ブランド価値とは?顧客の心をつかむ11種類の提供価値で売れるブランド戦略を解説

本記事の要約
ブランド提供価値とは、ブランドが顧客に提供できる「喜び」や「嬉しさ」のことを指します。
自社の強みと顧客の求める価値を明確化し、商品やサービス、体験設計に落とし込むことで、顧客の感情移入を促し、長期的な愛着と支持を得られるブランドへ成長できます。
「ブランド提供価値」という言葉を聞いたとき、あなたはすぐに説明できますか?強いブランドには共通点があります。それは、顧客にとって魅力的で、かつ他では得られない価値を一貫して届けていることです。言い換えれば、ブランドの強さは「どれだけ大きく、深い価値を提供できているか」で決まります。しかし、その価値を正しく理解できていなければ、強化することも、顧客に響かせることもできません。そこで本記事では、ブランド担当者なら押さえておきたい「ブランド提供価値の11の視点」をわかりやすく解説します。あなたのブランドが本当に届けるべき価値は何か、一緒に整理していきましょう。
目次
ブランド提供価値とは?
「ブランド提供価値」とは、ブランドが顧客に提供できる「喜びの度合い」のことを際します。
ブランディングとは、ブランドに対する感情移入を育てていくプロセスです。この感情移入を通じて、顧客が感じる喜びの度合いが高まれば、そのブランドは「思い入れ」や「愛着」を持たれる存在へと成長していきます。結果として、ブランド力も着実に向上していくでしょう。
では、顧客はどのような価値=喜びを受け取ったときに、ブランドへ深く感情移入するのでしょうか?
この答えを理解すれば、ブランド力向上の取り組みは一気に加速します。
この記事では、「ブランド提供価値の種類」を具体的な事例とともに解説します。ぜひ、あなたのブランドの成長戦略やチェックリストとしてご活用ください。
ブランドが顧客に与える実利価値_品質・性能・使いやすさとは
顧客にとって、ブランドから得られる最も基本的な喜びは「実利を得られる」喜びです。
製品やサービスが、日常生活や仕事の中で具体的なメリットや成果をもたらしてくれるとき、顧客はそのブランドに強い価値を感じます。多くの企業が開発や改善に力を注いでいるのも、この実利的価値を最大化するためです。
そして、この実利的価値は大きく4つのカテゴリーに分けて整理できます。
この4つを理解し、自社の製品・サービスがどの領域で優位性を発揮できるのかを明確にすることで、ブランドの信頼性と顧客満足度を飛躍的に高めることができます。
(1)品質価値_ブランドの信頼と安心感を高める基本要素
品質の高さは、ブランドに対する安心感と信頼感を生み出します。
顧客が「品質の悪い商品」より「品質の良い商品」を選ぶのは当然のことです。品質の良さは「長持ちする」「安定して使える」といったポジティブなイメージを連想させ、購入後の満足感にも直結します。
実際、品質はブランド提供価値の中でも最も基本的かつ不可欠な要素です。
私たちASAKOの経験上、この品質価値が欠けている商品やサービスは、たとえ他に優れた提供価値があっても、長期的にはブランド力が低下し、やがて市場からの支持を失っていきます。
ブランドの成長を持続させるためには、まず品質という“土台”を揺るぎないものにすることが欠かせません。
(2)性能価値_ブランドに期待感をもたらす高性能の魅力
性能の高さは、ブランドへの期待感を生み出します。
当然ながら、「性能が低い商品」よりも「性能が高い商品」の方が、ポジティブな評価と関心を集めます。
例えばPCバッテリーを想像してください。
バッテリー持続時間が長ければ長いほど、ユーザーは「長時間カフェで作業できそう」「旅行や海外出張でも困らなそう」といった、自分の可能性が広がる未来を描きます。
この“未来への期待”こそが、ブランド力の大きな源泉です。
