ブランド戦略・パーパス・サステナビリティ
2025.09.15
PEST分析のやり方と事例|企業戦略・ブランド戦略に強い外部環境調査法【実践ステップ/FAQ付】

本記事の要約
PEST分析は、政治・経済・社会・技術の4視点から外部環境を捉え、ブランドやマーケティング戦略の根拠を与えるフレームワークです。法改正や経済動向、価値観の変化、技術革新などは、一企業の努力だけで抗えない「環境の大潮流」であり、この流れを軽視すれば戦略は時代遅れとなる恐れがあります。的確なPEST分析は機会や課題を明確にし、組織の合意形成と持続的成長を可能にします。
目次
PEST分析とは何か?外部環境調査の基礎と活用法
あなたは今、ブランド戦略やマーケティング戦略を立てようとしているかもしれません。そしてその戦略をもとに、プロモーションや商品開発、チャネル戦略などのマーケティング施策を練っていくことでしょう。
でも、少し立ち止まって考えてみてください。その戦略、本当に「今の時代に合っている」と、自信を持って言えるでしょうか?
どんなに練られた施策も、世の中の潮流とのズレがあれば、驚くほどあっけなく失敗します。たとえば、かつては成功した戦略が、社会の空気が変わったことで急に“古くさい”ものに見えてしまう。そんな場面を、あなたも目にしたことがあるのではないでしょうか?
だからこそ、あらゆるブランド戦略の出発点として欠かせないのが「PEST分析」です。
まずは「PEST分析とは何か?」について、解説していきましょう。
あなたは、自社が「どんな未来に向かって進んでいるのか?」を、明確に言葉にできるでしょうか?
ブランドとは、「時代の中で、私たちはどんな役割を果たすのか?」という問いに対する、一貫した答えです。
その答えを見つけるために、まず取り組むべきなのが、世の中の変化を読み解くこと。つまり、“環境変化に対する理解”です。そのための起点となるのが、PEST分析というフレームワークです。
PEST分析とは、「政治的変化」「経済的変化」「社会的変化」「技術的変化」の4つの視点から、世の中の潮流を読み解き、ビジネス機会を発見するためのフレームワークです。
P:Politics(政治的変化)
法規制・行政政策・政治動向など、ルールの変化に関する変化
E:Economy(経済的変化)
景気・物価・為替・雇用など、経済構造やお金の流れに関する変化
S:Society(社会的変化)
人口動態・生活意識・価値観・文化など、生活者側の変化に関する変化
T:Technology(技術的変化)
商品開発・生産・マーケティングに関わるテクノロジーの変化
これらを見れば、PESTはあなたのビジネスの「根底」に影響を及ぼしかねない要素であり、決して軽視できないことがわかります。
なぜPEST分析が企業戦略・ブランド戦略で重要なのか
とはいえ、実際のビジネスの現場では、PEST分析が後回しにされがちなことも事実です。その理由は明白で、「目の前の売上に直結しないから」です。
広告のABテストやSEO対策、インフルエンサーマーケティングなど、施策単体では“すぐに数字が動く”ものが好まれがちです。一方で、PEST分析のようなマクロ視点の分析は、それをしたからといって「今すぐ売れる」わけではないため、どうしても優先順位が下がってしまうのです。
しかし、その姿勢こそが危ういと言えます。なぜなら、PESTの各要素は、一企業の努力では変えられない「環境の大潮流」だからです。
政治的要因(P): 法改正や規制強化は、業界全体の競争構造を一変させる
経済的要因(E): 景気動向や金利、為替の変動は、購買行動に直結する
社会的要因(S): ライフスタイルや価値観の変化は、ブランドの存在価値を変える
技術的要因(T): 技術革新は、ビジネスモデルそのものを陳腐化させる
これらを見ると、PESTはあなたのビジネスの「根底」に影響を与えかねないインパクトを持った要素であり、決しておろそかにできないことがわかります。
また、PESTは「世の中の大きな潮流」であるために一企業の努力だけで抗うことは難しいため、いかに世の中の流れを正確に読み解き「その流れを味方につけるか?」という視点が重要になります。
PEST分析が戦略の根拠となる理由
もう少し実務的な観点で言えば、PEST分析は「戦略の正当性を説明する材料」にもなります。
もしあなたがマーケティング担当者なら、様々な施策を思い描いているはずです。しかし、もしあなたの上司から「なぜその施策に予算を使う必要があるのか?」と問われたとき、あなたはどう答えるでしょうか?
