組織・採用・エンゲージメント
2025.09.16
組織課題解決の鍵|採用難・離職率改善を実現するインナーブランディングの5つのステップ

本記事の要約
インナーブランディングは、従業員がパーパスを自分ごととして捉え、誇りと希望を持って日常業務に活かす取り組みです。ASAKOの5ステップモデル(わかる化→語れる化→誇れる化→動ける化→連帯化)により、感情移入と行動変容を段階的に促進します。目的は従業員の意思決定と行動を変え、採用力・営業力・定着率・生産性を高め、組織文化を内側から進化させることです。
採用難や定着率低下、モチベーション低下など、人材をめぐる課題が深刻化する今、企業の内側からブランドを強化する「インナーブランディング」の重要性はかつてないほど高まっています。
今回の記事では、このインナーブランディングについて、その意味や必要性、そして成果につなげるための具体的なステップを解説します。インナーブランディングとは、企業のパーパス(存在価値)やブランドの意味を、従業員が自らの誇りと希望として再解釈し、日常業務に活かせる状態をつくる戦略的な取り組みです。単なるスローガン浸透ではなく、感情移入と行動変容を段階的に促し、組織文化と事業成果を同時に進化させる仕組みこそが、持続的成長の鍵となります。
目次
インナーブランディングとは? 採用難・離職率改善に効く戦略
インナーブランディングとは、企業のパーパス(存在価値)やブランドの意味を、従業員一人ひとりが自分の言葉と行動に落とし込み、日常業務に活かせる状態をつくる取り組みです。
言い換えれば、従業員がパーパスを自分ごととして捉え、「この会社で働く意味」や「この仕事の価値」を誇りとして再解釈できる状態をつくることが目的です。
しかし現場では、「また上から面倒なことが降ってきた」「どうやってやり過ごそうか」という“静かな抵抗”が起こりやすいのも事実です。
だからこそ重要なのは、パーパスを“浸透させる”という上から強制する発想ではなく、従業員一人ひとりが意味に共鳴し、自らの誇りと希望として捉え直すことができるか、という発想です。
そのためには、パーパスを「日々の業務に役立つもの」「楽しめるもの」として感じられ、自然に自走できる状態を育てることが欠かせません。
この状態が実現してはじめて、ブランドは“上からの訓示”ではなく、従業員にとっての“成功体験”となり、意思決定や行動を変えていきます。
つまり、目指すべきは単なる「理解」ではなく、パーパスを“自分たちの誇りと希望”として受け取り、前向きに解釈し、自らの言葉と行動へと変えていける状態なのです。
インナーブランディングの効果:組織の採用力と定着率アップ
パーパス採用ブランディングは、理念や物語の美しさだけでなく、確かな成果として数字と現場に表れます。ここでは、導入企業が実際に得た効果を定量・定性の両面から見ていきます。
❶定量効果
パーパスを設定している企業と、設定していない企業では、従業員エンゲージメントの成果に明確な差が出ています。
【「私は自分の仕事に誇りを持っている」と答えた人の割合】
パーパス未設定:38.5%
パーパス設定済み:59.1%
自社のパーパスを“理解している”:70.0%
自社のパーパスに“納得している”:75.5%
自社のパーパスに“共感している”:78.1%
自社のパーパスに“共鳴している”:79.9%
→最大で+41.4ポイントの差
いずれの指標も、パーパスを明確にしている企業の方が、高い成果を上げています。
❷定性効果
また、パーパスインナーブランディングに取り組んだ企業からは、次のような声が寄せられています。
インナーブランディングで採用難・離職率改善を促す5つのステップ
どれほど本質的で魅力的なパーパスを掲げても、それが社内に根づかなければ、ブランドは“言葉だけの存在”にとどまってしまいます。
では、従業員一人ひとりがパーパスを自分ごととして受け取り、日々の仕事や行動に結びつけていくには、何が必要なのでしょうか。その答えは、「段階的な感情移入と行動変容を設計すること」にあります。
私たちASAKOでは、パーパスを“言葉としての理解”から“組織としての連帯”へと発展させるために、5つのステップからなる独自のモデルを提唱しています。
わかる化: パーパスが記憶に残り、意識に昇る状態
語れる化: 自分なりの言葉で意味づけができている状態
誇れる化: パーパスに誇りを感じ、感情レベルで共鳴できている状態
動ける化: 日々の業務において、実践ができている状態