性能価値は、顧客体験を向上させるだけでなく、「このブランドならもっと良い体験を提供してくれるはず」という信頼と期待を積み重ねていきます。
(3)ユーザビリティ価値_使いやすさで顧客の習慣化を促進
ユーザビリティ(使いやすさ)は、顧客の「慣れ」と「習慣」をつくり出す重要な要素です。
近年、その重要性は急速に高まっています。市場が成熟し、「品質」や「性能」だけでは差別化が難しくなっているからです。
iPhoneやAmazonを例に考えてみましょう。
多くの人は、操作方法を覚えるために分厚い説明書を読む必要がありません。直感的に使え、すぐに日常の一部になります。
そして一度慣れてしまうと、他の選択肢に切り替えることは心理的にも面倒に感じるようになります。iPhoneユーザーがAndroidを使いにくく感じたり、Amazon利用者が楽天に違和感を覚えるのは、そのためです。
「サービスデザイン」や「CX(カスタマーエクスペリエンス)」といった顧客体験の価値が注目されている今、ユーザビリティはブランド価値を高め、顧客を長期的に惹きつける不可欠な要素となっています。
(4)用途価値_ブランドを日常生活の必需品に拡大
ブランドが提供する「用途」が広がれば広がるほど、その存在は顧客にとって欠かせないものになります。
たとえば、保湿クリーム。かつては「顔用スキンケア」としての用途が一般的でしたが、メーカーの提案によって「全身ケア」「手荒れ対策」「かかとケア」「髪の保湿」など活用シーンが拡大。結果、季節や性別を問わず家庭のあらゆる場所に常備される存在になりました。
スマートフォンも同様です。通話やメールにとどまらず、SNS、Webブラウジング、写真・動画撮影、決済など、用途は多岐にわたります。いまやスマホは日常生活のあらゆる場面に入り込み、手放せない存在になっています。
用途の広がりは、顧客に提供する実利的な喜びを増幅し、ブランドへの愛着を深める最短ルートです。シーン提案を積極的に行うことで、ブランドは「便利だから選ぶ」から「ないと困る」へと進化していきます。
ブランド感性価値_顧客の感覚に響くデザインと個性
ブランドの魅力は、実利的な価値だけで決まるものではありません。
顧客は「左脳的な合理性」だけでなく、「右脳的な感性」でもブランドを評価します。デザイン、色、音、手触り、雰囲気──こうした感覚的な要素が、自分の感性にフィットするかどうかが選択の大きな決め手になるのです。
近年、市場は成熟し、多くの分野で機能や性能といった“実利”による差別化が難しくなっています。もしあなたのブランドが「機能では競合と差をつけにくい」と感じているなら、今こそ感性価値を磨く時です。
感性価値は、理屈では説明しにくいけれど、確かに心を惹きつける力を持っています。その力をどうブランド戦略に組み込むかが、選ばれ続ける鍵となります。
(5)デザイン価値_直感で選ばれるブランドデザイン
ブランドとの最初の接点は、多くの場合「デザイン」です。
パッケージ、ロゴ、色、形──生活者が商品やサービスを目にした瞬間、その印象は一瞬で判断されます。認知心理学によれば、人は初めて触れるものに対して、最初の0.2秒で直感的に取捨選択し、その後の0.2秒以降で合理的に検討すると言われています。
つまり、この最初の0.2秒で「直感的に選ばれる」存在になれなければ、その後の比較検討すらしてもらえません。市場には無数の競合が並ぶ中、デザインはブランドを選びやすくするための最初の関門なのです。
さらに、そのデザインが生活者の感性にフィットすれば、「自分らしさに合う喜び」を感じてもらえ、長期的な愛用やブランドへの愛着につながります。
デザインは単なる見た目ではなく、直感と感性の両面からブランド価値を高める強力な武器なのです。
(6)パーソナリティ価値_共感を呼ぶブランドの人格と個性
