増加や内定承諾率の改善だけではありません。
パーパスを軸にした採用体験の設計を通じて、中長期にわたって持続する採用競争力を“資産”として蓄積することにあります。そして、このジャーニーを全社で共有することで、経営・人事・広報・現場が同じ方向を向いて動ける “共通言語”を確立することができるのです。
フェーズ❸具体的な採用活動への落とし込みと体験設計
戦略を実際の採用活動に落とし込み、求職者との各接点において「パーパスによって意味づけされた体験」を設計します。
ポイントは、単に接点を増やすのではなく、求職者がその瞬間に感じていることや求めていることに、パーパスを重ねて届けることです。
未知 → 認知・興味
自社を知らない層に対しては、会社紹介や事業説明ではなく、パーパスの発信から始めます。TVCM、Web動画、SNS広告などを活用し、「社会のどんな課題に挑んでいるのか」「どんな未来を描いているのか」をストーリーとして語ります。
認知・興味 → 情報収集
パーパスに共感した求職者は、「もっと知りたい」という情報欲求を持ちます。この段階では、カルチャーデックやパーパスフォトブックを作成し、価値観や背景、社員のエピソードなどをビジュアルやストーリーで表現。求職者が「この会社の世界観」に没入できる状態をつくります。
情報収集 → 応募・選考
この段階は、関心を持った求職者が応募を検討する直前の重要フェーズです。ここでは、条件や仕事内容の羅列ではなく、価値観ストーリーで再設計されたリクルートサイトを主戦場とします。社会課題への取り組み、組織文化、職場の雰囲気、成長機会などを、パーパス視点で一貫して伝えることで、「ここで働きたい」という意思を後押しします。
応募・選考 → 内定・入社
内定辞退を防ぐためには、最終的な納得感を高めることが不可欠です。パーパスストーリー動画や現場社員の語りを通じて、「この会社で働くことが人生にどんな意味をもたらすのか」を補強します。内定通知時や入社式、オリエンテーションなどの場で、「一緒に未来を創ろう」というメッセージを直接届けます。
これらの接点を感情KPI(共感・期待・誇りなど)と行動KPI(応募数・承諾率・定着率など)の二層で可視化し、改善サイクルを回すのが「パーパス採用ジャーニーMAP」です。
この3フェーズを通じて、企業は条件や待遇だけでは得られない“共鳴”を採用活動に組み込み、求職者との長期的で強固な関係性を築くことができます。
よくある質問(FAQ)
Q1: パーパス採用ブランディングとは何ですか?
A1: 企業の社会的存在価値(パーパス)に共感してもらうことで、応募者が「指名で選ばれる」採用体験を設計し、採用倍率や内定承諾率、入社後の定着率向上を目指す戦略です。
Q2: 従来の待遇改善だけでは採用が難しいと言われるのはなぜですか?
A2: 待遇は資本力のある大手に偏りやすく、求人広告や採用イベントなどの一時的施策は定着やエンゲージメント向上に直結しないため、根本的な共感価値が重要となっています。
Q3: パーパス採用ブランディングの具体的な進め方は?
A3: ①自社の魅力・誇りを言語化、②求職者の心理と行動を設計した採用ジャーニーの構築、③パーパスに意味付けした採用体験の実践。この3フェーズを通じて効果を上げます。
まとめ— 「条件」から「存在価値」へ
いま、採用市場は「給与や待遇」といった条件競争から、「企業の存在価値」に共鳴してもらう時代へとシフトしています。
パーパス採用ブランディングは、採用・内定承諾・定着・エンゲージメントを同時に引き上げるための最短ルートです。
その第一歩は、自社のパーパスを設定・再解釈することから始まります。
「私たちは何のために存在しているのか」「社会にどんな価値をもたらすのか」を明確にし、求職者・従業員・顧客・社会と共有すること。それが、選ばれる企業への転換点になります。