連帯化: 仲間とつながり、組織のカルチャーとしてわかちあえる状態
この5ステップは、単なるスローガンの浸透を目的としたものではありません。目的は、従業員が「自分はなぜこの会社にいるのか?」「この仕事は誰の役に立っているのか?」という“意味の問い”に答えを見出し、自らの意思で動き出す組織をつくることです。
❶STEP1:わかる化:採用力を高めるパーパス理解の第一歩
インナーブランディングの第一歩は、従業員がパーパスを「知っている」状態をつくることです。
ここでいう「知る」とは、単にスローガンを見聞きした程度の表面的な認知ではなく、「なぜその言葉が掲げられたのか」「どんな顧客や社会のためなのか」という背景や意味ごと記憶に刻まれた状態を指します。たとえば、
「社長が何か発表していたけれど、正直内容は覚えていない」
「どこかの資料に書いてあった気はするけど、思い出せない」
そのような状態では、どれほど本質的なパーパスを掲げても、現場ではまったく機能しません。
まず重要なのは、「パーパスが、自分たちの言葉として、日常の中に自然と入り込んでくる」状態を設計することです。ポイントは次の通りです。
繰り返し触れる機会を設ける:
一度の説明で伝わることは稀です。複数の社内接点で繰り返し触れることで、「見たことがある」「聞いたことがある」が「なんとなく知っている」「覚えている」へと変化していきます。
意味と背景が語る:
なぜその言葉が選ばれたのか、背後にどんな顧客課題や社会的背景があるのかを物語として語ることで、納得感が生まれ、記憶に定着します。
日常業務の動線に自然に溶け込ませる:
イントラネット、社内ポスター、会議資料、オフィス空間、名刺など、“働く場の動線”の中で自然に触れられる仕掛けを施すことで、心理学でいう「単純接触効果(mere exposure effect)」が働き、意識への定着が進みます。
❷STEP2:語れる化:従業員が自分の言葉で語るパーパス浸透
インナーブランディングの第2ステップは、従業員がパーパスを「自分の言葉」で語れる状態をつくることです。
人は、与えられた言葉だけでは心を動かされません。その言葉に自分なりの“意味づけ”ができたとき、初めてそれが“内発的な行動”を生み出す原動力となるのです。つまり語れる化とは、従業員一人ひとりが、
「このパーパスを、自分はどう解釈するのか?」
「なぜこの言葉に共感できるのか?」
「自分の仕事とどうつながっているのか?」
という問いに向き合い、自分の背景と照らし合わせながら解釈し、“自分の言葉”として語れるようにするプロセスです。
多くの企業がパーパスの浸透を目指す際に直面する最大の壁は、「現場における他人事感」です。
「上が決めたことでしょ」
「自分の業務とは関係なさそう」
「いい話だけど、ピンとこない」
こうした反応の背景には、パーパスと自分自身との間にある“心理的距離”が存在しています。この距離を縮めるためには、“覚えさせる”のではなく、“考えてもらう”こと。自分の価値観や経験と、パーパスをつなげて再解釈するプロセスが欠かせません。
このステップのゴールは、次のような言葉が従業員の中から自然に生まれている状態です。
「私はこの言葉に、こういう意味を感じています」
「自分の仕事は、こうやってパーパスとつながっていると思います」
重要なのは「答えを揃えること」ではなく、「自分なりの意味を見つけること」。それが語れる化の本質です。
❸STEP3:誇れる化:組織の誇りを育てて離職率低減を実現
「語れる化」で、パーパスを自分なりの言葉で意味づけできるようになったら、次に目指すのは、パーパスに「誇り」という感情が宿る状態――すなわち「誇れる化」です。
これは、自らの言葉で解釈したパーパスが、心の奥深くに根づくステップです。「このパーパスに誇りを感じる」「意味があると思える」「この旗のもとで働ける」――そう実感できる状態が、真の感情移入をもたらします。
心理学においては、「自己肯定感」や「組織への誇り」が、人のモチベーションに大きく影響することが明らかになっています。「自分の仕事には意味がある」「自分が所属する組織には価値がある」――そう実感したとき、人は自律的に行動するようになるのです。
つまり、「誇れる化」とは、パーパスを“自己のアイデンティティの一部”として受け入れるプロセスなのです。
「この仕事をしていることに、誇りを感じている」
「お客様や家族に、自信を持って語ることができる」
