ブランドアイデンティティとは|意味・構築フレームワーク・最新トレンド解説【企業ブランディング・BtoBにも対応】

本記事の要約
ブランドアイデンティティとは何か、その意味・定義やD.A.アーカー教授の体系的フレームワークをもとに、企業ブランド戦略の実践ポイントを丁寧に解説しています。特に従来型から「社会共創型」への転換が求められるとし、企業が社会や顧客とともに価値を創出し続ける時代のブランド構築ノウハウを紹介。企業実務に使えるワークシートや相談受付も用意し、リード獲得に直結する内容です。
目次
ブランドアイデンティティの意味と定義
ブランドアイデンティティは、ブランドの“設計図”とも言える存在であり、商品やサービスがどのような存在でありたいのか、どのような価値を顧客や社会に届けたいのかを示す指針となります。
しかし、このブランドアイデンティティという概念は、ブランディングの中でも特に抽象的で、定義や構造を理解しても実務に落とし込むのが難しいテーマのひとつです。
日々マーケティングや商品開発に携わる実務家にとっても、「言葉では理解できるけれど、どう形にすればいいのか分からない」という悩みを抱えやすい領域です。
そこで、まずはブランド論の第一人者として知られるD.A.アーカー教授の定義を手がかりに、この概念を整理してみましょう。
さらにアーカー教授は、ブランドアイデンティティをより明確に理解するために、こう補足しています。
この説明から分かるのは、ブランドアイデンティティが「企業が意図的に描く理想像」であり、ブランドイメージが「生活者が実際に抱く印象」であるということです。両者は似て非なるものであり、戦略設計の段階で明確に区別する必要があります。
では、どのような“連想”を企業が持てば、強く支持されるブランドを構築できるのでしょうか。アーカー教授は、そのヒントとして「ブランドアイデンティティシステム」という4つの視点を提示しています。
ブランドアイデンティティ構築の4つのフレームワーク
アーカー教授は、ブランドアイデンティティを構築する際の発想の起点として、4つの源泉(視点)を提示しています。それぞれの源泉は、ブランドがどのような価値や物語を顧客に伝えるかを決める“方向性”の役割を持っています。
1. 製品としてのブランド
製品のもつ属性や品質、機能、用途、原産国といった具体的かつ物理的な要素を起点にブランドを構築するパターンです。
例えば、ダイソンは「サイクロンテクノロジー」という特許技術を前面に打ち出し、掃除機市場で差別化に成功しました。単なる“吸引力が高い”という説明ではなく、固有の技術名称をブランドアイデンティティの核に据えることで、他社との差別化が鮮明になっています。
同様に、メルセデス・ベンツは「ドイツのこだわりと伝統」という原産国のイメージをブランドの象徴に据え、“精密・高品質”という世界的評価を獲得しています。
2. 組織としてのブランド
製品ではなく、企業文化や組織の特性、人材像をブランドの源泉とするパターンです。
例えばリクルートは、長年にわたり「起業家精神あふれる組織文化」を体現し続け、その文化自体がブランドの強みとなっています。
また、Googleは「革新性と優秀なエンジニアの集まり」という人材像を打ち出し、その組織イメージがサービスやプロダクトの信頼性にも直結しています。組織の中核にある“価値観”や“働く人の姿”が、そのままブランド価値を形作る好例です。
3. 人としてのブランド
ブランドを人格化し、利用者のパーソナリティやブランドと顧客との関係性を源泉とするパターンです。
象徴的な例がハーレーダビッドソンです。同社は“バイク”というモノ以上に、「一匹狼の生き様に憧れる人」というオーナー像をブランドアイデンティティの中心に据えています。
その結果、単なる移動手段ではなく、“ライフスタイル”や“自己表現の手段”として選ばれる存在になっています。
4. シンボルとしてのブランド
ビジュアルやメタファー、ブランドの歴史や伝統を起点とするパターンです。
例えばコカ・コーラは、赤と白のロゴやボトルの形状によって世界的に認知されています。
ディズニーも「魔法の国」というコンセプトを長年守り続け、ロゴやキャラクター、テーマパークの世界観を通じて、顧客の心に強烈な印象を刻み込んでいます。
企業ブランディングの新潮流「社会共創型」への転換とは
これまでのブランドアイデンティティは、多くの場合、企業が描いた理想像や連想を一方的に市場へ発信する「企業都合型」が主流でした。企業の歴史や強み、経営者のビジョンなどを軸に、トップダウンでブランド像を定義し、それを広告や広報活動を通じて“刷り込む”手法です。
確かにかつては、この方法で十分な成果を上げられる時代がありました。しかしSNSの普及や情報環境の変化によって、生活者は多様な価値観を持ち、自ら情報を発信・共有する主体となりました。その結果、「企業がどうなりたいか」という一方的な語りは響きにくくなり、時には企業の意図と生活者の受け止め方がズレて炎上を招くケースすら出ています。
現代の生活者が本当に求めているのは、「このブランドが社会をどう豊かにしてくれるのか」「社会や環境をどうより良い方向に導いてくれるのか」という具体的な変化の約束です。
言い換えれば、生活者は企業の“夢”ではなく、自分たちのより良い社会像とつながるブランドを選ぶようになっています。
だからこそ、これからのブランドアイデンティティは「社会主導型」である「ブランドパーパス」へとシフトする必要があります。企業発の一方通行ではなく、社会と共に描き、共に実現するブランド像へと進化させることが、信頼と共感を獲得するための必須条件になっているのです。
これは、ブランドの目指すゴールを「企業や商品」に置くのではなく、「より良い社会やライフスタイル」に置き、生活者と共創するという考え方です。
ブランドの将来像を企業側だけで決めない
社会や生活者が共感できるゴールを提示する
ブランド・生活者・社会が同じビジョンを共有し、共創する
こうすることで、ブランドは単なる市場のポジションではなく、社会における存在価値を確立できるのです。
よくある質問(FAQ)
Q1. ブランドアイデンティティとブランドイメージの違いは?
A1. ブランドアイデンティティは「企業が意図して設計する理想像」、ブランドイメージは「生活者が感じる実際の印象」であり、両者を明確に区別することが戦略上重要です。
Q2. 企業ブランディングにブランドアイデンティティが重要な理由は?
A2. 企業の理念や価値観を明確化し、顧客との信頼関係や共感を生み出す基盤となるからです。特に競争が激しい市場では差別化の軸になります。
Q3. 社会共創型ブランドとは何ですか?
A3. 生活者や社会とともにブランドの価値や未来像を共創する最新トレンドの概念です。企業の夢だけでなく社会全体のより良い未来に向けて共感を呼び、支持されるブランドを目指します。
まとめ ブランド戦略の土台
ブランドアイデンティティは、ブランド戦略の土台となる“設計図”です。
企業が意図する価値や連想を明確にし、それを一貫して発信することで、生活者の心に強い印象を残すことができます。D.A.アーカー教授が提示する4つの源泉(製品・組織・人・シンボル)は、その起点となる重要な視点です。
しかし現代では、単に企業が描いた理想像を一方的に伝えるだけでは不十分です。
生活者はブランドに「自分や社会をどうより良くしてくれるのか」という具体的な意義を求めています。だからこそ、これからのブランド構築には、企業都合型から生活者や社会と共に価値を創り上げる“社会共創型”への転換が必要です。
ブランドが描く未来像を社会全体で共有し、共感と共創を通じて実現していく。この姿勢こそが、これからの時代においてブランドが持続的に愛され、支持され続けるための鍵となるでしょう。