おそらくあなたは「戦略に沿った施策だから」と答えるはずです。あらゆる施策は戦略に沿ってなされる以上「戦略に沿っている」こと自体は正解です。しかし「なぜその戦略をとるべきなのか?」と問われたとき、次はどう答えるでしょうか?
あらゆる戦略は「機会をとらえる」か「課題を解決する」ために行われます。そして「機会をとらえる」にせよ「課題を解決する」にせよ、なぜそれらを「機会(あるいは課題)と見なすのか?」が説明できなければ、今度は戦略の必要性自体を説明できなくなってしまいます。
ここからわかる通り、PEST分析がない限り、そこから生じる機会や課題を説明することができません。そして機会や脅威を説明できなければ、戦略を説明することができません。さらに戦略を説明できなければ、施策の正当性を説明することもまた、できないのです。
ここまでお読みになって、勘のいいあなたならお気づきのはずです。もしあなたがPEST分析をおろそかにしてしまったら、あなたが考える様々な施策は、根拠を説明できないため社内を通りません。あるいは通ったとしても、機会や課題に基づいていないため、全く的外れな施策になってしまう懸念があります。
どんなに優れた戦略や施策も、それらを成り立たせる前提(=機会・課題)が間違っていれば的外れなものになります。「PEST分析」は、あらゆる戦略・施策の前提となるため、決しておろそかにしてはならないのです。
PEST分析の分析項目・具体例と実践ステップ
ここからは、PEST分析の基本である4つの構成要素について深掘りしていきましょう。
(1)政治的変化-PEST分析におけるPoliticsの考え方
PEST分析における P(Politics:政治的要因) とは、法律・条例・規制など、行政レベルで定められるルールの変化を指します。具体的には、次のような例が含まれます。
新たな補助金・交付金制度の創設
業界への規制強化や緩和
判例やガイドラインの見直し
経済安全保障政策による輸出管理や取引制限
関税率の引き上げ・引き下げや通商協定の改定
政治的変化は、時にブランディングやマーケティングの前提となる「市場競争のルール」そのものを変えてしまいます。
特に近年は、経済安全保障の観点から特定国や特定企業との取引が制限されるケースや、関税政策の変更によって輸出入コストやサプライチェーン構造が大きく変わる事例も増えています。
こうした変化に対応する上で重要なのは、単なる法令遵守にとどまらないことです。むしろ、それらの制約や制度変化を「未来への変革機会」として捉え、自社の調達戦略や市場開拓戦略、ブランドの価値提案に組み込む姿勢が求められます。
そのためには、政治的変化が自社のビジネスモデルやブランド戦略にどのような影響を及ぼすのかを、グローバルな視点で正確に見極めることが不可欠です。
(2)経済的要因-PEST分析で捉えるEconomyの視点
経済的変化とは、景気や物価、金利、為替、雇用、株価など、社会全体の経済環境の変動を指します。具体的には、次のような事象が挙げられます。
原材料価格の高騰
為替の変動
金利の上昇
株価の上下動
物価の上昇
これらは一見すると日常業務から遠い話のように思えるかもしれませんが、実際には企業の価値創造活動にじわじわと、そして確実に影響を及ぼします。
調達、生産、価格設定、販売、プロモーション、チャネル戦略──つまり、企業活動の“川上から川下”まであらゆる意思決定に、経済的変化は波紋のように広がります。
経済的要因が重要なのは、それが時にブランドの価値連鎖全体に影響を与えるからです。単に「景気が良いか悪いか」といった表層的な判断ではなく、「今の経済環境は自社にとってどんな意味を持つのか」という視点で経済指標を読み解くことが求められます。
たとえばインフレが続く局面では、「コスト上昇をどう吸収するか?」だけでなく、「価格が上がっても選ばれる理由を持てているか?」という問いに向き合う必要があります。