――そうした状態こそが、従業員一人ひとりの“意志と情熱”に火を灯すのです。
❹STEP4:動ける化:パーパスで日々の業務を実践し組織課題を解決
インナーブランディングにおける第4ステップは、パーパスを「日々の業務」と結びつける段階です。ここでは、従業員がパーパスを“理解し”“語れる”だけで終わることなく、「だから、自分はこう動く」と実践レベルへと転換していくことを目指します。
いかにパーパスに共鳴していても、実務との結びつきがなければ、それは「きれいごと」で終わってしまいます。逆に、日々の業務と地続きで結びついたとき、パーパスは“行動の指針”として本当の力を発揮するのです。
そのために重要なのは、「自分の業務」と「パーパス」の交差点を見出すこと。そして、それを言語化・行動化できる仕組みを整備することです。
❺STEP5:連帯化:組織文化としてパーパスが根づき採用難を克服
インナーブランディングの最終ステップは、パーパスが個人の行動にとどまらず、「組織全体の文カルチャー」にまで深く根づいている状態をつくることです。
この段階に到達すると、パーパスは単なるスローガンではなく、「私たちらしさ」を定義するカルチャーコードとして定着します。
重要なのは、“個”の共感を“共”の誇りへと昇華させること。一人の実践が仲間の共鳴を呼び、連帯と再現性を生み出していく――その積み重ねが、ブランド文化を形成していきます。
インナーブランディングは「戦略」と「現場感覚」の両輪で考える
これまでご紹介してきた「わかる化 → 語れる化 → 誇れる化 → 動ける化 → 連帯化」の5ステップは、あくまでも理想的な進化の順序をモデル化したものです。
しかし、実際の組織にはそれぞれの“現在地”があります。パーパスの言語化が済んでいない企業もあれば、言葉としては浸透していても、現場の共感や実践につながっていない企業もあります。
だからこそ重要なのは、5ステップを単なる「テンプレート」としてなぞることではなく、自社の課題構造に応じて、成果に直結する“浸透設計”をカスタマイズすることです。
たとえば──
パーパスを掲げたばかりの企業なら:
まずは「わかる化」「語れる化」で、意識と解釈の足場を固める。
パーパス浸透が停滞している場合は:
「誇れる化」「動ける化」によって、実感と意味のつながりを図る。
部門間の温度差・バラバラ感が大きい場合は:
「連帯化」の仕掛けで、称賛と共創の文化を耕す。
経営戦略の刷新と連動したい場合は:
「動ける化」を重視し、評価制度とのつながりまでを設計する。
インナーブランディングの本質は、「一方通行の伝達」ではありません。パーパスを軸に、従業員が“意味を再解釈”し、“自分ごと化”し、“語り合い”、“行動し”、“称賛し合う”という循環を生み出すこと。それによって組織が内側から進化していく――その状態こそが、目指すべきゴールです。
言い換えれば、インナーブランディングとは、「文化を耕し、経営を動かす」戦略的な取り組みであり、従業員の意識を未来に向けて束ね直す営みなのです。
よくある質問(FAQ)
Q1. インナーブランディングは採用難の解決にどう役立ちますか?
A1. インナーブランディングは社員のパーパスへの共感を深め、組織への誇りと一体感を醸成するため、魅力的な職場環境をつくり採用力向上に効果的です。
Q2. インナーブランディングの効果は数字でどのように示されますか?
A2. パーパスを明確にしている企業は従業員の仕事への誇りやエンゲージメント指数が最大40ポイント以上高く、離職率改善や生産性向上に繋がっています。
Q3. どのようにインナーブランディングを始めれば良いですか?
A3. まずパーパスの「わかる化」「語れる化」から始め、従業員が意味を自分ごと化し、実践と組織文化の醸成へと段階的に進めることが重要です。
まとめ 組織文化が内側から進化
インナーブランディングは、従業員がパーパスを自分ごととして捉え、誇りと希望をもって日常業務に活かす状態をつくる戦略的な取り組みです。
その実現には、「わかる化→語れる化→誇れる化→動ける化→連帯化」という5ステップモデルが有効であり、段階的に感情移入と行動変容を促すことが不可欠です。
本質は、パーパスを軸に従業員の意思決定と行動を変え、採用力・営業力・定着率・生産性といった事業成果を高めることにあります。
一方通行の伝達ではなく、意味を再解釈し、自分ごと化し、行動し、称賛し合う循環を生み出すことで、組織文化が内側から進化し、経営の推進力となるのです。