もしあなたが「持続可能な暮らし」に関心を持っているなら、その価値観を誠実に体現するブランドに自然と好感を抱くはずです。
また、「型にはまらず自由に生きたい」と思うなら、挑戦的で個性的なブランドに惹かれるかもしれません。
このように、ブランドの“個性”は生活者にとって「自分ごと」として感じられるストーリーの入口になります。この個性を形づくるのがブランドパーソナリティです。
同じ「人々に勇気を届ける」というパーパスを掲げていても──
親しみやすいユーモアで後押しするのか
誠実な対話で静かに背中を押すのか
革新的なアイデアで世界観を切り拓くのか
届け方のニュアンスひとつで、受け取る感情も印象も大きく変わります。
心理学には「類似性の法則」というものがあり、人は自分と似た価値観や感性を持つ相手に親しみや信頼を抱くと言われます。ブランドも同じです。生活者が「このブランドは自分に近い」と感じた瞬間、競合比較を超えて“指名で選ばれる”存在になれるのです。
ブランド感情価値_購買につながる感情的満足と体験の重要性
近年、「ブランド体験価値」という言葉を耳にする機会が増えています。その体験価値を語る上で欠かせない視点が、感情価値です。
人はモノだけでなく、その先にある“満たされる感情”も買っています。つまり感情価値とは、商品やサービスを通じて顧客が得られる「感情的な満足」のことです。
これは単なる機能やデザインを越えて、嬉しさ、安心感、誇り、ワクワク感など──人は購買の瞬間に、こうした感情も一緒に手に入れているのです。
この感情価値は、ブランド力を長期的に高めるうえで極めて重要な要素です。なぜなら、感情的なつながりは理性的な比較を超えて「また選びたい」という行動を生み出すからです。
ここからは、ブランドの感情価値を形づくる2つの価値について解説していきます。
(7)実感価値_五感に訴えるポジティブなブランド体験
実感価値とは、商品やサービスを通して得られる「確かな手ごたえ」や「前向きな気持ち」を生む価値のことです。
それは数値や機能だけでは測れない、“五感”や“感情”に直接訴えかけるブランドの力ともいえます。
例えば、野菜ジュースにあえて「野菜の切りくず」を混ぜることで「ちゃんと野菜を摂った」という安心感を提供するブランドや、高級車のドアを閉める際に低く重厚な音を響かせることで「高級車を所有している」という誇りを感じさせるブランドがあります。
これらはすべて、実際に体験したときの「満たされた感覚」が、ブランドへの愛着や信頼につながっているのです。
実感価値は、生活者がそのブランドを選び続ける大きな理由となります。単なる機能やデザインを超え、ブランドを“自分ごと”として感じさせるための重要な要素です。
(8)体験価値_顧客の記憶に残るブランド体験と物語の演出
体験価値とは、商品やサービスそのものの価値に加えて、「どのように提供されるか」というプロセスから生まれる喜びや感動のことです。
同じ商品でも、提供のされ方によって受け手の感情は大きく変わります。たとえば、ティファニーの指輪をプレゼントする場合を考えてみましょう。
本店で恋人と一緒に選び、手厚い接客を受け、特別な時間を共有する――そんな体験は、単なる指輪の価値を超え、忘れられない思い出となります。
一方、同じ指輪でも、ディスカウントストアで購入し簡易包装で渡す場合、モノとしての価値は同じでも、感動の深さはまったく異なります。
ブランド体験価値は、モノに“物語”を与えます。
人はモノを買うとき、同時にその背景にある時間・空間・感情も受け取っています。だからこそ、ブランドは「商品を通じて、どんな体験を提供できるか?」を設計する必要があるのです。
その体験が感動を生み、やがてブランドへの強い愛着へと変わっていきます。
ブランド価値観価値_顧客の自己表現と社会貢献
あなたは人生を生きていく上でどのような価値観をお持ちでしょうか?