つまり、経済的変化は価格戦略だけでなく、ブランド価値そのものを再定義するきっかけにもなるのです。
(3)社会的要因-Society変化を企業戦略に落とし込む
社会的変化とは、人口動態や生活者の価値観、ライフスタイル、文化、働き方など、人々の暮らしを取り巻く環境の変化を指します。具体的には、次のような動きがあります。
単身世帯の増加・高齢化の進行
女性の社会進出と共働き化
若い世代の価値化の変化
多様性と包摂の価値観の浸透
ウェルビーイング志向の高まり
これらは単なる「生活スタイルの変化」ではなく、「何を信じ、何に共鳴し、何に時間とお金を使うのか」 という価値観の変化そのものです。
PEST分析における S(Society:社会的要因) は、流行やトレンドを集めることが目的ではありません。むしろ、それは 「今の社会において、自社のブランドは、どのような価値を語るべきか」 を考えるための出発点となります。
(4)技術的要因-PEST分析で読むTechnologyの変化
PEST分析のT(Technology:技術的要因)とは、商品開発や生産、マーケティングなどに関わる技術の進化や変化を指します。
テクノロジーの進化は、あらゆる業界のビジネスモデルだけでなく、ブランドの存在価値そのものにも影響を与える“地殻変動”のような力を持っています。商品開発から流通、マーケティング、顧客接点に至るまで、その影響範囲は非常に広いのです。
代表的な変化の例としては、以下が挙げられます。
生成AIの爆発的普及(ChatGPT、Midjourneyなど)
アルゴリズム主導の購買体験
UGC(ユーザー生成コンテンツ)の拡大
OMO(Online Merges with Offline)の進化
技術的変化の視点は、「未来からの要請を読み解き、自社の次の姿を構想するための入口」です。重要なのは「どの技術を使うか?」ではなく、「その技術を通じて、企業が社会にどんな意味や価値を提供できるのか?」という問いに答えることです。
テクノロジーは単なる手段ではなく、ブランドが未来とつながり、時代に選ばれ続けるための基盤となるのです。
よくある質問(FAQ)
Q1. PEST分析はどんな企業戦略やブランド戦略に向いている?
A: PEST分析は、事業拡大や新市場参入、ブランド再構築時など外部環境の変化を見極めて施策を考える全てのビジネスシーンに役立ちます。
Q2. PEST分析の実践ステップや項目例は何か?
A: 技術/経済/政治/社会など4視点ごとに、市場規制や消費動向、技術革新などを整理し、自社に与える機会・脅威を見出します。
Q3. 他社(競合)と差別化するPEST分析活用法は?
A: 外部環境の変化を自社事業に落とし込み、新しい価値提案や顧客獲得施策に繋げることで、競合より優れた戦略策定が可能です。
まとめ PEST分析を活用した企業の成長戦略と今後のポイント
PEST分析は、単なる環境分析のフレームワークではなく、あらゆるブランド戦略・マーケティング戦略の土台となる“羅針盤”です。
政治・経済・社会・技術という4つの視点から外部環境を読み解くことで、自社の存在価値を今の時代に合わせて再定義し、将来に向けた成長機会を見出すことができます。
この分析を軽視すれば、戦略は根拠を失い、施策は組織を動かす説得力を欠き、場合によっては時代遅れの取り組みに陥るリスクすらあります。
一方で、PEST分析を通じて「なぜ今この戦略が必要なのか」を明確にできれば、社内外の合意形成がスムーズになり、変化を味方につけたブランドづくりが可能になります。
時代の潮流は、一企業の努力だけでは変えられません。しかし、その流れをいち早く読み、柔軟に舵を切ることはできます。PEST分析は、そのための出発点であり、未来に選ばれるブランドを築くための不可欠なプロセスなのです。