「常に革新的な自分でありたい」「挑戦者でありたい」「どんな時も遊び心を大事にしたい」「人の輪を大切にしたい」…。
もし、あなたが明確な価値観をお持ちなら、あなたの言葉や行動、あるいはモノの選び方は、その価値観に影響を受けているはずです。そしてその「価値観」がブランドに結び付いたとき、ブランド力はより強いものになります。
(9)自己表現価値_ブランドで顧客の自分らしさを表現
あなたが大切にしている価値観――それは、どのように表現されているでしょうか。
言葉や文章、日々の行動だけでなく、実はあなたの「持ち物」や「選ぶブランド」もまた、自分らしさを映し出す大切な手段です。
もし自分と同じ価値観を体現するブランドに出会えたら、それは単なる商品やサービスを超えた存在となります。そのブランドを手にすることで、「これは私の生き方を映すものだ」という誇らしさや充足感を得られるからです。
自己表現価値とは、ブランドを通して自分の価値観やアイデンティティを社会に示すことができる喜びのこと。
一度「価値観レベル」で感情移入が起きれば、そのブランドは代替不可能な存在となり、長期的な愛着と支持を集め続けます。
(10)自己実現価値_ブランドと共に理想の自己に近づく喜び
人は誰しも、「こうありたい」という理想像を心の中に描いています。
それはキャリアの成功かもしれませんし、健康的でアクティブなライフスタイルかもしれません。あるいは、知性や教養、社会貢献といった精神的な豊かさかもしれません。
自己実現価値とは、ブランドやその商品・サービスを通じて「理想の自分」に一歩ずつ近づける喜びのことです。たとえば、ランニングシューズを購入することが単なる運動の道具ではなく、「マラソン完走という夢への第一歩」として感じられるとき、そのブランドはあなたの自己実現のパートナーとなります。
この価値がブランドにもたらす力は計り知れません。顧客は単にモノを買うのではなく、「未来の自分」や「叶えたい目標」を買っているからです。
そして、その成長や達成感を共に歩んだブランドは、生涯にわたって特別な存在として記憶され、支持され続けることになるのです。
(11)社会実現価値_ブランドと共に創る持続可能でより良い社会
近年、SDGsの浸透やソーシャルメディアの発展により、「社会貢献」や「持続可能性」への意識が高まっています。もはやブランドは、単に市場でのポジションを築くだけでは共感を得にくく、「社会の中でどんな役割を果たすのか?」という視点が不可欠です。
社会実現価値とは、ブランドが掲げる「より良い社会に向けたパーパス」に共鳴し、その実現に参加することで顧客が感じる喜びです。
たとえば、環境負荷を減らす製品を選ぶことで「地球環境の保護に貢献している」という満足感を得られるように、ブランドの取り組みと顧客の価値観が重なると、その共鳴は深い感情移入へとつながります。
さらに、ブランドが顧客を巻き込み、社会的なゴールを共に目指す「共創」の姿勢を持てば、生活者は単なる顧客を超えて“仲間”として関わるようになります。
こうして生まれる「社会を一緒に良くしていく喜び」こそが、ブランドに求められる価値の一つなのです。
よくある質問(FAQ)
Q1:ブランド提供価値とは何ですか?
A1:ブランド提供価値は、顧客がブランドから感じる「喜びや嬉しさ」のことで、実利的価値や感性価値、感情価値、価値観価値の4つに大別されます。
Q2:ブランドの実利価値にはどんな種類がありますか?
A2:品質価値、性能価値、ユーザビリティ価値、用途価値の4つがあり、顧客にとっての具体的なメリットや満足を生みます。
Q3:なぜブランドの感情価値が重要なのですか?
A3:感情価値は、顧客が実際に感じる満足感や感動であり、理性的な比較を超えて繰り返し選ばれる行動を生み出すため、長期的なブランド力強化に不可欠です。
まとめ 一貫して届け続けること
ブランド力を高めるためには、顧客にとって魅力的で、他では得られない「ブランド提供価値」を深く理解し、それを一貫して届け続けることが不可欠です。
今回紹介した11の視点――実利・感性・感情・価値観の各価値は、いずれも単体で機能するものではなく、組み合わせることでより強固なブランド体験をつくります。
重要なのは、「自社がどの価値で優位性を発揮できるのか」「顧客が本当に求めている価値は何か」を明確にすること。そして、その価値を言語化し、製品・サービス、コミュニケーション、体験設計のすべてに落とし込むことです。
ブランド提供価値を正しく理解し戦略化できれば、顧客の感情移入を生み、長期的な愛着と支持を得られるブランドへと成長していくでしょう。